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紫夜の眺望  作者: 伊倉 夕
16/20

15 秘密



 聖子が屋上に帰ってくる。


 その手には黒い炭酸ジュースが入ったペットボトルを持っており、優里が座るベンチの左側に座っている遥斗のところまで持ってくるとそれを遥斗に渡した。


「ありがとう。」

「ちょっと待って、お釣りを・・・。」

「いいよ。何かに使って。」

「・・・そう。じゃあ、貰っとくね、ありがとう。」


 聖子はポケットから青い長財布を取り出す。

 その財布は日光に当たる部分が明るさで優しい色合いになっていたが、日陰の部分は深い冷たさを感じるような、そんな色をしていた。


「その財布、すごくいい。どこで買ったの?」

「これ?いいでしょ。イロハさんと買い物した時に選んでもらったんだ。」

「え?いつ?」

「あれ?いつだったかな、確か、遥斗たちが忙しくなる直前だったはず。」

「じゃあ、三か月くらい前か。」

「うん。そのくらい。」


 聖子はそう言って、財布の小銭入れを開けて、お釣りを流し込んだ。

 ジャラ、ジャラと音が鳴り、小銭の多さに聖子の財布が少し厚くなる。

 聖子はそれを再びポケットの中に入れた。


 聖子はその後、場の空気を感じ取り遥斗に言った。

「私、図書館に戻っとこうか?」

「ん?ここにいても大丈夫だよ。」

「何か、気まずいような気がして。」

「そうか。じゃあ、先に図書館に行ってくれ、話が終わったら僕も向かうから。」

「はーい。」


 聖子は呑気な返事を返すとのんびりとした足取りで屋上から降りていった。



 聖子が居なくなって二人とも喋らない時間が少し流れる。

 しかし、完全な静かな空間ではなく、グラウンドで時々聞こえる野球部員の声が、乾いた空に吸い込まれるように消えていっては再び発せられた。

 

 そして、しばらく経ってから遥斗が屋上での沈黙を破った。


「まずは何から話そうかな。」


 遥斗はそう言って、手に持ったペットボトルの蓋を開け、一口飲む。

 

「・・・。」

 

 優里は隣で炭酸飲料を飲む遥斗の横顔を見ていた。

 優里の視線に気が付いた遥斗は、二口目を我慢してペットボトルを口から離す。

 そして、遥斗はペットボトルを地面に置き、前のめりになりながら手を組むと、ゆっくりとイロハについて語りだした。


「そうだな・・・。えーと、・・・イロハはアンドロイドと言われてるんだけど、他のアンドロイドとは身体が違う。これは一週間前に言ったよね。」

「え、う、うん。」


「・・・この際だからはっきり言うよ。イロハの身体は、身体中の臓器、そして細胞が人工で造られたものではないんだ。」

「え、それってどういう。」



 現在、世界中のアンドロイドは人間とほぼ変わらない見た目をしている。

 人工細胞と呼ばれるもののおかげだ。


 人工的に造られる細胞であるため、遺伝子操作が可能であり、見た目、強さ、大きさなどを自分の好きなように選ぶことが可能である。

 当然、アンドロイドの身体にもこれが使用されており、アンドロイドでこの細胞が使用されていない機体は存在しないと言われている。


 しかし、遥斗は言った。「細胞が人工的なものではない。」と。

 つまり、イロハの身体は、人工細胞が使用されていない機体ということになる。



「水野さんはサイボーグを知ってたよね。」

「うん。健康な人が本来の目的とは違い、態と臓器を取り除いて機械を入れた人のこと、だよね。」

「そもそもの話、人の臓器の代わりをする機械達は、臓器自体が機能しなくなってしまった人に施すこと、人の臓器ではないと身体に合わない人達の為に臓器提供をしてくれた人に施すこと、人工細胞によって造られた臓器が身体に合わない人の為に施すこと、この三つの内のどれかが本来の使い方だったんだ。」

「・・・。」


 遥斗の言っていることは間違いのない正論だった。

 

「でも、本来の目的を忘れて、ある日有名人が意にそぐわないことをしてしまった。そして、その行為を真似をしたがる人達も当然居て、ある時期に取り除かれた臓器が異常に増えた時期があったんだ。」

