雨音-一-
昨日も今日も明日もきっとあなたをみつめている。それが私の日課だから。
それでもあなたは私の思いに気が付かない。
なにせ私はこの思いをずっとうちに秘めているのだから…。
*****
雨宮レインは恋をしている。相手は幼馴染の橘ケイト。一言でいえば朴念仁である。
今までいろいろとアプローチしてきたがどれもこれも不発に終わっているし、思わせぶりなせりふを吐いても効果がない。
しかし直接口にする勇気はない。なにせ勇気を振り絞って告白して断られた日には二度と立ち直れないと思っているからである。
それゆえにレインはケイトへの思いを隠したままにしている。これまでも口にしなかったように、これからも口にはしないだろう。
さて、時はゴールデンウィーク前。皆一様に浮足立っている。ある者は連休中に何をするかだったり、どこへ行くかなどと相談している。またある者はこの連休中に彼氏彼女を作るなどと息巻いている者もいる。
「で?みんな連休の話してるけど、ケイトは何か予定あるの?」
「無いけど…悪いか?」
どうやら予定がないといけないといった風に聞こえたのだろう。ケイトはばつが悪そうにしていた。その様子を見てくすりと笑いがこぼれてしまう。
「いやいや、ごめんね?別にそういうわけじゃないんだけど、私も予定ないからもし予定あるなら引っ付いていこうかと思って」
「なんだ、そういうことか。そうだな~…。 せっかくの連休だし、家でゴロゴロしてようかな———」
「なんで!?せっかくの連休なんだよ!?どこか遊びに行こうよ!」
「といってもなぁ…。 読んでない本とか溜まってるしゲームとかしたいし———」
「え~?どっかいこうよ~」
机に突っ伏し某バンドアニメの主人公を彷彿とさせるように足をばたつかせる。
「どっかって…具体的にどこだよ?」
「……どっか?」
「はい却下」
「なんで!?」
「具体案がないと行きようがないだろ…」
正論を突きつけられてむくれる。そこにそっとかがりが近寄ってくる。
「まぁまぁ。連休はリリーと遊びに行く予定なので、一緒に行きませんか?」
「え~?せっかくのおデートなんだし、私が邪魔しちゃ悪いよ~。てなわけでケイト、連休遊びに行くから」
「はぁ…。 なんでこうなるんだか」
レインはいつもこうだ。何かと理由をつけてケイトの家に潜り込んでいる。本土の実家でもよくケイトの家に転がり込んでいた。そのためもとより仲の良かった橘家と雨宮家の中でもレインとケイトの母の中の良さはほかの人間とは比べ物にならない。
「にしてもかがりさん、リリアとデートなんですね」
「ま、まぁ…そうですね。 で、デートって言っても、一緒に買い物に行ったりするだけですし…」
初々しいかがりに、二人はそれってデートなんだよなぁとほっこりする。
「まぁそんなこんなで、ケイト。連休間よろしく」
「は?お前もしかして俺んち泊まる気?」
「うん。そうだけど?」
「お前んち隣じゃん」
「うん。だから忘れ物しても大丈夫」
「いや、泊まりに来る意味ないじゃん」
「何?見られたらまずい物とかあるわけ?」
「な…無いけど」
「じゃ、決定だね」
「…。」
そんなこんなで、レインの連休の予定が決まった。
*****
ついに来たゴールデンウィーク。レインは約束通りケイトの家に来ていた。ケイトは言っていた通りゲームをしてた。レインはというとゲームをしているケイトの後ろで漫画を読んでいた。ケイトはゲームをしている間ヘッドホンをしているのである程度の雑音を出しても気にしない。それを見越してか、漫画を読んではくすくすと笑っている。
百合ヶ丘市に来る前も来てからも変わらない光景。いつもの雰囲気だった。
「…で?お前本当にうちに泊まるの?」
「え?そうだよ?」
ヘッドホンを外しながら振り返るケイトに、レインは漫画から顔を外さずに答える。ちなみにリビングにはレインの荷物が詰まれている。泊まるというのは本当なのだろうが…。
「どんだけ泊まる気なんだよもはや外泊ってレベルじゃねぇよもはやここに住みに来てるよ」
「ははは、言いえて妙だね」
「いやお前が言うなよお前のことだよ馬鹿野郎」
一蹴回ってあきれるが、本意ではないだろう。なにせいままで何度も言ってきたことだ。レインも耳に胼胝ができるほど聞いたであろう。だからこそ憎み口のようなことでも気にせず言い合えるのだ。レインはそんな二人の仲を心地よく感じていた。
「兎に角、泊まるんだったら部屋用意するから」
「え?一緒に寝ないの?」
「摘まみだされたいか?」
「ごめんごめん嘘嘘」
ついに漫画から顔をあげてえへへと笑う。そうして二人の波乱の連休が幕を開けたのである。