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ベルとの出会い

・子どもへの虐待とも言える描写が含まれておりますので、ご注意下さい。


・他にも残酷描写がありますので、苦手な方はお読みになられないようご注意下さい。





「微かに息があります」


 頑張っていたがついに限界を迎え、呼吸を止めることができなくなった息子カートルは、離れた場所に立つ私から見ても大きく体を動かし、呼吸を繰り返している。

 呼吸を止めて苦しかったからこそ、大きく体が動いているというのに……。それを微かだと表現する医師が理解できなかった。


「そ、それは良かった……。す、すまない。勘違いだったよう……」


 嫌な予感がしたので媚びるように笑いながら、腕を伸ばしつつ一歩踏み出せば、途端に前方に立っていた兵士たちが動き行く手を塞ぐよう、二人で槍先を使いバツの字を作る。



「一歩も動かないようにと命令したはずです」



 医師の隣に立つ女が、初めて見た時と変わらぬ冷たい眼差しのまま言い放つ。


「かわいそうに……」


 女はしゃがみこむと、カートルの頭を撫でる。


「こんなにも息も絶え絶えで……。命令を忘れたご両親の責任ね……」


 そう言うと『妻』である女、シエンが短剣をカートルの心臓に突き刺した。

 途端に私の隣に立っているカートルの母親であるベルが泣き叫び、カートルへ駆け寄ろうとするが兵士たちが阻止する。私は声も出なかった。

 まさか本当にやるなんて……。しかも子ども相手に……。がくりとその場で膝をつく。


「遺体を運びなさい」

「はっ」


 兵士に伝えると、シエンは医師と共に部屋を出た。

 命令を受けた兵士は、本当に息をしなくなった息子を抱え部屋を去った。

 錆びついた蝶番の鳴る音とベルの狂乱する泣き声が響く中、残された二人の娘が不安そうな顔で尋ねてくる。


「お父様……。お兄様、本当に死んだの……?」

「お兄様だけどうして連れて行かれたの……? あたしも外に出たい……」


 両目を揺らし、見つめてくる二人の娘。

 甘かった……。子どもなら見逃してくれると思った私たちが甘かった……。

 なにも答えず両手で顔を覆う。


「ねえ、ねえ、お父様……。お兄様だけ、どうしてお外に出られたの……?」


 二人の娘の妹であるリーリは、なおも体を揺すってくるがなにも答えられない。姉のランティは母親であるベルのスカートの裾を握り、『泣かないで、お母様……』と声をかけている。

 一体どうしてこうなったのか……。悔んでも悔やみきれない。


 私はどこからなにを間違ったのだろう……。


◇◇◇◇◇


 私には幼い頃より婚約者がいた。それが高い軍事力を誇る強国イムリウムの姫、シエンだった。

 常に隣国の侵略行為から自国を守っている我が国にとって、両国の友好関係を強固のものとし、万が一の時はイムリウム国からの助勢を約束するための婚姻。だからより結びつきを強くするために、第一王位継承権を持つ私が第一王女シエンの婚約者に選ばれた。


 彼女とは婚約が決まった幼い頃に一度だけ会い、それから結婚直前まで顔を会わすことはなかった。二国間に距離があるからと、私が会うことを拒んでいたのだ。ただ一応婚約者として手紙や誕生日の贈り物などを定期的に交わし、近況等を報告し合っていた。

 近況とはいえシエンからの手紙の内容は実に退屈で、やれ花が美しい、やれ町の様子がどうだと書かれており、興味を抱かせてくれる内容ではなく、いつも適当に読み流していた。

 魚釣りを楽しんだと記されていた時はさすがに驚いたが……。姫としての資質を疑う振舞いだと、すぐ眉間にしわを寄せた。


 私は私で、将来はこういう王になりたい。こういう国を作りたいと未来を描く内容が大半で、毎回似た内容だからきっとシエンも適当に読み流していただろう。


 シエンは私の国には珍しい黒い髪の毛の持ち主で、ブルーの瞳と相まって、冷たく暗い第一印象を抱かせた。しかも表情が乏しかったので、そのせいか形式的な文をやり取りしても全く情が湧かず、むしろ結婚に対して憂鬱にさえなっていた。だからいつも理由をつけ、彼女と会おうとしなかった。


