安定した結婚を望みます
読んで頂きありがとうございます(*^_^*)あたたかい目、希望です~
青空が広がり、爽やかな風が野外訓練場を吹き抜ける。
アリアは着慣れた騎士の制服姿で両手を後ろに組み、今年入隊した新人騎士の指導にあたっていた。
アリアが担当する新人騎士は皆若い女騎士のみ。
先輩として教えられる事は全て教えようと思っていた。
そして、後腐れなく退団してやる…
団長就任式の日、公衆の面前でグエンからプロポーズを受けたが、アリアは指輪を受け取らず、返事をしないままその場を去った。
アリアの理想としていた結婚相手…
それは自分の事を愛してくれて、安心した生活がおくれる相手だった。
グエンは団長という高い地位になり、しかも他の女と逢い引きする危険な男…安心した生活なんておくれる訳がない。
グエンがいた第7隊隊長補佐を勤めていた半年、ほぼ毎日グエンに言い寄られる日々、あれはセクハラだ。
その内容は愛してるとか好きだとか愛を囁く甘い言葉はなく、永久就職や将来の安定性を訴えるもので全くトキめかないものだった。
本気ではないのかと思ったら、不意に抱きついたり、押し倒されたり、唇を奪われることもあった…。
これは訴えたら裁判に勝てるレベルじゃないかとアリアは思う。
かといって、本気でアリアの事を好きなのかと思ったら、団長就任式以来約一月の間、ぱたりとグエンからのアプローチがなくなり、全く逢っていない。
もう自分のことは諦めてくれたのかと安堵する一方でアリアは小さな寂しさを感じていた。
おまけに新団長さまのお手付き女に言い寄ってくる騎士などいるはずもなく…
アリアは寿退社を諦め、退団して他の何処かで結婚相手を探し求める事を本気で考える事にした。
「アリア教官!お聞きしてもよろしいでしょうか?」
騎士の訓練の休憩時間に大きな丸い瞳で赤毛のふわふわのウェーブがかったポニーテールがよく似合う愛らしい新人女騎士見習いのララが話しかけてきた。
アリアはこれからの訓練スケジュールを確認していた最中だったので手物のバインダーから視線をララに移す。
「どうしたの?」
口元をもごもごさせて頬を赤くして何か聞きづらそうにしていたララだったが、意を決したようにアリアに問いかけた。
「そ、その!グエン団長と結婚されるのですか?!」
「さぁ…しないかと…」
またそれか…
アリアは眼を細めて少しシラケた表情をして小声で答える。
もうあの団長就任式プロポーズ?以降何十人とこの質問をされた。
さすがにうんざりだ。
アリアは次の出会いに向けて動き出しているので、もうグエンの名前を聞きたくないとすら思っていた。
所詮あいつ(グエン)にとっては私は都合のいい相手なのよ。
「でしたら、お願いがございます!私の姉をグエン団長に紹介して下さい!!」
「へ?」
さすがにプロポーズしてきた相手に他の女性を薦めるのは非常識かとアリアは顔を引き攣らせて断る理由を考えていると
「直接的でなくてもいいのです!こ、この夜会にグエン団長を誘っていただければ…」
ララがポケットから封書を取り出してアリアに差し出すとアリアは受け取り中身に目を通す。
その中身には左大臣エド家の夜会の招待状だった。
確かララは左大臣の甥で色々な所から圧力をかけられて、こうするしかなかったのだろう。
申し訳なさそうに俯く愛らしいララが気の毒に思い、どうせ、いずれ私は此処(騎士団)を去るのだからとアリアはララのお願いを叶えることにした。
「わかったわ。でも、あまり期待しないでね」
「あ、ありがとうございます!!」
勢いよく頭を下げて深々とお辞儀をしてララは小走りで休憩している新人騎士の仲間の元に戻って行った。
アリアはララから預かった招待状を左胸ポケットにしまい、小さく微笑む。
これで私の代わりにグエンと結婚する丁度いい相手が出来る…
その日の仕事が終わり普段はあえて避けていた団長室がある棟に向かった。
さっさと面倒な事は終わらせて早く精神的に楽になりたい。
そう思い団長室に近づくと何人も団長護衛の為に配置されている騎士からニヤニヤ顔で敬礼された。まぁ普通の騎士は団長室に許可なく近づくことは許されていないのにアリアはOKってことだろう。
恥ずかしいというか…なんとも言えない複雑な心境になりながら団長室にたどり着きドアをノックした。
「…」
返事がない…留守なのか?
