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プロローグ

 ここから始まるのは、一人の青年の物語。


 杜撰な運用で致命的ともいえるバグを抱えた“サモン術式”がもたらした悲劇と、その結果巻き込まれる形で異世界に来てしまった男の生き抜く生の記録。


 さあ、語るとしよう。書き出しは――――そう、だな。「サモン術式がバグったから、異世界を好きに生き抜く」話だから…ええい、面倒だ。省略して「サモバグ」を始めよう。




――――地球とは別のどこか違う世界の一つ――――


?歴????,????皇国首都?????・王城 召喚の間



 「ええい、まだか!まだ準備は終わらんのか!」白い髭の目立つ神官が怒号を発した。


「神官様!この部分の解読が出来ません!」分厚い本を片手に召喚士が悲鳴を上げた。


 彼等は古い超次元召喚型虚無空間魔力濃縮付与術式…異世界召喚魔方陣を復旧しようとしている。長ったらしい言い回しから、この魔法が本来他の目的で作られたことを読み解くことができるが、残念ながら機能を読み解くので精いっぱいのようだ。



「何ィ!?消して構わん、召喚さえできればよい」


「で、ですが―――」


「ローレンツ教皇の命令である!一刻も早く完成させよ!」


 召喚士たちは渋々、納得のいかないような表情をしながら魔法文字(マジック・ルーン)の一部を消し、理解できる魔法構文(マジック・ワード)を書き込んだ。本来ならばこのような行為は魔法の動作に影響を及ぼし術式を不安定にする禁忌(タブー)なのだが、「速やかに召喚を行え」という教皇の指示の一部分を強調して無理矢理ペースを上げさせた。報奨金と手柄、名誉に目がくらんで焦っていたのだろう。


無知は罪。私利私欲のために行われる不正によって、至高の英知の結晶は劣化改悪されてしまった…




とにかく、魔方陣は起動?した。火花が飛んで不快な音を発し、歪んでいて本来ならば均一なはずの発行が不気味に揺らめいているが魔力は消費している状態を正常な起動というのなら。暴走ともいう。バグってるともいう。寧ろそうとしかいわない。





 47地球時間後――――η側の時間で丸3日が経過してようやく進展があった。

本来の設計では1人かつごく短時間で効果を発揮する術式のはずなのだが、さながらプログラミングでのタイプミスによるエラーにまみれた状態なので致し方ない。


 発生する白煙(本来ならばこんなものは出ない)が立ち込める。そして、その中に人影が4つ(・・)現れた。話し声が聞こえる―――



「大丈夫だ、君は俺が守る!」

「翔君・・・」

ヒーローもののテンプレ的セリフを吐いたこの少年が中野翔(なかのかける)、テンプレ的イケメン&テンプレ的性格のテンプレ的キャラだ。テンプレがゲシュタルト崩壊して一瞬テンプラになったのは気のせいだ。同然リア充、非リアの声を代弁して・・・ンッンー、 爆 ぜ ろ !

「いい加減にせい!!」

ハッ憑依していた何かが落ちたような…彼女は西村朱雀(にしむらすざく)。いつも暴走するバカップルの翔とヤンデレの気がある佐藤あかりを止めるべく絶妙なタイミングでツッコミを入れる。

「」

朱雀の影で震えている少女が望月遥(もちづきはるか)、臆病な性格で小動物のような印象を受けさせる。


以上、【勇者】として召喚された4名。だが、これで召喚されたものがすべてだとは一言も言っていない。―――“もの”が平仮名なのは本来この魔方陣が物を送るために作られ、アップデートの途中である試作品だからだ―――異世界から()ばれたのは5人なのだが・・・おいおい話そう。





【バグに巻き込まれた】1名が別のところにいるのだ。





「そなたたちは魔王を倒す力を持った、選ばれし勇者なのじゃ。余はメルヴィス皇国教皇メルヴィス=レティクル=ヴァン=ローレンツであるぞ。勇者諸君、先ずは余に忠誠を誓いたまえ。さすれば、世界の真理を教えて進ぜよう。」


「魔王?魔王がいるのか!!?」


年相応にはしゃぐ翔。RPGゲームは大好きで、勇者に少なくない憧れを抱いている。


「そうじゃ。今、世界は魔王によって滅亡の危機にあるのじゃ。」




「要は魔王を倒せばいいんだな」


違う、そうじゃない。静観することもできたが、ここまでひどいと思わず伝わらなくても声を荒げてしまうというもの。世界の現状とか聞くことが他にあるだろ?設定とか説明書を無視してプレイしながら確かめるタイプだからって・・・


「その通りじゃ。」(何か都合のいい勘違いをしてくれているよのう。全行程して手綱を握れば後々楽かのう)


「これはゲームちゃうんねん。命を懸ける覚悟でけてへんやろ?」(戦い…ややわぁウチ…)

元々動物が好きな彼女はRPG系のゲームが嫌いだ。ここでいうのは“相手の”命についてであり、まだ当事者としての自覚が足りない。


「それは…そうだけど…」


「翔君、この世界の人を見捨てるの?」


あかりが翔=完璧超人聖人君子であると信じて疑わないから発せられた台詞なのだが、それは理想の押し付けだ。大丈夫だろうかこの集団。


「そんな訳ないじゃないか!俺、魔王を倒して見せます!」

押しに弱い系テンプレ主人公かな?


「しゃーない。ほな、うちもついていくで!」

なんだかんだ言って、退屈な日常が劇的に変わったのだ。興奮しないはずもない。




「」(怖い。ヤダ、帰りたい。なんでみんなそんなにのんきなの?)