「確かにそんなことあったような気がする。バーコードに似たタトゥーを彫った人が町中に増えたのも、確かに、その時期だった。」

「実際、細胞よりも機械の方が高性能だから、そういうことも、入れ替えをする輩が増えた原因だと思うよ。・・・それでね、ただ身体を強化するという欲を満たすために取り除かれた臓器、臓器提供としても適合できる人がいなかった場合、その臓器達はどうなると思う?・・・当時、その臓器たちには二つの選択肢が与えられたんだ。」

「え。」

「一つ目は、越えてはいけない時間が経過して廃棄される。」

「・・・。」

「二つ目は、アンドロイドの一部として利用される。」

「!!。ま、まさか。」

「・・・イロハの身体は頭の中にある機械以外のほとんどが、人の捨ててしまった細胞、もしくは臓器なんだ。・・・イロハは多くの人間の細胞を含んだアンドロイドの試作品として造られた。でも、余りにも多くの細胞を使用するから生産性がなく、その計画自体が中止になって、挙句の果てにイロハは計画の失敗作として廃棄されかけたんだ。」

「!!。」

「一つの生命として動きかけていたイロハを助けたのが僕の父さん。そして、イロハみたいな特別なアンドロイドの記述が本に無いのは、人間の細胞を利用して今日まで活動できているアンドロイドがイロハしかいないから。だから、今は臓器提供できない臓器達は、超えてはいけない時間を経過してしまった場合、廃棄処分されるようになった。」


 優里は言葉が出なかった。それと同時に、過去にイロハが人間を憎んでいたと言っていた、その理由が分かったような気がした。


「イロハはそのことを・・・知ってるの?」


 遥斗は、ベンチの背もたれに寄りかかる。先程、優里がベンチに寄りかかったのと同じように。


「・・・うん。知った当時、というか、僕がイロハに初めて会った時、イロハは全てを恨んでいた。僕やイロハを助けた父さん、全ての人、この世界、そして自分自身、特に、怒りを発散する方法を自分自身に向けて、自分の身体を無茶苦茶に傷つけて、全身が血だらけになってもイロハの怒りが消えることが無かった。」

「・・・それで、イロハは。」

「まぁ、その時の記憶は僕もよく覚えてないんだ。ただ、ひたすらイロハの為に自分が何をできるか考えて、イロハの為に動いていた。イロハと何度も接して、何とか助けようと試行錯誤して、前に言った、イロハの人に対する憧れがやっと分かって、それから、・・・イロハは少しずつ今のように変わっていったんだ。・・・これがイロハの秘密。」

「・・・。」


 遥斗が話終わると二人とも喋ることは無かった。


 短く、内容の濃いその話は、色で言えばグレーに近いようで限りなく黒色に染まっており、さっぱりした後味よりも、ドロッとした血液の鉄のような苦みを口と心の中に残らせた。


 その空気に耐え兼ねた優里が顔を上げて空を見る。

 すると空には、先程小さな雲がポツンと一つ浮かんでいたが、今は見える範囲にその形を残してはいなかった。



「あら、遅かったですか。」



 突然、屋上の出入り口から声がする。


 沈黙を切り裂いたその声は、それもまた優里が聞いたことのある女性の声だった。

 優里が声の発せられた方向を向くと、そこにはスーツ姿のイロハがいた。

「い、イロハ。」


「元気でしたか?優里。」

「う、うん。」


 イロハは曇りのない、透き通るほど優しい表情を優里に見せていた。


 遥斗から秘密を教えて貰ったばかりの優里にとっては非常に気まずい状況である。

 

 何をイロハと喋って良いか分からない。

 

 前は、普通に喋れた。

 だから、今回も前と同じように喋ればいいだけだ。・・・しかし、意識すればするほど頭が真っ白になって、何も思いつかなくなってしまう。

 時間が経過するたびに、イロハが優里たちの座っているベンチに近づく。

 

 一歩、一歩、確実に。


 そして、あっという間にイロハは優里たちの元に到着してしまった。


「届け物ありがとうね。」

 イロハが近づいた直後に遥斗が言った。


「いえいえ、お安い御用です。」

「お客さんどうだった?」

「とても、喜んでいましたよ。」

「そうか、良かった。」

「依頼主様の娘様からお礼のお手紙を貰っています。」


 そう言ってイロハは白い封筒に赤い蝋で封をされた手紙を遥斗に差し出す。

 遥斗はその手紙を受け取り、封蝋に描かれた紋章を眺めた。

 