以前同じような状況があったことをフと思い出しアリアは表情を曇らせた。
まさか…また女を連れ込んで…
目を閉じ一呼吸してゆっくり目を開けドアノブに手をかける。
少し手に汗をかきながら、ゆっくり慎重にドアノブを回すとカチと小さくロック音がした。
鍵がかかっている。
留守の部屋に鍵がかかっているのは普通のことだが、アリアは少しほっとして留守ならしょうがないと自分の部屋に戻ることにした。
「あれ?アリアちゃん?」
数歩団長室から離れた所で聞き慣れた軽い口調の声が左聞こえてアリアは声が聞こえた方に目を向けると、そこには騎士団の制服を少し着崩した副隊長レギアスが少し遠くから歩いて近づいて来た。
「やっぱり、アリアちゃんだ。」
ニヤニヤとしているレギアスの開けた胸元に赤く小さな跡が数個見えて、アリアはそれがキスマークだとすぐに気が付き目を逸らす。
「レギアス副隊長お疲れ様です」
相変わらずの女ったらしっぷりに顔が引き攣るがそれを隠す様にアリアは何も気が付かなったフリをして頭を下げて挨拶をするとアリア頭をポンポンっと撫でてレギアスは微笑みを浮かべた。
「グエンに逢いに来たのかな?あ!やっとプロポーズ受ける気になったとか?」
「いや、ないです」
真顔で即答するアリアにレギアスは少しタジタジになり「あーそぅ」と小さく答える。
「ちょっとグエン団長に話があったのですが…留守みたいなので出直します」
夜会の事をレギアスに説明すると事がややこしくなりそうと思ったアリアは早々に立ち去ろうとしたがレギアスはそれを引き止めた。
「…アリアちゃん」
普段の軽い声のトーンと違い、色気のある声に変わるとレギアスはスッと流れるような動作でアリアの腰に右手を回し自分の体に近づける。
アリアは瞬時に身の危険を感じ体を後方に引くが引き寄せる力に勝てず上半身だけのけ反る形でぐっと近づくレギアスの顔を睨んだ。
「な!は、離して下さい!」
「グエンのプロポーズ受けないなら、俺が口説いてもいいって事だよね?」
目にかかる程度に伸びた無造作な黒い前髪の間からのぞかせる瞳に魅了され、これまで何人の女がこの色男に落とされたのだろう。
整った顔に優しい口調、鍛えられた身体にある程度の地位。
こんな色男に口説かれて落ちない女は普通いないのかもしれない。しれないのだが、アリアは安定した生活を夢見ている保守的な人間なので、こんな危なっかしい色男になびくことはなかった。
「ゆ、友人がプロポーズしている相手にいいよる人は人道的にどうかと思いますが!」
「俺が口説くのは女性への挨拶替わりみたいなものでーって、ん?」
レギアスはアリアの左胸ポケットに入っている封書を見つけスッと引き出すとアリアは焦ってそれを取り戻そうとした。
「ちょっと!勝手に取らないで下さい!!」
「夜会の招待状…これをグエンに?」
面倒な事になってしまった…
アリアは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
ここは諦めて正直に言うかどうか悩んでいるとレギアスがその招待状を自分のポケットにしまいこんだ。
「俺がグエンに渡しておくよ。エド家の夜会だから色々事情があるのだろうからね」
「でも…」
グエンに逢う手間がはぶけていいのだが、レギアスに任せる事に不安を感じる。
アリアがやっぱり取り戻そうとするとレギアスはそのまま招待状を持って「じゃ、またね!」と逃げるように去ってしまった。