こうして、勇者一行(1名を除く)は魔王を倒す決意を固めた。全員まだ14歳で完全に異世界に飲まれてしまい、決意の後ろに(笑)を付けた方が良かったレヴェル。レベルのスペルはlevelであり、レヴェ()ルで合っている、これはどうでもいい。


問題は後に取っておいたもう一人の被召喚者の方である。


――――――――――


西歴20XX,日本国政令指定都市札幌


「はあぁあああぁ~~」


この世の幸せの半分くらいが逃げていきそうな盛大な溜息をついた青年、黎明望(れいめいのぞみ)。16歳、ぼっちである。


何故か昨日から、身の回りの機器が次々に故障するという災難に見舞われている。


『まったくツイてないな・・・切符は使えなくなるわ、時計は機能しないわ、果ては電車のドアが閉まらなくなる。ついでに自動ドアが5回に1回くらい反応しない・・のはいつものことか。』


 彼は、勇者が召喚される予定だった場所を47時間47分前に通過していた。その結果、召喚のエネルギーが強力な磁気フレアを発生させ、電子機器を破壊している。幸い、エネルギー供給が不安定なので改札・家電・列車の駆動系には大きな影響はなかった。彼の名誉のため、体温が低いのと黒っぽい服装その他の関係で若干赤外線への反応が落ちているだけで、決して彼の影が薄いためではないことを言っておこう。




 47分後、召喚の時が、術式が起動する時刻がやって来てしまった。


家の中だというのにクソ明るくなってきて、異変を感じてすぐに寝転がっていたベットの足から引きずり込まれ始めた。「オオイおいおいまじかよ嘘だrrrr」“ろ”と言い終わる前にすっぽりと飲み込まれた。その間の0.1秒ほどの間に『今度はなんだよ!?最近web小説でよく見る異世界召喚って奴か?いや、お約束の魔方陣らしきものは見えないし、いや魔法陣が接続先の世界にも表れるっていうのがそもそもおかしかったのでは?某スキマ妖怪の奴みたいに。うん、納得』などと考えていた。


「くっ―――――」


実際に取れた行動は咄嗟に目を瞑るくらいなので考えたところで無意味であった。

そして、望の意識は暗転・・・しない。


「あぐぁ!>!@q3]q1\!!!!!」


突如として体に襲う痛みに、大急ぎで目を見開いた。いや、見開こうとした。


『右目と左目の感覚がおかしい、光か空間がへそ曲げたのか!!?』


痛みは治まらない。それどころか、同時に開こうとした目にタイミングのずれがあるうえ、自分の花が二重三重に見える始末だ。被害者の目線に移行しよう――――




[/#%%&z+88y=~~rang;?\'!■■■―言語理解能力の付与を実行 成功]


[システム言語理解能力の剥脱 失敗]


[再試行:システム言語理解能力の剥脱 失敗]


[強制スキップ]


なんだこれ。何か見えてきた。最初は訳がわからなかったけど、途中からわかるようになったのは“言語理解能力”のおかげだろう。


[転移時の肉体の保護 一部失敗]


[エラー:続行不可能]


さっきから体が痛いのは、保護がうまくいってないからか。なるほど。いや、なるほどじゃねーよ!!(セルフツッコミ)仕事しろよ召喚者ああぁ!!


[深刻なバグが発生しました:深刻なバグが発生しました:深刻なバグが発生しました:深刻なバグが発生しました:深刻なバグが発生しました]


召喚者ああああ!?このまま召喚されるのはヤヴァイ。とっさに、その場でありったけの精神力を使って、足場をイメージした。途端に流れていた視界が止まったが次の瞬間、僕はまた眼を閉じた。まさに混沌(カオス)をそのまま描いたような光景が広がっていた。


せめて、自分がどうなっているかぐらいは何とかわからないのか!?


瞬きをしようとして閉じた瞼は、固まったように動かなくなってしまった。

[空間構成実行中]


[4次元空間構成・・・完了]


[WARNING:エネルギー流量不足]


[150m四方に結界面限界を縮小]

[ERROR:不明な長さ]

[θシステム:SI単位系を支援メモリにロード]

[再度実行]

[完了]


[θシステム:“世界の狭間”にアンカーを設置、召喚シークエンスを一時停止]

[ERROR:停止不可能]












何だここ。どうなっているんだ。




頑張って両目をこじ開けて目に入る情報は、とりあえず歪んで見える視界がすっきりしたことだけ伝えてくれた。


この空間・・・一応しっかり見える範囲・・・は、大きさ数百メートル四方の箱のような形で、その外側には混沌が広がっていた。


自分の体を確認してみる。


手は動く(ぐっぱー)首も動く(ぐりぐり)目も問題ない(ぱちぱち)足は…あれ?


恐る恐る自分の下半身があったところに目を向けると、何もなかった。なんとなくわかってた。腹回りからくる傷み、そこから下の反応がなかったし。


切断面は、思いのほかきれいだった。もっとスプラッタな感じをイメージしてたのに。何この膜、うっすら光ってるし。ファンタジーでおなじみの結界かな?

[dark][shield:modifier-barrier][homing][unconscious:control able][]

待てよ、これで足の代わりを造れないか?論より証拠、2本の円柱をイメージしてみた。



すると、膜は伸び始め、それっぽい形になった。あ・・れ?なんだか、すごく、疲れ・・て・・


[WARNING!!WARNING!!:召喚に失敗しました。]




[転送先座標の捕捉不可能]




[召喚に失敗しました]




[召喚に失敗しました:召喚シークエンスを終了します。]




薄れゆく意識の中、いかにもな魔方陣を見た気がした―――

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