 だが国のために彼女と結婚しなくてはならない。なにしろ私は第一王位継承権を持つ王子なのだから、個人のわがままは許されない。

 隣国は虎視眈々と領地拡大を狙っており、隙あれば我が国を攻めようと企んでいる。

 それを抑制するための結婚。国や民を守るためで、そこに愛はなく拒否権もない。仕方ないとはいえ、時々しがらみから逃げ出したいと若いころ思っていた。そこを付けこまれたと知ったのは、つい数日前のこと……。


◇◇◇◇◇


 シエンとの顔合わせから数年後、生徒全員が寮生活を送る学校生活で、子どもたちの母であり後に側室となるベルと出会った。

 彼女の父親は軍に所属しており、山賊撃退に貢献した働きにより一代限りの男爵となった。その為、一応貴族の娘となったのでベルも私と同じ学校へ入学してきた。

 それまで父親が軍に所属しているとはいえ、貴族社会と縁のなかったベルは、貴族や王族のみが集う校内で異質の存在だった。本来入学すれば顔見知りばかりで、知り合いが一人もいない方が珍しい。彼女はその珍しい者だった。


 私より一つ学年が下の彼女は、入学式の最中でもおどおどして落ち着きなく辺りを見回していた。生徒会長として檀上に立ち、新入生に祝辞を述べる私の目には残念な意味で目に留まった。

 だが明るい栗色の柔らかそうな髪の毛が、辺りを見渡すたびに揺れる。ふわり、ふわり。その動きがなぜか気になって仕方なかった。


 思えばそれが彼女を気にするきっかけだった。


 ベルが貴族の娘となって日が浅いので誰も知り合いがいないと知り、生徒会長として放っておけないと思った。

 そこで私の将来の側近候補で友人でもあったヘロスの婚約者がベルと学年が同じだったので、気にかけてほしいことを伝える。


「一代限りとはいえ、どなたと結婚されるか分かりませんもの。この学校に通っている以上、どこかの家の夫人になる可能性もございます。承知しました、女には女の社会がございます。微力ながら協力致します」


 軍のトップ、将軍の息子であるヘロスの婚約者フィーリアは姉御肌の気質もあり、快く引き受けてくれた。

 ところが……。



「会長、昨日の件ですが、無かったことにして下さいませ」



 翌日怒りの形相で断ってきたと思うと、ろくな説明もなしに去った。

 どういうことかとヘロスへ確認すると、昨晩フィーリアが話しかけてもベルは無視し接触を拒んだらしい。


 侯爵令嬢であるフィーリアは女子寮の食堂という多くの人の目がある中、身分が格下の相手に拒まれたことで侮辱され、喧嘩を売られたと思ったらしい。それは個人だけでなく、家も絡んでいるので余計だった。

 なにしろ彼女の将来の義理の父親は将軍。自分の父親の上司の娘となる人間に対し、無礼だと怒ったのだ。同時に将軍に対し、敬意を抱いていないと感じたらしい。


 この事件をきっかけに、ベルはさらに校内で浮いた存在となった。礼儀作法を知らぬ愚か者と陰口を言われ、特に女子生徒からの反発が凄まじかった。

 それまで平民だった者が貴族になり、右も左も分からないだろうから手を貸そうとすれば拒み、家々の力関係さえ否定する。それは我が国の貴族社会を否定することにも繋がると、フィーリアは怒った。それが他の女子生徒にも感染したのだろう。



「少しは君から皆に歩み寄ってはどうだい?」



 昼休憩、中庭のベンチに一人座っているベルへ話しかける。


「……どうせ私はお父さんが一代限りの男爵になっただけです。私はそんな男爵の娘なだけで、いつかは平民に戻るので皆と仲良くなっても……」


 じわり。

 ベルの目に涙が浮かぶ。


「ご、ごめんなさい! 王子……。じゃなかったっ。会長は皆に気を配ってくれているのに、私ったら……」


 ごしごしと手の甲で目を拭うと、彼女は逃げるように立ち去った。その背中を見て、なぜか心が痛んだ。


◇◇◇◇◇


「係わりすぎではありませんか? 生徒会長として生徒全員に気を配ることが悪いとは言いません。ですが特定の生徒だけ気にかけては、彼女だけでなく貴方の為にもなりません」


