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死と呪いと君  作者: ジェニファー
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始まりの予兆

足元では、岩にぶつかった波が水音を立てている。

平らな低い岩の上にしゃがみ込んだ優香子は、目前の高い岩との間に挟まれるようにして揺れている膨れた肉塊を見つめていた。

恐らく、男だ。漂流の際に、衣服はほとんど脱げてしまっているが、体型から性別は推測できる。

ガスで膨張した背を天に向けながら、男にしては長めの髪を水中のクラゲのようにたゆたわせ、波に揺られては両側の岩にぶつかり続ける動作を永遠と繰り返していた。

優香子は瞳を閉じて柏手を打つと、白く細い手を伸ばし男の体に触れるー

刹那、男はまるで息を吹き返したかのようにがばりと上体を起こし、優香子の手を掴んだ。

崩れた顔面が目に飛び込んでくると同時に、腐臭が鼻を突く。

優香子はこの瞬間があまり好きではなかった。自らが彼らと同じく彼岸の世界に属しているような気分になるからだ。でも、文句など言ってはいられない。これが自身に課せられた仕事なのだから。

跳ね上がった脈を落ち着かせようと息を整えながら、男の顔をしっかりと見据える。

既に表情というものをなくしていた男は、その唇が欠けた口から声を絞り出した。

海の〈アレ〉は、いつも水死体の口を借りて言葉を託す。彼らは、いわば腹話術の人形のようなものだ。

「…さぁ…い、やぁ、く、が…お、と、ず…れ、る」

言い終えると、男は力をなくして水面に崩れ落ち、元の水死体へと戻った。

頬に散った飛沫を巫女装束の袖で拭うと、優香子は眉を寄せる。

これまでもたくさんの言葉を託されてきたが、こんなことは初めてだ。今年は豊作だとか、不漁になるだとか、失せ物がどこにあるといった気まぐれなものまで、預言はいつも何らかの具体性を帯びているものであったのに…

漠然とした言葉をどう捉えていいか分からずにいたが、これだけは確かだった。

〈アレ〉が「訪れる」と言えば、必ず起こる。

優香子は腰を上げる。大きな波が押し寄せ、周囲にある見渡す限りの大小さまざまな岩にぶつかり大きく迸った。振り返ると、黎明の大海原が広がっており、東から朝日が昇り始めている。

その光景に心を奪われ立ちすくんでいた優香子の耳に、先程の声が蘇る。

ー災厄が訪れる

潮騒の合間、沖からは◼◼◼が聞こえた。

初投稿。更新遅めです。


作者の都合上、作品内の人物または場所等の名前が変わることがあるかもしれませんがご了承ください。

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