「封蝋印か、珍しい。」

「特別な手紙なんですかね。」

「そういうことかな?イロハ、ハサミ持ってない?」

「すいません。持ち合わせてないですね。」

「あっ、私持ってるよ。」

「ん?本当?」


 優里はバックの中を探り、筆箱の中からハサミを取り出して遥斗に貸した。


「ありがとね。」


 そう言って遥斗は受け取り、ハサミで手紙の上部を切り取る。

 もう一度お礼を言って遥斗が優里にハサミを返した後、遥斗が封筒の中を覗くと中には汚れが一つもない、きめ細やかな紙が折りたたまれて入っていた。


 遥斗はそれを取り出して読み始め、一面に文章が書いてあるらしく、読み終わるのに時間がかかりそうだった。


 遥斗が手紙を読み終わるのを待っていると、いつの間にか優里の右側に移動したイロハが優里に話しかけた。

「私の過去、遥斗様から聞きました?」

「・・・うん。・・・ごめんね、そんなことがあったなんて、私が容易に尋ねていいことじゃなかった。」

「いいんですよ。気にしないで下さい。」


 イロハの表情には曇りが一切なかった。

 まるで、雲一つない今の青空みたいに。


「あのさ、どうして、私に教えてくれたの?」

「・・・電車の中で優里が私のことを聞いた時、その理由を聞いたら、優里は、ただ私のことを知ろうとしてくれていたじゃないですか。」

「う、うん。」


 確かにあの時は、ただ自分がイロハのことについて聞きたかっただけであり、特別な思いなど全くなかった。

 本当に特別なことなど何もしていない。

 優里はただやりたいことをやっただけであった。


「・・・初めてなんですよ。その日に会った人の中で、私を道具として見ずに、私自身のことについて尋ねてきた方は。」

「!。」

「今までは、私自身のことについて尋ねられたことは無かったんです。あるとすれば、雑用かコールセンターの呼び員です。優里みたいにアンドロイドに話をするために話しかけてくれる人なんて珍しいんですよ。」

「・・・。」

「あの時、優里は言っていました。自分は変わり者だと。でも、私にとってその変わり者は心を許せるくらい、貴重な存在なんです。アンドロイドの私にとって・・・。」


「・・・信頼してくれるのは、すごく嬉しいけど・・・、この世の中はいい人ばかりじゃないよ、イロハを襲う目的で近づく人だっているかも知れないし。」

「そんな悪い人が隣にいて、聖子さんがお腹を出して寝るはずないです。」


 電車の中で人の嘘を見抜く聖子が自分のすぐ横で寝そべっていた光景を思い出す。お腹は出ていたかどうか知らないが。


「ああ、なるほどね。」

「それに、私の身体は元々人の細胞ですが、蹴りで相手を動かなくさせることぐらいはできます。生身の人間には、まだまだ負けません。」

 そう言いながら、イロハがガッツポーズと笑みを優里に見せる。

「・・・。」

 すると優里も無邪気な笑みを見えるイロハに釣られて、同じく笑みをこぼすのだった。



 二人で笑顔を見せ合った直後のことだった。

「ん?」

 手紙を読んでいた遥斗が何かに気づく。


「?。どうしたの?近衛君。」

「・・・水野さん、今から電話来るよ。相手は・・・えっ。」

「?。」


 遥斗の言葉に耳を疑い、また、遥斗の「えっ。」という言葉に疑問を持ちながら、優里はポケットからスマートフォンを取り出し、じっと眺める。

 その直後、突然、優里のスマートフォンに着信が来た。


「うわっ。びっくりした。」


 驚きながらも、着信相手を確認する。


 河合 鈴。


「河合さんだ。」


 優里の家の隣人である、河合鈴である。

 この間夕食をご馳走してもらった時に連絡先を交換した。

 今回は、これが連絡先を交換してから初の電話となる。

 

