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夢の欠片  作者: 嶺上開花
9/10

雨音-二-

~前回のあらすじ~

 ゴールデンウィークに入り、ケイトの家に泊まりに行ったレイン。

 これから二人の波乱に満ちた連休が始まる。

 君が好きだ。君を見るとこの気持ちでいっぱいになる。でもこの気持ちは外には出さない。いや、出したとしても君はこの気持ちには気が付かない。

 そのまま気付いてほしくはないという気持ちも、いつになったらこの思いに気が付くのだろうという気持ちもある。

 はたして君は何時どっちに転がるのだろうか…。


*****


 連休初日、レインは大荷物を持ってケイトの家に来た。ケイトはあきれたようだが追い返そうとはしなかった。

 昼はレインが作ろうとしたがいつの間にかケイトが作っており、それも結構手の込んだものであった。そしてうまいのでレインは何とも言えなかった。

 昼過ぎ、レインはソファで無防備に眠っていた。それをみて仕方ないという雰囲気うを醸し出しながらブランケットをそっとかけてやる。

「まったく…。ちょっとは遠慮ってものをだな…」

 ため息をつきながら寝ているレインの脇に座る。寝顔は他人の家とは思えないほど安らかだった。ケイトは眠っているならとレインをリビングに残し自室へと戻って中断していたゲームを再開する。


 レインが再び目を覚ましたのは夕方だった。結局この日は漫画を読んで寝ただけなのだ。せっかくの休みなのにとそのことを深く後悔してしまう。

「なんで起こしてくれなかったのよ~!」

「いや、気持ちよさそうに寝てたから起こすのも忍びないなと思って」

「せっかくの休みなんだよ!?遊ばなきゃ損でしょ!」

「はいはい、夕飯の支度するから手伝えよ~」

 ケイトは適当にいなしながらキッチンへと向かう。その姿を見てレインは只々むくれるしかなかった。

「いいもんっ!明日から遊び倒すもんっ!」

「遊び倒すのはいいけど、お前宿題あるの忘れてないか?」

 突然突き付けられた現実に、レインはさっと明後日の方向を向く。

「……レイン?」

「私は何も聞いてないし、何も知らない」

 どことなく棒読みにも聞こえるが、いくら現実逃避したとしても現実は変わらない。

「べ、別にかがりんに見せてもらうし大丈夫だよ!」

「たまには自分でやれよ…」

 人のいいかがりならぶつくさ言いながらも本当に写させてくれそうなのでまぁ大きな問題ではないだろう。


 風呂から出て洗濯機をまわし、乾燥機にかけておく。その間二人は昼と同じく各々のやりたいことに興じていた。

「で?そろそろいい時間だけどお前寝ないの?」

「ん~? ケイトが起きてるなら私も起きてるよ?」

 どうやらレインは今読んでいる漫画を読破したいらしく、黙々とページをめくっている。

「いや、もうそろそろ日付変わるぞ?マンガ読むなら明日でもいいだろ」

「明日は明日でやりたいことがあるの!だからこのシリーズは今のうちに読んでおきたくて」

「…それ、中間ちょっと手前くらいだろ?読み切るには時間かかるぞ?」

「……それもそうだね。じゃあお休み」

 葛藤した挙句、睡眠をとることにする。

「…まて、なんで俺のベッドに入ってるんだ?」

「え?寝るためだよ?」

「お前の部屋用意しただろ!?なんでそっちで寝ないんだよ!」

「あ、ケイトのにおいがする~」

 しきりに布団やまくらをクンクンと嗅ぐ。そして布団に潜り込んでいく。

「嗅ぐな寝るな出てけよ!」

「別にいいじゃ~ん、減るもんじゃあるまいし~」

 そういうと完全に布団にくるまって出てこようとしなくなる。まったく困ったものである。ケイトはあきらめたのかヘッドホンをしてゲームに戻る。それを確認すると、聞こえるか聞こえないかの声量でぽつりとつぶやく。

