表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の欠片  作者: 嶺上開花
6/10

仮面-乙-

~前回のあらすじ~

 八ノ瀬 陽太は人前ではニコニコしているが、本当はそうではない。

 それを知っているのは如月 遙のみである。

 心の奥底にはいろんなものがある。例えば本当の自分、捨てた気になっている記憶、トラウマ…いろんなものが埋まっている。

 それを隠すのが表層の自分。つまりは仮面の自分だ。その仮面の自分が剥がれ落ちた時、人はいったいどのようになるのか…


*****


 百合ヶ丘市立百合ヶ丘学園大学部。今日も人気者は女性に囲まれて黄色い声を浴びていた。遙はそれをはたから見ることしかできなかった。

 講義と講義の間の時間には陽太の周りに人だかりができ、移動はまるで民族移動のようにぞろぞろと移動する。更には陽太と一緒にいたいからというような理由で講義を選んだ者もいる。まったく…物好きなものだ。

「にしても、部活に抗議にと…。 あんなに忙しい奴は初めて見たぞ」

「あ、マサムネ先生」

 マサムネはたまに大学の講義にやってくる。といっても授業のやり方はあれだが…

「俺が大学の時なんて、ゼミでバカやって酒飲んでバイトしてって感じだったぞ!?もっと青春しろよ!」

「先生、それ僕が知ってる青春とは全く違うんですが」

「ま、そんなことはどうだっていいさ。重要なのはあいつの心労の方だよ」

「え…?」

 心労、というともしかするとあれのことだろうか?

「…先生、知ってるんですか?」

「なんのことかな~?先生わかんないな~…っと、今度は中等部行かないとなっと」

 マサムネはそういうと必要機材を持って講義室を後にする。本当に色々謎な人である。

 マサムネは色々と噂が立っている。実は某有名大学で博士号を取っているだとか、質は学園創立から務めているだとか、そもそも百合ヶ丘市創立からかかわっているだとか。その中でも特に現実味があるのが『学園に通っている生徒全員の秘密を掌握している』というものである。ちょくちょく隠し事を言い当てられたり、ちょっとした秘密を当てられたりと裏付ける要素がたくさんある。

「やっぱりあの噂本当なのかな…」

 そんなことを言っていると、陽太が遙の方に向かって歩いてくる。

「は~るかっ!お昼食べようぜ」

「あ、うん。いいよ、どこ行こうか」

「う~ん、中庭の木陰なんてどうかな?」

「わかった。場所取っとくね」

 二人は話しながら売店へと向かう。学園には各学部に一つずつ食堂があり、学生証を見せると無料で食事をとることができる。それとはまた別に各所に購買があり、そこでは消耗品やパン、弁当などいろいろなものが売られている。

 遙は購買でパンを買った後、中庭ではなく屋上に向かう。そこにはすでに陽太の姿があった。二人の間では二人だけで食事するときは屋上と決めている。屋上は開放されているにもかかわらず人気がないのでいろいろなことを気兼ねなく話すことができる。たいてい講義室なんかで話している場所はブラフだ。そうでもしないと人が押し寄せてきてちゅしょくにもならないからだ。

「それでどうしたの?陽ちゃんから誘ってくるのって珍しいよね?何かあった?」

 沈黙。遙が屋上に来てからも隣に座ってからも一言もしゃべらないのだ。

「……遙、俺…さぁ」

 重々しい雰囲気で口を開く。

「同じ講義受けてる梅木(うめき) 芳香(よしか)ってヤツとつきあおうと思うんだ」

 瞬間、遙に衝撃が走る。誰とも付き合おうとしなかった、それどころか女性と付き合うという発想がないと思っていた。いや、これは遙が勝手に思い込んでいただけなのだが…。

「えっと、どんな人なの?」

「かわいい奴だよ。俺のこと慕ってくれるし、面倒見てくれるし…それに」

「それに?」

「本当の俺を知ってもなお、俺のこと好きでいてくれたんだ」

 本当の陽太、というと粗暴な言い方が目立つこの陽太である。その陽太は百合ヶ丘市内では遙と、おそらくマサムネだけだろう。そんな彼を知って、なおも好きでいるとはなかなかのものである。

「そっか、そうなんだ…」

 言葉に詰まる。というよりも衝撃があまりにも大きすぎてどんな言葉を掛けたらいいのかわからない。

 しかし、どうしてこんなにショックを受けているのだろうかという疑問が浮かんでくる。

 陽太は幼稚園からの付き合いだからそこそこの付き合いになるし、プライベートでも付き合いがある。そんな彼に彼女ができるのはきっと喜ばしいことなのだろうが、なぜだか喜べない。

 そして一つの回答に結び付く。そうか、俺は陽太のことが好きだったんだと。

 好き、という感情ではないのだろうが、なんというか親愛というか友愛というか…兎角そういうものではあるがそれは愛には違いないだろう。そんな彼の幸せは願ってもないことだ。しかし素直に喜べない。

「…おめでとう、陽ちゃん。

 ごめん、俺、用事あったから…」

 遙は逃げるようにして屋上を後にする。陽太はその背中ををただ見送るしかなかった。


*****


 あの日から数日経ち、陽太が芳香と付き合い始めたという話は大学部中に広まった。ある者は芳香をうらやみ、またある者は二人の出会いを祝福していた。

 そんな中、遙は陽太との距離を開けていた。物理的にも、立場的にも。

 そしてある日、事件は起こった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