「はい、もしもし、水野です。」

「「あ、優里ちゃん、元気?」」

「はい、なんとか。あの、どうされたんです?」

「「ん?あのね、実は、明日時間が空いてね、それで前に言った、優里ちゃんが会ったら驚く子の所に、連れて行ってあげようかなって思ってさ。」」

「えっ、いいんですか?」

「「ああ。優里ちゃんのことだから、図書館か図書室で篭ってるでしょ。少し身体を動かさないとね。」」

「あはは、了解です。ありがとうございます。」

「「んじゃ、明日は朝9時に家を出るからよろしくね。」」

「はい、分かりました。ありがとうございます。」

「「いいのいいの、それじゃあ、また明日よろしく。」」

「はい、了解です。」


 優里が電話を切る。

 

 隣では遥斗が優里をじっと見ていた。

「?。どうしたの?」

「もしかして、今の人って、運送仕事をしてる河合 鈴さん?」

「え、何で分かったの?」

「いや・・・・・、声、と喋り方だよ・・・。」

 

 この時、遥斗が喋ることに戸惑いを感じていたのを優里は薄々感じ取ってしまった。

 そして、遥斗が先ほどの戸惑いを隠すように、取り繕うように言う。


「・・・僕もその人を知っていて、結構お世話になってるんだ。色々な場所にも連れて行ってくれたし、美味しいものもたくさんくれるから。」

「そうなんだ、河合さんは私の家の隣人で、実は私も色々お世話になってる。」

「へぇ~そうなんだ。まさか、共通の知人がいるとは思わなかったよ。」

「多分、あの人行動範囲すごく広いから、顔も広いと思うよ。」

「確かに。・・・・・・・。」


 突然、また優里の電話が鳴り始める。


「?。誰だろう。・・・お父さん?」

 携帯の着信画面には「水野優一」という文字が出ていた。


「はい。どうしたのお父さん。」

「「もしもし、優里か。」」

「うん。」

「「実はだな、明日帰る予定だったけど、変更になって、今日、家に帰ることになったんだ。多分、5時半頃には家に着く。」」

「あ、そうなんだ。鍵は私が持ってるよ。」

「「ああ、だから、」」

「分かった、これから家に帰るよ。」

「「すまないな。・・・いい加減スペアキー作らないとな。」」

「いいよ。私は大丈夫だから。」

「「・・・ありがとう優里。」」

「ううん。じゃあ、今から家に帰るから。」

「「分かった。」」


 優里が電話を切る。

 ついでに電話の時計を見てみると3時50分だった。


 今日は帰りがけにスーパーで食材を買おうと思っていた。

 父が帰ってくるまでに帰らないといけないので、もうすぐ学校を出発しないといけない。


 優里が荷物を持って立ち上がる。


「ごめんね、ちょっと今から帰らないといけなくなっちゃった。」

「ん?そうなんだ、了解。・・・じゃあね、水野さん。」

「イロハもごめんね、もっとゆっくり話したかったのに。」

「いえ、大丈夫ですよ。さようなら優里。」

「うん、二人ともバイバイ。」


 手を振る二人の姿を背中に映して、優里はそそくさに、屋上を後にした。



 階段を下りながら、優里がふと思う。


「「「あれ、そう言えばさっき近衛君、電話の相手予知しなかったな。やっぱり偶然?・・・本人も声と話し方で分かったって言っていたし・・・、まぁ、後で考えよう。・・・それにしても、・・・一人だとこんなに静かなんだ。」」」



 優里は誰もいない校舎の階段を一人で下っていくのだった。




 


