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紫夜の眺望  作者: 伊倉 夕
9/20

8 聖子宅⇒近衛家


 優里は起き上がった。

 まだ、意識が朦朧としているようで何も考えることができない。

横を見てみると、隣の布団では聖子がまだ気持ちよさそうに眠っていた。


 優里は枕元に置いてある自分のスマートフォンを取り、待ち受け画面を見る。

 7時30分。 

 もう少し寝ることができたが、今寝てしまったら約束の時間までに起きることができないと思い、大人しく二度寝は諦めた。


 しばらく呆然としていると、思い出したのは昨日の映画のことだった。何も考えていないと自然と昨夜の映像が脳裏に流れてくる。

 人を引き込ませる力がすごかったなと痛感していると、隣で寝ていた聖子がむっくりと起き上がった。

 瞼を開ける力はないので恐らく何も見えていないだろう、そして座ったまま硬直をしてしまった。


「・・・しぇんぱぁい。おはりょうございあす。」

 振り絞られて発せられた声が優里に届く。


 起き上がったばかりなので、まだ上手く呂律が回っていないようだった。


 昨夜、聖子の風呂上り後に二人で色々話し過ぎてしまった。気づけば日が変わっており、すぐに寝たとしても、会話をした為か頭が冴えて眠れず、軽い夜更かしをした形になってしまった。


「うん、おはよう。」

 そう返した後、聖子の姿が面白くて静かに笑っていると、優里の脳は少しずつ覚めてきた。

 

 そういえば、洗濯物はどうしただろうか?

 前日は、「先輩は、お客さんなのでいいですよ。」と言って、聖子が洗濯から乾燥、そして干す作業まで全てを一人でしてくれた。

 

 見回してみると、洗濯物は二人が寝ている部屋には干されていないようだった。

 

 隣で石像のように固まっている聖子を見る。


 どうやら挨拶をした後、再び夢の世界に入ってしまったようで、座ったまま微動だにすることがなかった。

「まだ、大丈夫か。」

 聖子を見る目が思わず温かくなってしまった。



 優里は布団から出て、浴衣のまま台所を通り過ぎ、靴を裸足で穿いた。

 そして、玄関のカギを開け、冷たい向かい風を浴びながら外に出た。


 外は少し肌寒いが、決して歩けないほどではない。

 聖子の家を出て数十歩進んでみる。

 50メートル先が見えないぐらい、辺り一面を霧が覆い、空気は街で味わうことができない爽やかな香りを漂わせていた。

 少しだけならと思い、更に歩を進めてみる。


 鼓膜に自分の足音と、軽薄なリズムを刻んでいる心音がよく聞こえる。

 まるで、霧が造り出すドーム状の範囲内で音が反響しあっているように感じた。


「はぁ~。」


 白い息が霧雨と溶け合う。


 溶け合うのを目で辿っていくと、白い世界に浮かぶ銀色の日が優里の目に入った。

 前日藍色に染まっていた方角の空だ。

 そこに現れた丸い形をしたものを見ると、日が変わったというのを身を持って知ることができる。

 時間的には、今から8時間程前に日は変わるが、夜間だと日が変わったとはあまり感じない。

 薄暗くても自然の光を浴びることで、ようやく優里は日が変わったと実感したのである。


「寒っ。」


 優里は大きく深呼吸をして、そそくさと聖子の家に入った。





 優里が家に入ってから30分程経過して目を覚ました聖子が朝御飯を作ってくれた。

 御飯とみそ汁、そして目玉焼きにほうれん草のお浸し。

 

 朝一番の食事は余り喉を通らない優里だったが、聖子のシンプルな朝食は一口食べれば完食するまで箸が止まらなかった。



「・・・おいしい。」

 自然と言葉が出ていた。


「お粗末様です。」

 優里の言葉を聞いた聖子はそう言って微笑みを浮かべる。

 そして、その笑みには相変わらず人を和ませる力があった。



 朝食後、支度をしていたら、あっという間に近衛遥斗との約束の時間になった。



 昨日洗濯をしたシャツは乾燥後にアイロンがけまでを聖子が行い、乾いた他の洗濯物は全て聖子がポーチに入れて渡してくれた。

 優里が制服を着た恰好になると、シャツからほのかに柔軟剤の香りが漂ってきた。

 柑橘性の甘酸っぱい香りが焦らせる気分を少し落ち着かせる。

 


