ー避ける理由
「高校の修学旅行の事だよ。前にも言ったけど優香子のことなんとかならないのか?クラスで一人だけ留守番ってのは、さすがに可愛そうだろ?」
緩んでいた父の顔がみるみる険しくなり、影吉は身を硬くした。
兄も髪を掻き上げうんざりするように息を吐く。父は厳しい表情で応えた。
「そのことなら前にも言っただろう。優香子は金を積み立ててないし、だめだ」
「そんなんなんとかなるだろう?あいつの生活費だってうちが出してるんだし。それに異常だよ。白亜島の職場体験だって、優香子だけが最初からいないものみたいになってたし」
白亜島は、この今際島から北に三十分ほど高速船を走らせた場所に浮かぶ島である。
周囲二十キロの今際島よりも面積が四倍大きく、人口は三倍ある。この差はそのままインフラや店舗数と比例しており、片道七百円かけ今際島民は何かと便利な白亜島へ定期高速船で行き来していた。
それだけに、影吉には疑問だった。優香子が白亜島にすら行けないことが。
ーいくら口をきいてもらえないほど、彼女がこの島で村八分にされているとしても。
「影吉、お前まだ分からないのか?父さんがだめだと言ったらだめなんだ。それに優香子には関わるなと言ってあるだろう?」
睨みつけてくる兄に、影吉は応酬する。内心またかという思いが渦巻いていた。
小さい頃から兄は自分に厳しくあたってきた。病弱な彼の代わりに影吉が父の船を継ぐことが関係しているだろうが、影吉にとっては、それは望んだ訳でも無いことで敵視されているようなものだ。それにこちらからすれば、陸上でずっと父の右腕として働いている兄の方がよほど父と頑固な絆で結ばれているようにすら見えた。優香子のことだってそうだ。孤児である優香子の村八分を先導しているのは明らかに木霊家なのに、父と兄は影吉に理由を説明しようともせず、他の島民と同じように彼女を避けることを押し付ける。
「俺が誰に関わるかは、俺が決める」
無性に腹が立ち、影吉はきっぱり言い放った。父と兄は苦々しげに顔を見合わせる。
「ー木霊さん」
脇から声をかけられたのはその時だった。