それから何事もなく数日が経過した。
ごくごく普通の毎日を送っていたアリアの耳に噂話が舞い込むまでは…
『聞いた?グエン団長、エド家の令嬢と婚約したらしいわよ』
『聞いた聞いた!もービックリ!やっぱりアリア教官じゃダメだったのよねー』
レギアスはちゃんとグエンに渡したんだ…
ひそひそと聞こえる声と白い目を向けられアリアはあまりいい気はしなかった。いい気はしないけど、これで良かったのだと自分に言い聞かせグッと我慢する。
少し落ち着いたら退団願を出そう。そう心に決めていた。
「アリア!アリア・サリアナ!!教官長がお呼びだ!」
遠くから呼ばれアリアは急いで教官室に向かった。教官室に入ると教官長の横に何故かレギアスが立っている。
オホンっと咳払いをして教官長が口を開く。
「あーアリア・サリアナ。君は来月付で移動だ」
「え?あのーどこへ…」
教官長の横でニヤリとしているレギアスに恐る恐る視線を向ける。
「来月付で第3番隊隊長に就任する俺の補佐ね」
嫌です!
心の中で即答していた。
こんな女ったらしの補佐ってどんだけ神経すり減ると思っているの!?
アリアは断って退団する道を選ぼうとしたら教官長がアリアの肩をポンポンと叩く。
「グエン団長も了承済みだ。まーあんな事もあったし、ちょっとした罪滅ぼしのつもりなのだろう。給金も他の者より高めに提示してある。ありがたくお受けするといい」
…給金高め!?
騎士団を辞めたら、おそらく実家に帰ることになる。
そのあと次の仕事が見つかるまで無職…少しでも蓄えは欲しい所である。
ひ…一月…高めの給料をもらって辞めてもいいかもしれない。
アリアはそう心が動き渋々了承することにした。
「承諾してくれて良かったーあ、言っておくけど三番隊の仕事の中に団長護衛も入っているから、そのつもりでね」
軽くウインクするレギアスの言葉にアリアはピキッと固まる。
団長護衛だって?
グエンに逢う機会があるって事!?
出来るだけ会いたくないのに…そんなの…聞いてないよぉ!!
その日以来アリアはさらに周りから白い目で見られる日々が続いた…
『聞いた!?アリア教官、団長護衛がある三番隊に行くって!』
『やっぱり、まだ諦めきれないのねーなんか可哀想ー』
違う…違うのだ…
ぐっと手を握りしめアリアは屈辱に耐えた。
そう、お金の為に…将来婚活の軍資金の為に!
退団して将来の安定の為なのだ!!
移動日前日、アリアは三番隊長室に向かい扉を弱弱しくノックする。
ここ数日、心無い陰口のおかげで精神的にかなり参っていた。
数日前から前任の隊長が体調不良で退団しているらしくレギアスは就任月前から急きょ三番隊体長代理を行っているらしいので前もってレギアス隊長の所に挨拶に来たのだ。
面識のあるレギアスが隊長ということもあって緊張感はなく、扉の中からの返事を待つが返事がない。
なんだ、留守か。と思ってアリアは無意識にドアノブを回すと鍵がかかっておらす扉を開けた。
20畳ぐらいある隊長室に日の光が薄っすらと窓から差し込み、それを背に置かれた大きなデスク。
どこの隊長室も同じ作りである。
そして…ソファで淫らに絡み合う二人…
はぃ? この光景…デジャブですか?
前回と違いアリアの思考回路はすぐに再生して、ソファに座っている黒髪の色男とその上に跨って衣服は乱れて上気している女性を見てアリアは目を細める。
オホン!!