「結局許しちゃうような優しいところ、好きだよ」

「ん?何か言ったか?」

 どうやら何か言っていたというのは確認できたようで、片耳を向けてくる。レインは頬を少し赤く染めると別にと答えて再び布団に潜り込んだ。


*****


 翌日、連休二日目。結局布団やら枕やらを占拠されたケイトは夜通しゲームをプレイしていたらしく、寝不足特有の無気力さがにじみ出ている。

「お~い、レイン。いい加減起きろよ」

 夜も明け太陽も顔をのぞかせてきたのでレインを起こす。

「う~ん…?もう朝?」

「そうだよ。だからいい加減起きやがれください」

「日本語おかしいよ~?もしかして貫徹?」

「そうだよ誰かさんのせいでな」

「誰かさんのせいで寝不足って、なんか響きがいやらしいね~」

 皮肉で言ったつもりが、予想外の返しをされる。しかしもはや突っ込む気力もなく軽く受け流す。

「はぁ…兎に角俺はこれから寝るから、レインは適当に飯食っとけ」

「えぇ~?今日はケイトに料理教えてもらおうと思ったのに」

「じゃあなんで寝かさなかったんだよ…」

「一緒に寝ればよかったじゃん」

 それは色々問題あるだろ、と突っ込もうとしたが、なんかもう色々面倒になってきたので放っておく。ケイトは結局ベッドからレインを追い出し、布団に潜り込む。

「じゃ、ついさっきまで女の子が寝てた布団でごゆっくり~」

 もうどうでもいい。と観念し、意識を深い闇の中へと放り込む。布団からは嗅ぎなれないにおいと温かさを感じた。


 結局ケイトは昼まで寝ていて、起きたのは13時過ぎだった。起きると傍らではレインが昨日読んでいた漫画の続きを読んでいた。

「…ぅん」

 小さくうなって起き上がると、レインがおはよ、と声をかける。

「お昼作ってあるけど、食べる?」

「……いらない」

「わかった、ちょうど冷蔵庫に入ってるから晩御飯にでも食べよっか」

「……うん」

「———好きだよ」

「……うん?」

「寝ぐせひどいよっていったんだけど?」

「……うん」

 ケイトは寝起きが弱く、大体この会話も忘れてしまう。なので何を話しても意味はないのだが、念には念を押しておく。

 結局その日は漫画を読破しただけで、ほかには何もしなかった。


*****


 翌日、連休三日目。その日はあいにくの雨模様で朝からケイトの料理教室が開かれていた。

「だから、適量は適当に入れるんじゃなくて全体の量を見て入れるんだよ」

「別に適量も適当も一緒じゃん」

「…じゃあそれ味見してみ?」

 ケイトに味見を促され、スプーンにちょっと掬って口に運ぶ。

「うぇ、しょっぱい…」

「だから言っただろうに…」

 そうやって時間を過ごしてゆく。すると調味料がいくつかなくなっていたことに気が付いた。

「あ、もうなくなってたのか。買いに行かなきゃな」

「あ、じゃあ———」

「あぁ、俺ちょっと買い物行ってくるから、お前ここ方しといて」

 一緒に買い物に行ける。と思ったが、現実はそう甘くないらしい。台所は料理教室で汚した洗い物でいっぱいになっていた。確かにこれでは夕飯を作るどころの話ではないので、いやが王にも高づけなければならない。

「ま、すぐ帰ってくるから。その時は手伝うよ」

 そういうと、買い物の準備をしてそそくさと出て行ってしまう。家にポツンと取り残されたレインはソファに座り、なんも考えずぼーっとする。途端リビングは秒針が刻む音と窓からしみ込んでくる雨音に支配される。雨はこの時期には珍しくかなり強い。

 そしてついつい考え込んでしまう。勿論ケイトのことだ。レインは連休中にもその思いが強くなっていくのを感じていた。ふとした時に見せる表情も、そこから発せられるちょっと癖のある声も、布団から感じた彼のにおいも…。 どれもこれもが好きになる要因になってしまう。これがいわゆる恋煩いなのだろうか、と考えるが、ここまで長い時間患ってしまっていては、もはや持病といってもいいのではないかという風な気も起こさせる。

 まったく、いつになったら気が付いてくれるのであろうか…。

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