 相変わらず手際の良さにほれぼれする。

 そんな聖子は準備をしている優里の隣で自分の洗濯物を畳んでいた。



 それから、少し時間が経つと外で車の音が聞こえ、車のドアの開け閉めする音が聞こえた後、少し間を置くと家の玄関でインターホンが鳴らされた。

 


「おはよう。聖子起きてる?」

 その声を聞いた聖子は居間で洗濯物を畳みながら返答をした。

「はーい、起きてます。もう少しだけ待ってて下さい。」

「りょーかーい。車で待ってるよ。」

「はーい。」


 近衛遥斗が自分の車に戻って行った。



「先輩、どうですか?」


 優里も荷物がまとまり、聖子の家を出る準備が整う。

「できた、もう、大丈夫。」


「じゃあ、行きましょう。」

 聖子は洗濯物を畳むのを中断して、立ち上がった。

「先輩、荷物を持ちましょうか?」

「大丈夫。ありがとう。」  

「了解です。」

 


 優里も立ち上がって荷物を持ち、聖子に続いて玄関向かった。


 聖子は寝間着のままサンダルを履いて、玄関の扉を開けてくれた。

 優里も靴を履き、家を出ようとするが、前にいる聖子から風によって運ばれてくる香りが優里の後ろ髪を引いているような気がした。



「・・・色々ありがとう、聖子。昨日とてもよく眠れたし、御飯もすごく美味しかった。久しぶりに落ち着ける場所に居れたから、今とってもスッキリしてる。」

 

 その言葉を聞いた聖子は目を丸にした後、声を伏せて笑った。

「・・・。」

 その反応が優里の頬を桃色に染める。


「いえ、ごめんなさい先輩。・・・お礼を言うのはこちらです。先輩は人の話を聞いてくれるのが上手いので、私も滅多に話すことができないことを話せました。おかげで私もスッキリしました。ありがとうございます。また来てください。夏休みの間は私はいつもでもここに居ますので。」

「・・・・・・そう。じゃあ、お言葉に甘えて、・・・また、来るね。」

「はい、いつでも。・・・ささっ、遥斗が待ってますよ。」

「分かった。」



 優里は荷物を持ち、聖子と共に遥斗の車へ向かった。



 車に近づくと車外で待っていた近衛遥斗は二人に気づき軽く手を上げた。


「おはよう、昨日はよく眠れた?」

「うん、すごく眠れた。聖子が色々してくれたから、とてもリラックスできた。」

「そうか、良かった。」

 遥斗は聖子の方を向いた。

「昨日はありがとね、聖子。」

「いえいえ、私が提案したことですから、それに、私も久しぶりに楽しかったです。」

「そうか。でも、本当に助かったよ、ありがとう。」

「はい、どういたしまして。」


 遥斗は聖子の言葉を聞いて頷いた後、車に乗りエンジンをかけた。 


「いいよ、水野さん、乗って。」

「はい。」


 優里が荷物と一緒に車の後部座席に乗ると後部座席の窓が遥斗によって開けられた。

 

 窓の外で聖子が言う。

「では、先輩、また。」

「聖子ありがとう。また来るね。」

「はい、待ってます。」



 二人の会話が終わったことを確認した遥斗は「じゃあ、出るね。」と言って、窓を閉めて車を発進させた。


 後ろ窓を見ると聖子と彼女の家が少しずつ遠ざかっていくことが分かる。そして、聖子は昨日と変わらず、離れていく車に向けて手を振っていた。


 そんな様子を見ていると少し気分が紛れたが、その姿が小さくなるにつれて、優里は心のどこかでもの寂しさを感じてしまった。


 


 