 生徒会副会長であり、幼なじみでもある同学年の首相の息子ピーンズに言われる。

 真面目を描いたようなこの男は、いつも髪を整髪料でまとめあげ前髪を垂らさない。そして長年身につけ体の一部と化した眼鏡が今日もよく似合っている。


「この学校は将来の貴族社会の縮図でもあります。それを自ら乱すようでは、殿下の統率力が問われます。彼女は一代限りの男爵の娘なだけですし、大事にはならないでしょうが……。いえ、だからこそ問題視する者も出ましょう。周囲にいらぬ誤解を与えないためにも、深入りはお避け下さい」


 なぜか常に眼鏡の位置を直す癖があるピーンズ。この時も眼鏡の位置を直しながら忠告してきた。


「俺もこれ以上の介入は止めるべきだと思いますねぇ。彼女は放っておきましょうよ」


 まだ生徒会役員ではないが、ピーンズと同じく将来の側近候補である新入生の外務大臣の息子ティオが軽い口調で言う。来年には生徒会へ入ることが決定しているので、すでに私たちの仕事を手伝ってもらっている。だから生徒会室に居ても不思議はない。


「しかし……。校内の人間を一つにまとめられないのは……」

「考えすぎですって。一人の人間に傾倒して付き従う世界も危険でしょう。それにあの女、そこまで殿下……。じゃなかった、校内では会長か。とにかく、会長が思うような弱い女じゃありませんし」

「どういう意味だ?」


 彼女と同じクラスのティオは笑うと答える。


「先日のテストの結果、覚えています? ベルが学年トップになったでしょう?」

「ああ、大差をつけ見事だったな。悔しがっていた新入生も多かった」


 ベルを悔しそうに睨んでいた大勢の一年生を思い出す。


「あれ、不正の結果ですから」

「なに?」


 にやりと笑うと、ティオは紅茶が淹れられたカップを持ち上げ一口飲む。


「隣の席なんでね、見えたんですよ。不正していましたよ、あの女。机の中に紙を忍ばせていて、それをチラチラ見て解答用紙に答えを書いていたんですから。そういう女なんです。だから放っておけばいいんですよ」


 そう言ってティオは、カップを持っていない手をひらひらと振る。


「おい、看過できない話だぞ。至急教師に報告すべきだ」

「面白いから黙っていましょうよ。俺以外にも後ろの席の奴とか、大勢気がついていますし。だから皆、余計に睨んでいたんですよ。不正で得たトップの成績なんて誰も認めないし、いつか大恥をかき困るのは本人ですし」

「不正で一位を取ったんだぞ? 本来なら一位となる者が一位になれなかったんだ、大問題じゃないか!」

「ピーンズは真面目すぎるって。不正をする奴なんて世の中にはごまんといる。それをどう利用し対処するかを問われるのが、次世代の中枢を担う俺たちでしょう? なんでも教師に解決を任せていれば、それこそ俺たちだけではなにも解決できない、頼りない奴らだと思われてしまう」


 ティオの言葉にも一理あると思ったのか、不機嫌そうな顔でピーンズは腕を組み黙った。

 あの時涙を浮かべた彼女が不正を働くとは信じられなかった。ティオの見間違いだったのではないだろうか。それか、やっかみとか……。


 思えばこの時すでに私はベルに……。『恋情』に毒されていた。


◇◇◇◇◇


「不正⁉ 私がですか⁉」


 中庭のベンチで隣同士に座り、正直に確認するとベルは驚きの声をあげた。


「そんな噂が……」


 それから顔を伏せ、膝の上で両手をぎゅっと握る。その手は震えており、悪評に黙って耐えいじらしく見える。守ってやりたいという気持ちが生まれる。

 ティオを信用している。だが彼女が嘘をついているようにも見えない。私はどちらの言い分を信じればいいのだろう。


 公平な王になりたい。一方の意見だけを鵜呑みにしたくない。私は見た目に囚われず、誰にも偏見を持たない王を目指しているのだから。


 しかし身分やこれまでの付き合いや性格を考えれば、ティオが正しいと答えを出すべきだろう。だがいずれ身分違いになるからと最初から誰とも友情を育むことを諦めている彼女は、聡明な女性ともいえる。そんな人物が不正を働くとも思えない。


