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死と呪いと君  作者: ジェニファー
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-富山輪作‐

見ると、父の後ろに見慣れない青年が立っていた。背はあまり高くなく、精悍な顔に柔和な笑みを浮かべている。影吉はすぐにぴんときた。青年が纏うこの軽い空気は、この島のものではない。

彼は影吉たち三人に軽く会釈をすると、父に言った。

「海保が北港に到着したようです。僕はまだ分からない事だらけで…申し訳ないんですが一緒に来て頂けますか?」

よくよく見ると、彼は警官の制服に身を包んでいた。三年前に前任が定年退職してからこの今際島には警官がいなかった。白亜島からの応援だろうか…?影吉が目を瞬かせていると、父は硬くしていた表情を和ませこちらを見た。

「ああ、影吉はまだ会ってなかったんな。昨日付で今際島の駐在所に赴任してきた富山君。李靖さんの後釜だ。」

前任の警官だった李靖さんがいなくなった後、父や島の青年団、消防団が治安維持を担わざるを得なくなったので、早く警官を派遣してくれるように警視庁に要請していたのだが、こんな辺鄙な島へ住み込みで着任してくれるような人はなかなかいなかった。

ようやく後任が決まったのかと影吉は胸をなで下ろす。外部からは観光客も来ることだし、こんな島でも警官がいるのといないのとでは安心感が違う。

「木霊影吉です。その…よろしく」

めいいっぱい歓迎の意を込めて挨拶をすると、富山は柔らかく微笑んだ。

「はじめまして、ボクの名前は、富山輪作。こちらこそよろしく。こういう島で暮らすのは初めてなんだ。いろいろと教えてね」

警官と言うには、頼りなさそうな体だが、そこに乗っている顔は親しみやすそうだった。兄よりも五つは年上であろう相手なのに、影吉は一瞬で緊張がほぐれるのを感じた。勉強は苦手だがこの手の勘は外したことがない。多分、彼とは気が合うだろう。

「じゃあ、俺たちはもう行くからな」

父が催促し、三人は島の北東にある北港へと向かって歩き出す。

もう少し富山と話したかったのに、と後ろ姿を見送っていた影吉は、はっとして腕時計に目をやる。そろそろ予鈴が鳴る時間だった。

「あーー!まずい!」

砂浜に足を取られながら走り、大股でスタンドを駆け上がる。

ふと振り返ったのは、スタンドを登りきり、遊歩道に立ったときだった。これまでなかった筈の客船が鎮座する姿に、妙な胸騒ぎを感じ立ち竦む。

ーなんだろう、この這い上がってくるような不安は。

違和感の原因を手繰ろうとしたとき、予鈴が鳴り響いた。後ろ髪を引かれる思いで、影吉は何度も振り返りながらその場を後にした。

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