 聖子の家を出発してしばらくすると、車の中で遥斗が言った。


「聖子の御飯美味しかったでしょ。」

「うん。すごく美味しかった。」

「でしょ。僕も聖子の御飯を時々食べに行ってるんだよね。」

「聖子もそう言ってた。・・・イロハさんはどうしてるの?」

「今は家で寝てもらってる。最近忙しくて何日も動きっぱなしだったんだ。」

「そうなんだ。最近、忙しかったんだね。」

「ここんところ、ちょっとおかしなことばかり起こってね。原因が分かればいいんだけどね。」

「そ、そうなんだ。」


 優里は自分が遥斗の足かせになっているように感じた。

 なぜなら、忙しくて学校に来れない人がわざわざ時間を取ってまで、自分に対応をしてくれるものだろうかと疑問を抱いてしまったからである。

 

 その疑問は、広い後部座席に窮屈さを感じさせた。





 その後、昨日引き返した付近まで、お互いに喋ることはなかった。


  



 それからしばらく経過し、昨日引き返した付近に到着すると遥斗が車を路肩に停車させた。

「?」

 遥斗は軽く振り向き優里に言った。

「携帯がここから先使えなくなるけど、連絡とかはもう大丈夫?」


 優里は、自分のスマートフォンを取り出し、画面を見てみる。

 特にこれといった連絡はない。


「うん、大丈夫。」

「了解。じゃあ、進むね。」


 そう言って、再び遥斗が車を進めると、10秒も経たない内に携帯の電波は途絶えた。

 電波のマークが表示されている部分には駐車禁止のようなマークが表示され、インターネットを開いてみると、当然繋がることは無かった。


「ほんとに繫がらないんだね。」

「あ、試してみた?」


 遥斗の声に少し喜びの成分が含まれていた。


「うん。全く駄目みたい。」

「色んな人がここに来るんだけど、みんなやっぱり驚いてる。「この時世に電波が届かない土地があるなんて」ってね。それも地下何百メートルの洞窟に居るわけでもなく、地上の平地だから・・・。そりゃあ、みんな驚くと思う。」

「でも、なんでだろう。」

「・・・原因はまだ分かってない。だから時々、研究者が調査しに来るんだよ。今の所は、土地の影響だろうって説が有力だってさ。電波を跳ね返すことに適している地形だとか。・・・無理矢理な感じがするけどね。」



 遥斗が言っていることに理解をしたが、それは納得ができる内容ではなかった。しかし、この土地で生活をしている聖子や遥斗が分からないと言っているのだから、優里自身もそれ以上の探求は自分自身がしなければならない訳となる。

 その為、優里はその内容を頭の片隅にひとまず置いておくことにした。

「・・・。」

 自分の悪い癖だと思いながらも、知りたいという欲には未だに勝つことはできないようだ。

 


 それから更にしばらくすると、周辺を山が囲い、広々とした平野の中にポツンと緑色の背丈の低い木々に囲まれた一軒家と鉄製の工場が見えてきた。


「あれが僕の家だよ。」

「あそこに見える家?」

「そう。」


 車が少しずつ減速を始め、家の30m前までくると遥斗は徐行で進んだ。


 優里が家の周りを観察すると、木々の外側には緑色と少々な黄緑色が混ざった稲穂が風でゆらゆらとなされるままに動いていた。その、揺れを眺めていると青い空が視界の端に映り、気づけば辺り一帯を包んでいた霧は風に流されて移動を始めているようだった。



 遥斗が再び路肩に車を停車させたと同時に、辺りの霧は晴れ、大きな木造2階建ての一軒家が日光に照らされた。

 


 敷地内の入口は2か所あるようだ。一つは目は、車から降りたら道を挟んで優里の目の前にある石柱の間。二つ目の入口は、石柱から左側に10m程離れた場所にある車一台分が入ることのできるスペース。

 それ以外の部分は木々の盛られた枝と葉が侵入を拒んでいるようだった。

 