「……会長も私を疑っているんですか?」


 ベルに顔を伏せたまま問われ、正直に答える。


「分からない。だから真実を知りたくて正直に尋ねた。不正を働いたのか?」


 ベルは首をぶんぶんと大きく横に振る。それを見て安心した。


「そうか、良かった。突然貴族社会に現れた君に一位を取られ、妬んだ人間の流した噂だろう。気にするな」


 ぽんと彼女の肩に手を乗せ、それだけ言い立ち去る。

 その様子は中庭なだけに多くの学生に見られており、己が軽率な行動を取ったと知ったのは翌日のことだった。


◇◇◇◇◇


「どうしたんだ、その顔は!」


 翌日中庭で会ったベルの右頬は腫れていた。


「これは……。ちょっと……」

「保健室には行ったのか? ……行っていないのか。なら今すぐ行こう」


 無理やり保健室に連れて行くと教師は留守にしており、私は勝手に湿布を探すことにした。幸い置き場所は知っているので戸棚に向かいながら尋ねる。


「一体なにがあった?」

「……から」

「え?」

「会長が話しかけてくるからですよ!」


 医薬品が並んでいる棚を開け振り向くと、ベルは目を吊り上げ睨んでいた。


「昨日の中庭での様子を見たフィーリアさんたちが、昨晩女子寮の食堂で……! 会長に色目を使うなとか、言いがかりをつけてきて……!」


 戸棚を開かせたまま動きを止めた。

 昨日のことは互いに深い意味などなかった。それなのに私のせいで彼女が打たれた……? そうでなければ頬が腫れる訳がない。


「会長!」


 なにか誤解しているように慌てた様子のピーンズが教師とともに保健室へ飛びこんできた。治療を養護教師に任せ、ピーンズの声を無視してフィーリアの元へ向かう。この時間なら、彼女は食堂にいるはず。果たして彼女はそこにいた。



 ばん!



 友人たちと談笑していたフィーリアの机の上に両手を打ちつけると音が鳴り、食堂は静まり返った。


「……昨晩、女子寮でなにがあった」


 睨みながら低い声で尋ねるが、フィーリアはまったく動じなく答える。


「……なにを誰から聞かれたかは存じませんが、私どもはベル様に注意を行っただけです。会長は将来国王となられる御方で、婚約者がいらっしゃる身。ですから人に誤解を与える行動を控えるようにと。そしてテストで不正を働くのは止めなさいと申しただけです」

「君までそんな噂を信じているのか!」


 強い口調になってもフィーリアはひるまず、ただじっと私を見つめるだけ。

 さすが将来将軍の娘となるだけはある。肝の据わっている彼女は一年生ながら、校内で発言力がある女子生徒の一人と言ってもいい。だから最初適任と思い、彼女にベルのことを託そうと決めた。


「会長、会長。噂じゃなくて事実ですから。俺、言いましたよね? この目で見たって」


 後頭部で手を組み、笑みを浮かべながらティオが近づいて来る。しかしその目は笑っていなかった。


「ひょっとして会長、長年付き合いのある俺より彼女を信用しているんですか? さすがにそれは俺でも傷つくなぁ」


 貴族子息にしては軽くお調子者であるティオはいつもと変わらぬ口調だが、それこそ長年の付き合いから本心だと分かった。


「……お前を信じていない訳ではない。だが彼女は不正を否定した」

「否定ねえ……。そりゃあそうでしょう。はい、不正して学年トップの成績を得ました。なんて、普通は認めませんよ」


 ティオの言葉に同意するよう険しい顔で頷くのは、主に一年生だった。


「なあ会長、ちょっと冷静になって下さいよ」

「ティオの言う通りです。それに先ほども……。あ、いや」


 ピーンズが言葉を濁して口を閉ざす。おそらく校内とはいえ未婚の男女が二人きりになったことが好ましくないと、そう言いたいのだろう。だがそれを人前で口にするのをはばかった所か。