と、アリアがわざとらしく大きく咳払いをすると上気して意識がボーとしていた女性が我に返り、はだけていた胸元を脱いでいた衣服で隠しアリアを睨んだ。
そんな彼女に上半身を起こしながら宥めているレギアスを更に白い目でアリアは睨む。
「ここはラブホテルではありません」
「アリアちゃん、てっきり明日から来るかと思ってたよ」
レギアスは少し乱れでいた呼吸を整え汗ばんだ額をぬぐい前髪をかきあげる仕草はかなり色っぽい。
レギアスの上に乗っていた女性は軽く衣服を整え、ふくれっ面をして部屋を出て行く。
その間にレギアスもソファに少し隠れて衣服を整えていた。
アリアはあえて見ないように窓に視線を移し遠くを眺めた。
隊長クラスの男は皆、隊長室に女を連れ込むものなのかしら…ん?
「レギアス隊長、聞いてもよろしいでしょうか?」
アリアの問いに衣服を整えたがやはり少し着崩しているレギアスは「なんだい?」とニコリと微笑んだ。
「7番隊の隊長室でも今日みたいなことしてました?」
「野暮なこと聞くねー僕は副隊長だったんだよ?そんなことするわけ…無いじゃないか?」
そう答えたがアリアはレギアスの目が泳いでいることを見逃さなかった。あまりに真っ直ぐな瞳でアリアが睨むのでレギアスはゆっくり視線を横にずらす。
「そ、そのグエンが休みの日、代わりに隊長していた事もあったかなー」
何とか、はぐらかそうとしているレギアスの言葉でアリアは少し考えた。
もしもあの時、隊長室で見た人がグエンでなかったら、グエンは二股ではない…のかもしれない。
真剣に私のことを思ってくれてたのかもしれない…
でも今となっては後の祭、もうグエンは他の婚約者が出来たのだ。
少し悲しげに小さく微笑んだアリアの様子を見ていたレギアスは何も言わずにデスクに座った。
「あ、そうだ。申し訳ないが、明日着任なのに早々、任務が入っているんだ」
「はい」
デスクに置いてあった資料をぺらぺらとめくりながらレギアスは話を進める。
「明日の夕方行われる社交界に団長が出席する。社交界が行わる場所が少し物騒なエリアなので団長の護衛に二人つけて欲しいそうだ」
「…そ、それでは下の者を…」
「アリアは指名されている。もう一人は副隊長セガロ辺りでいいだろう」
指名って…誰に!?
正直、グエンの近くにいたくない。
顔を見たくない、同じ空気も吸いたくない。
それなのに…
結局、アリアは仕事だと割り切って団長の護衛をすることを引き受けた。
レギアスが護衛すれば?とも思ったが、どうやらレギアスもその社交界に呼ばれているらしく護衛側に着く事が出来ないので何かあったら報告するようにと念を押された。
3番隊隊長補佐就任日の夕方、アリアはもう一人の護衛で3番隊副隊長のセガロと一緒に団長室に向かった。
セガロは無口で真面目なタイプでちゃらちゃらしたレギアスとは正反対のタイプなのでレギアスは副隊長に任命したのだろう。
「失礼します!三番隊より本日の護衛任務に参りました」
扉をノックして、はきはきとした声でセガロが団長室の扉前で挨拶を宣べると扉の中から「どうぞ」と返事があったのでセガロとアリアは頭を下げて部屋に入る。
団長室は隊長室と違い二回りぐらい広く豪華な装飾に応接室まである。
部屋に入って出迎えてくれたのは団長補佐のサザナミという若い男の騎士だ。
とても優秀で家柄も良くエリートなので団長補佐に任命されたらしい。