 遥斗が車のエンジンを止める。

 道の路肩に停める形になっているが、車一台分が通るには十分な幅があるため気にはしていないようだった。そもそも、優里は遥斗の車に乗ってから対向車に遭遇したことが一度もなかった。昨日も同様である。

 車の交通量が知れていた。


「いいよ、こっち側から降りて。」

 遥斗が家のある方向の右側を指す。

「うん、分かった。」

 そう言って優里は遥斗の車から降車した。続いて遥斗も車を降り、その流れで車をここに停めた理由を教えてくれた。

 

「中庭に停めるスペースがあるけど、あそこは父さんの駐車場所なんだ。ちなみに、左側の田の入口はうちのだから問題ないよ。」

「そうなんだ。ここにある水田はみんな近衛君が作ってるの?」

「僕と父さんだね。聖子も手伝いに来てくれる。」

「聖子も?」

「うん。」


 優里が風に揺れる稲穂を眺める。

 ここで生きる物たちの力強さだろうか、風で倒れず、地から空に目がけてすくすくと育っているように見える。

 

「さぁ、こちらへどうぞ。」

「え、あっ、うん。」


 優里は遥斗に石柱の間から入るように勧められた。

 遥斗の言われた通りに石柱に近づくと、片方の石柱には「近衛 大地」と彫られたネームプレートがあった。


「あぁ、父さんの名前だよ。」

 ネームプレートを見ている優里を見かねた遥斗が説明してくれた。


「父さんは朝一で出て、夜遅く帰ってくる。父さん結構忙しんだ。」

「ごめんね。近衛君も忙しかったんでしょ。」

「いや、いいよ、大丈夫。僕も最近働き詰めだったから、たまには、息抜きがしたいんだ。今日みたいにね。」

「・・・。」



 優里は思う。

 彼は本当に自分と同年代の高校生なのかと。

 彼の喋ること一つ一つに重みがあり、自分よりも何倍、いや、何十倍も人として大人びているように見えた。



「さっ、こっちへどうぞ。」

 そう言って遥斗は家の玄関を開け、中に入っていった。

 優里もそれに続いて「お邪魔します。」と言い、中に入る。


「・・・。」


 中に入って最初に優里が思ったことは、彼の家に少し懐かしさを感じたことだった。

 親しみやすい家というべきだろうか。

 土間が広く、腰をかけれる程の式台、そして空間の広い廊下。

 

 ふと、木造建築物が放つ特有の香りが鼻に入ってくる。

 嫌いではない香りだった。



「靴脱いで上がったら左の部屋に入って。」

 先に靴を脱いで家に上がった遥斗は優里にそう伝えた後、廊下を奥に進んで扉を開け、家の中へと消えていった。



「お、お邪魔しま~す。」

 もう一度小声で言った後、優里も靴を脱いで揃えてから、言われた通りに左側の部屋に入った。



 同じような大きさの和室が二つ、襖に仕切られる形で並んでいた。



 襖は若干開いており、4枚のうちの1枚分が開いている様子だった。

 その為、優里は部屋に入った直後、右側にある襖の間から不本意にも隣の部屋が目に入ってしまった。

 


 部屋の奥の方に仏壇と床の間が並んでるのが分かる。それ以外は、優里がいる部屋とはあまり変わらないように見えた。


 逆に優里が案内された部屋には、部屋の中心に長方形の机が置いてあった。客人用の面積が広い座敷用の机だ。

 ひとまず、優里は自分が下座と思う場所に荷物を置く。


 荷物を置いた後、部屋の中央を中心にして入口とは反対側の障子が優里の目に映った。その障子も先程の襖と同じように一枚分開いていたのだ。



「こっちは庭かな?」



 優里がそこに近づくとその先には、しなやかで肌触りのよい縁側が現れ、縁側から見える景色は遥斗の家の中庭だった。



 普通車が3台程余裕を持って停めれるスペースと3畳ほどの池、池の隣に農業で使うと思われる機械が入った簡易的な車庫、そして突き当りにこの家と同じサイズの鉄かコンクリートで造られた建物が目に着いた。