「……すまない、感情的になった。だが人に暴力を振るう行為は見逃せない」

「私が知る限り、ベル様に暴力を振るった者はおりません。私どもは忠告をしただけで、手を出しておりませんし」


 よくもいけしゃあしゃあと……! フィーリアの答えに怒りを覚え、奥歯を噛みしめる。

 それでも冷静になるよう一度深く息を吐き、質問する。


「ではなぜ彼女の頬が腫れている?」

「朝食を取る時に気がつきましたが……。それについてはエティア様からお聞き下さい。彼女、ベル様の隣室なので」


 真面目なピーンズの婚約者であるエティアは、ピーンズと同じく真面目だが引っ込み思案な性格の持ち主。そして頭が良く、前回のテストでは三位のティオと差を開け二位だった。

 注目されることが苦手でもあり、近くのテーブルに座っていたエティアは名指しされたので慌てて椅子から立ち上がったものの、なかなか語ろうとしない。


「大丈夫、落ちついて話せば良い」


 ピーンズが優しく声をかけ、彼女の手を握る。それで彼女の不安は払拭されたのか、ようやく口を開いた。


「……昨晩食堂でフィーリア様たちが注意をした後も、最後までベル様は食事をとられました。部屋に戻ったのは、私とそんなに変わらないタイミングでした。もちろんその間、誰も彼女に暴力を振るっておりません。しかし部屋に帰ってからです。壁の向こうから、なにかを打つ音がずっと響き……」


 その音を思い出したのか、ぶるり、エティアは体を震わせる。


「誰かが部屋に押し入り、彼女を打ったということだろう?」

「いいえ、それなら部屋に入る前や最中の会話が聞こえるはずです。でも話し声は一切聞こえませんでした。もちろんドアが開いた音も。それなのに突然打つ音だけが聞こえ始め……。私恐ろしくなり、布団を頭の先までかぶり両手で耳を塞ぎました。そうしたら今朝、ベル様の顔が腫れており……」


 そこでエティアは顔色を青くし急に黙った。

 その視線は目の前の私ではなく、その後ろに向けられていると気がついた。振り向けば顔に湿布を貼ったベルが立っていた。


「……酷い。私が貴族でありながら貴族ではないからって……。そんな嘘をついてまで私を陥れたいの⁉」


 涙目でベルが叫ぶなり、エティアを庇うようピーンズが彼女の前に立つ。


「エティアさん、自分が二位だったから悔しくてそんな嘘を言っているんでしょう⁉」

「ち、ちが……。違います!」

「エティアはそんな嘘を吐かない、真面目な女性だ。君こそ彼女を陥れる発言を控えてもらおうか」


 また眼鏡の位置をずらしながらピーンズは怒りを含ませた声を放つ。

 そこにまるで面白がっているような口調でティオが割りこんできた。


「あ、じゃあこういうのはどうですか? 前回のテストでは立ち合う教師は卓上に座っていて、前方からしか生徒を監視していなかった。だから次回は動き回るとか、ずっと後ろに控えているとか……。それでベルちゃんが一位を取れば疑いも晴れるでしょう?」


 明らかに挑発していると分かる発言だったが、ここぞとばかり、フィーリアも乗っかかってきた。


「妙案ですわね、ティオ様。良かったですわね、ベル様。次回のテストで疑いを晴らすことができそうですわよ?」


 二人から挑発され、周りも二人の意見に同意だと目が訴えている。この場をどう収めるか悩んでいると……。



「……分かりました」



 退けなくなったのかベルが頷いた。

 皆の目が語っている。どうせ一位を取れる訳がないと。


 どうして……。どうして皆、彼女を信用しようとしない? どうして仲良くしようとしない? ベルはますます校内で孤立を深めた。




お読み下さりありがとうございます。

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