「こちらでお待ちください…」
そう言うとサザナミはアリアをちらりと見たのでアリアは一瞬目が合った。
どうせ、コイツが団長にフラれた女か、程度に思っているのだろう。
アリアはここ数日の陰口のおかげでかなりひねくれ者になっていた。
しばらくたつとサザナミが奥の部屋からグエン団長を連れて来た。
久々に近い距離で会ったグエン団長は今宵社交界ということもあって
見事に社交界用の騎士の正装を着こなし堂々たる威厳をにじみ出している。
国を守る最高地位の団長様の姿にアリアは本当に自分にプロポーズしてきたグエンなのかと目を疑った。
まったく別の世界の人に感じ、あのプロポーズ事態も夢だったのかもと思えた。
セガロがグエンに敬礼したのでアリアも慌てて敬礼をする。
「…」
「グエン団長、本日の護衛です。おそらく大丈夫かと思いますが…」
「…そうか。よろしく頼む」
「はい!」
ヤル気満々のセガロに対して、アリアは極力グエンを見ないようにした。
グエンはアリアに目もくれず、歩き出し社交界の会場に向かったので護衛のセガロとアリアは黙って後につづいた。
社交界の会場は馬車で10分ぐらいの所にあり、護衛は馬に乗って馬車を護衛し、社交界の会場では少し離れた所からグエン団長を見守り護衛することとなっている。
比較的平和な世界なので、襲撃などもなく、社交界も和やかに執り行われた。
時より、アリアの存在に気が付くゴシップ好きな貴婦人たちがコソコソと陰口をたたいているがアリアは極力気にしない様に無心で護衛の任務にあたった。
私はただの護衛。お金の為、将来の婚活の軍資金の為…
心を無にして眺めているグエン団長はまるで別世界の人間だ。
煌びやかに着飾った婦人たちを相手にそつなくこなし、国を動かす重役たちとも対等に話をしている。
自分と同期入隊の騎士だったのにこんなに住む世界が違うものだな…
アリアはギュッと胸を締め付けられる思いがして、自分が惨めに感じた。
今月の給料をもらったら、レギアスには悪いけど適当な理由を付けて退団しよう。
それが一番最善の選択だ。
アリアはそう決心した。
社交界は何も問題なく終了し、グエン団長も無事に団長室の前まで送り届けた。
「本日はお疲れさまでした!」
セガロがお別れの挨拶を宣べている少し後ろでグエン団長の目を見ない様にアリアも頭を下げた。
「…ご苦労」
「では、これにて失礼します!」
「失礼します」
やっとこの居心地の悪い空間から解放されるとアリアは最後に一言だけ言葉を発した後、帰ろうと扉に向かおうと方向を変えようとするとガシっと団長に左肩を掴まれる。
「お前は残れ」
「に、任務は終わりましたので…」
「の・こ・れ。セガロは戻って良いぞ」
「…し、しかし…」
ギロッと睨むグエン団長にセガロはなにも言い返せず、目でアリアの心配をしながら困惑していると、グエン団長はアリアの肩を抱きすくめ団長室にアリアを押し込んだ。
バタンと無常に閉まる扉にアリアは顔を引き攣らせ、見たくない顔がある方向にゆっくりと視線を移す。
グエン団長の表情は不機嫌というか怒っているような表情を浮かべていた。
「なぜ、連絡を寄こさない」
「え?なぜって…」
アリアはそっちが連絡しなくなったのではないかと心の中で抗議をしてみたが、それを口に出して言う気にはならなかった。
「…やはり、レギアスとそういう関係なのだな…」
「は?」
なんでレギアス?どういう関係?