 

「・・・。」

 思わず固まる。

 穏やかな場所とは少し離れた風貌を持つ建物が現れたので、違和感が隠せなかった。



「水野さん。どう?」

「あ、近衛君。」

 優里が振り向くと、背後でお盆にコーヒー2つと少々のお菓子を乗せた遥斗が立っていた。

 遥斗はお盆を机の上に置き、優里の隣まで近づくとまだ開いていない方の障子を開けた。



 優里の隣で遥斗が言う。

「あの建物の中でやっていることが、僕が忙しい理由だね。」

 


「そ、そうなんだ。」

「まぁ、少し休んでからにしよう。時間はあるけど、紹介できることもそんなに多くないから。あ、そうだ、ここに、イロハも連れてきていいかな、水野さんのことすごい気に入ってるみたいで。」

「え、寝てるんじゃ。大丈夫なの?」

「来たこと伝えたら、ぱっちりと目を覚ましたんだ。会いたいって言ってる。」

「そうなんだ、何か恥ずかしいな。」


 優里は頭を掻いた。

 その姿を見た遥斗は優里に言った。


「水野さん、ありがとね。」

「えっ、な、何が?」

「イロハのことを人として見てくれて。」

「・・・。」

 言葉が詰まってしまった。


「イロハは昔、自分を人間の奴隷だと思って人を恨んでいた。でも、人を恨んでいると同時に人に対して憧れがあったんだ。だから、どうしたら人に近づけるか、どうしたら人のように生活できるか、ずっと悩んで考えていた。そしてその結果が今のイロハなんだ。」

「・・・。」

「今は法律が変わってアンドロイドの見方が変わった。でも、アンドロイドに対する偏見は根深く残っている。イロハをよく思わない人や、イロハをただの道具としてみる人もいる。でも水野さんはそういう人じゃない。昨日のイロハの様子を見てそう思った。すごく嬉しそうだったよ。」

「・・・わ、私は・・・」  

 

 また、言葉が詰まってしまった。


 優里はただ、今まで自分が普通に思ったことを言動に写してきただけだった。

 だから、イロハに対しても特別な感情を抱き、接していたわけではない。

 イロハがアンドロイドとか人とかそんなことは一切関係なくて、イロハと話していた自分は、いつも通りの普通の自分なのだ。


 それをイロハが受け入れてくれた。

 ただ、それだけだった。


「・・・特別なことは何もしていないと思う。イロハと話した時も、私が話したいから私から話しかけた。だから、特に何も。」


 優里の言葉を聞いた遥斗は優しさを少し含んだ微笑をする。

 その表情は優里に、昨夜電車内で話したときのイロハが見せた表情を重ねさせた。


「あぁ。イロハはそれが嬉しかったんだ。イロハにとっての当たり前ではなかった当たり前がね。」


 自分のことがベタ褒めされているようで、身体の内が熱くなってしまう。それは、すぐに頬にも出てしまった。


「じゃあ、ちょっとイロハ連れてくるね。」

 遥斗はそう言って、和室を出て、イロハが寝ている部屋に向かった。


 どっちかと言えば、イロハを連れてくるのは建前で、本音は優里が自分の表情を見られないようにしているのを察して、和室を出て行ってくれたのかもしれない。

 なんにせよ、これで頬の熱は冷める。

 こういったものは見られるのを隠そうとすればするほど、更に恥ずかしくなってしまう。


「ふぅ~。」


 頬の熱が冷めた後、優里は再び近衛家の庭を眺めた。

 先程見た時と変わった点は特にないが、気分が変わったため、目で見る景色は少々変わっていた。

 

 一言で言えば、景色に生命の躍動感を感じたと言うべきだろうか。

 風が吹いているからという理由ではなく、目に映っている景色が意気揚々と優里の脳裏に自分たちの姿を流し込んでいるように感じた。

 

 池で揺らめく光の反射が優里の目に光をちらつかせる。

 それが眩しかったので優里は縁側の障子を閉じ、イロハが来るまで座って待つことにした。

 


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