「・・・少し、危なかったですよね。」

「ん?まぁ、水野さんにはバレても問題ないような。」

「ダメです。私の秘密と違って、遥斗様はバレたら、一気に色んな所から狙われますよ。」

「ん~、やっぱりそうなるのかな。」

「はい。それに、いい加減、電話の相手を予知する癖、止めてください。」

「ごめん、つい反応しちゃうんだよ。」

「それに、電波の影響が強い場所に来るときはアルミニウムを繊維に含んだ帽子を被って下さい。これも、いつも言ってますよね。」

「大丈夫、今日は調子がいい、」

 遥斗がそう言いかけた途端、遥斗の鼻から赤く粘性の高い液体が垂れてくるのだった。


 イロハがじと目でその液体と遥斗を見る。


「・・・ほら、言ったじゃないですか。」

「・・・ごめん、・・・持ってる?」

「・・・持ってますけど、何か私に言うことがありますよね?」

「申し訳ございませんでした。」

「はい。」


 イロハがどこからかキッップ帽子とティッシュを取り出して遥斗に渡した。

 遥斗は鼻にティッシュを詰め、帽子を被る。


「で、話は変わるんだけどさ、」

「?。」

「この手紙、書いた子って何歳くらいの子だった?」


 先程、優里が電話をしていた間に遥斗は手紙を読み終えたようで、手紙は封蝋印が押された封筒の中にしまっていた。


「え~~と、多分、13歳か14歳位だと。」

「そう。・・・今日届け物をした家のお客さんはリピーターさんなんだけど、どんな家してる?」

「すごい豪邸でしたよ。シンメトリーが素敵な欧州で建築されているお城みたいでした。庭も、遥斗様の家の敷地より遥かに大きかったです。」

「そうか、やっぱり。」

「・・・どうしたんです?」

「いや、何か、文字が上品ていうのかな?普通の人が普段使わないような言葉遣いだったんだ。あと、紙の品質が良すぎる。」

「すごい教養のある、淑女となることに相応しいお方なんですね。」

「それに、この手紙は、お礼と・・・娘さんの誕生会パーティーの招待状だった。」

「あら、そうなんですか。お礼がパーティーの招待状なんて、良かったじゃないですか。」

「うん。・・・それと。」

「それと?」

「星を見に行かないか?って。」

「星ですか。」

「うん。」

「この時期に見える星と言えば、」

「二人きりで、って。」


 その言葉を聞いた瞬間、イロハの雰囲気がゴロッと変化し、それと同時に目が赤く光っているような気迫を遥斗は感じ取った。


「ち、ちょっと待って、落ち着いて、まだ、本人に確認してないし、そもそもその娘さんに会ったことないし。」


 釈明する遥斗は怒るイロハを覚悟したが、イロハは意外にも冷静だった。

 その後、イロハは素早い動きで遥斗の手紙が入った封筒を奪い取り、中に入った手紙を取り出しては開いて読む。

 イロハはすぐに顔を上げ、ジト目をして遥斗に言った。


「これ、パーティーの招待状は肩書で、完全にデートの誘いじゃないですか。しかも、電子機器や通信端末を使わずに手紙で伝えるなんて、・・・完全に遥斗様の特性を知っての行為だと私は考えます。」

「偶然だって。僕の秘密を知っている人は数えるほどしかいないよ。」

「じゃあ、何で、遥斗様に会ったこともない人が、遥斗様の不意を突くようなテクニックを使用して、パーティーの招待状を送ってきているんですか。ましてや子供でさえ通信機器を持っているこの時代、普通ならあり得ません。」


 イロハは疑問をぶつけるたびに遥斗に詰め寄り、最後の疑問をぶつけた時には、遥斗の目の前で遥斗の目をイロハのジト目が覗き込んでいた。

 詰め寄ったイロハに押され、被ったキャップ帽子は後ろに落ち、鼻に詰めたティッシュも抜け落ちて、再び遥斗の鼻から血が垂れ始める。


「お、落ち着けって。取りあえず離れよう。それに、僕も携帯は持ってないし、だから、その伝える方法として手紙を選んだのかも知れないよ。ね。」


 顔の目の前まで迫ってきたイロハをなだめる遥斗の姿は、夫婦間で夫の隠し事を疑う妻が夫に詰め寄り、夫が必死に取り繕う、そんな光景を思わせるのだった。

 

 ジト目を遥斗から離し、再び手紙の内容をイロハが確認する。


「明後日の夜6時からですか。行くんですか?遥斗様。」

「行かないわけにもいかないでしょ。こんなに丁寧な手紙を用意してくれたんだから。しかも、親御さんはリピーターさんだし。」

「私も行きます。遥斗様のお供として。」

「・・・やっぱり、そう言うと思った。」

「もちろん、いいですよね。」

「お好きにどうぞ。」


 遥斗が許可を出すと、イロハはまるで獣を狩り取る、もしくは目的の為に何かを潰す、殺伐という言葉が相応しい目と表情を顔に出した。

 そんなイロハを目の当たりにした遥斗はその気迫に気圧されて、何か言おうとしたが、勿論そんなことができるはずもなかった。


 

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