グエン団長は怒りの中に哀し気な瞳でアリアを見つめている。
アリアは意味がわからず首を傾げた。
「レギアスはいい奴だ。わたしより魅力的な男だと認める。しかし…あいつと恋愛関係をもってもお前は幸せにはなれない」
「…はぃ?なんで私がレギアス隊長と恋愛関係なのですか?」
「そう言ってたではないか?」
「だれが?」
「アリアが…というかお前の手紙で…」
何かがオカシイ。
お互いそう感じ、グエン団長はアリアに逃げられまいと手首を掴み、団長室の執務室に向かう。
執務室に入り、デスクの引き出しから一通の手紙をアリアに渡した。
『グエン様
私はレギアス様を愛しております。
しかし、レギアス様はエド家の令嬢に思いをはせていらっしゃるようで私は悔しいです。
もし、グエン様がエド家の令嬢と婚約して下さいましたら、私は貴方の愛人として努めます。
私の願いをどうか叶えて…
アリアより』
「…なんですかこれは?」
自分の字に似ているが、アリアはこんな手紙書いたことはない。
手紙を持つ手がワラワラと震え、アリアはやり場のない怒りを抑えるのに必死だった。
「先月デスクに置かれていたエド家の夜会の招待状と一緒にこの手紙が入っていたのだが…アリアお前ではないのか?」
「これが私だと?内容もどう考えてもおかしいでしょう!?」
「最初はそう思ったのだが、何度手紙を出しても返事がない上に、寮に行っても面会拒否までされたので本当かと…」
「手紙なんて一度も受け取った事はないし、面会拒否をした覚えはありませんが?」
グエンは目を丸くして一瞬驚き、すぐに険しい表情を浮かべ考え出す。
そして、なにか思い当たったのか目を細めた。
「あいつ…」
アリアは黙ってその様子を伺っていると、グエンはアリアに視線を戻した。
「まんまと罠にはまる所だった。これはサザナミの仕業だ」
「え?」
「団長就任以来忙しくて、アリアへの手紙は全てサザナミに出してくれと頼んでいた。さらに、アリアへ逢いに行っても騎士寮の受付で面会拒否をされたものサザナミが手を回していたのだろう」
グエンは寮まで来てたのか…なんだか恥ずかしい…
アリアは少し顔を赤くして視線をグエン団長から逸らした。
「この夜会の時の手紙も恐らくサザナミが書いたのだろうな。アイツは左大臣側の人間でエド家の令嬢とは従妹同士だ。あと、レギアスの事もこころよく思っていない…」
トントンと扉をノックする音が響き、ガチャリと扉が開くとタイミング良く噂のサザナミが入って来た。
扉越しに立ち聞きしていたのだろうか。
「…グエン団長、社交界お疲れ様でした」
部屋に入ると何事もなかったような平然とした表情でグエンに挨拶をする。
あからさまにアリアの存在を無視した様子にグエンとアリアは静かにサザナミを睨んだ。
「サザナミ、説明してもらおうか?」
鋭く睨むグエンの威圧感に圧倒されてサザナミは一瞬萎縮したが、すぐに開き直った。
「私はグエン団長にはその女が相応しくないと思ったからです。グエン団長はもっと高貴な美しい女性を伴侶にむかえ、より良い人生を送って頂き」
「私の人生だ。私が認めた女でないと意味がない。アリア・サリアナは着飾らなくても高貴で美しい私がこの世の中で手に入れたいと思った、ただ一人の女性だ。」
サザナミの言葉を遮り、強くそして静かにグエンはアリアに対しての思いを言葉にした。
アリアは赤くなっていた顔を更に赤くしてグエンを見つめる。
グエンに本気で好かれているのだと知ったアリアは胸がぎゅっと締め付けられどんどん熱くなっていく。
「レギアスが余計なことさえしなければ、このままバレずにうまく事が運んでいたのに…」
サザナミは苦虫をかみつぶしたよう表情を浮かべ悔しそうに両手拳を握っていた。
「私は…愛だの恋だの、よく理解出来ない。ただ、アリアを手に入る為ならどんな形でもいいと思っていた。例え、それが愛人という形でも…」
グエンは熱いまなざしでアリアを見つめるが、アリアは眉間にシワを寄せて小刻み首を横にふった。
「いや、普通に考えて愛人になってあげるから、他の人と婚約してってオカシイでしょ…」
アリアは、思わずツッコミ口調でグエンを指摘してしまった。
仮にも団長という身分は上なのだが、あまりにも残念過ぎる思考に呆れたのだ。
「あれ?今日の護衛は…」
「レギアスが無理やりつけさせたものだ。サザナミは必要ないと断っていたがな。」
「…」
レギアスはアリアとグエンの話す機会を与えるためにアリアを指名して護衛させたのだとわかった。
突然、グエンはアリアの腰に手を回しグイっと近づける
「サザナミ、私はアリアと結婚する。お前の従姉のサクラとは婚約破棄だ」
「っ…」
サザナミは俯き何も言わず部屋を出て行った。
そんな彼を見送り、アリアはグエンの体温を感じるほど近くに密着され、少し落ち着いていた心臓がまたバクバクと早くなり体が熱くなっていく。
「…アリア・サリアナ」
グエンの低い声にビクっと反応して、アリアは固まってしまった。
そんなアリアを見てグエンは小さく微笑み優しくアリアのほほに右手を添えて自分の顔の方向に向けさせる。
グエンの黒く鋭い中に愛おしい人を見つめる瞳にアリアは吸い込まれそうになり、視線を外す事が出来なかった。
「私は何度でもお前にプロポーズをする。アリア・サリアナ、結婚してくれ」
「…他に…その、付き合っている人とか」
「?いるわけ無いだろう」
「わ、私でなくても、もっと素敵ないい人が…」
「アリア・サリアナ、私がお前と結婚したいんだ」
「…なんで?」
「っ…他の誰にも渡したくない」
「それだけ?」
恥ずかしそうにグエンを見つめるアリアの目はもう逃げたくないと思っていた。
ちゃんと確認したい…グエンは私をどう思っているか。
「…あ、愛してる」
誰よりも強く、いつもは厳しい表情をして、騎士をまとめる団長が耳まで真っ赤にして困った表情を浮かべ自分に告白している姿にアリアは萌えた。
こんな姿、他の誰も見たことがないのだろう。
アリアはクスリと微笑み。
「じゃ、まずはお付き合いしますか」
アリアの言葉を聞いてグエンはフッと微笑みゆっくりアリアに口づけをした。
それからというもの、ほぼ毎日アリアがいる第三部隊にグエンは最低一日3回はやって来る様になり、さすがに職務に支障が出るとなってレギアスはアリアに常にグエン団長の護衛に就くように命令を出した。
サザナミはしばらく休暇をしていたが、正式にエド家の令嬢とグエンが婚約解消となったのを気にグエンの補佐役として戻ってきた。
周りのお偉いさんからの圧力もあってそう簡単には解任する事は出来ない上に、サザナミはとても優秀な補佐官で本人も辞めるつもりはないらしい。
「私はまだアリア・サリアナさんの事、認めていませんから」
と、グエン団長の護衛という名目でグエンの傍にいるアリアにチクチク文句言っているが、特に何をしてくるわけでもなかった。
そんな日々が2月ぐらい続いたある日、アリアはグエンの護衛で一緒に馬車に乗って移動していた。
馬車内ではグエンがアリアを隣に座らさせて腰に手を回してアリアの肩を借りて頭を乗せてうたた寝をしていた。
団長の職務の多忙さを身近でみているアリアは少しでも休めるならと思いなにも言わずにグエンを休ませてあげていた。
一時して、少し寝ぼけたグエンの声が聞こえた。
「…アリア」
「あ、起きたか。団長」
「二人のときはグエンと呼べ」
「はいはい」
少しはぶてた顔のグエンにアリアはクスリと笑った。
「…アリアの親に挨拶に行きたい」
「…へ」
「結婚の許可をもらいたい。いまから行こう」
「は?いまから??」
アリアの肩に乗せていた顔を起こしグエンは思い立ったが吉日とばかりに真剣な表情でアリアを見つめた。
確かに今移動先の場所はアリアの実家が近くにある。
しかし、普通の平民の家にいきなり国の騎士団長様がやって来たら親は気絶するかも…
「さ、さすがに急に行くと困るから、また別の時にー」
「大丈夫だ、以前から挨拶に行くとは連絡している」
「は?」
のちにアリアは最初のグレンとの婚約の時から、外堀は埋められていたことを知るのであった…
やっと完成…長かった…正直、忙しすぎて小説あまり書く気になれない時期があって放置してました(笑)歯がうくような甘ったるい恋愛なんて、けっ!って心が歪んでたよーははは。
小説の中だけでも、甘い世界に浸りたい今日この頃です。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます!