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夢の欠片  作者: 嶺上開花
10/10

雨音-三-

~前回のあらすじ~

 ケイトへの思いを日に日に強くさせるレイン。

 はたしてその思いが伝わる日は来るのだろうか…。

 そばに居たい。ずっとそれだけ願っていた。だからこの関係を保つためにこの気持ちを心の奥底にしまってきた。

 いつだってこの心はきみのことでいっぱいである。しかしこの気持ちを打ち明けることはしない。もし打ち明けてしまったらこの関係が壊れてしまうから…。


*****


 ———おい…  おきろ……

 遠くから聞きなれた声が降り注いでくる。

 ———おい、おきろ…

 優しくも癖のある声。レインの好きな声。

「おい、起きろ」

 目が覚める。どうやらいつの間にか寝てしまったいたようだ。

「ん、ケイト、帰ってきてたんだ」

「あぁ、帰ってきたらびっくりしたよ」

 あぁ、寝てしまっていたからだろう。

「ちっとも片付いてないのに寝てるんだもんな」

 …そうだった。キッチンの片づけを全くしていなかった。

「ご、ごめん」

「いや、いいよ。そんなことより大丈夫か?体調わるかったりしないか?」

 そう、こういうところである。いつもは軽口をついているくせに、ふとした時に優しかったり、気にかけてくれたり。

「……ほんと、そういうとこだよね」

「ん?何がだ?」

 ついぽつりとこぼれる。一瞬あっけにとられたが、自分が何をしたか気が付いて何でもないとお茶を濁す。

「そ、そうだ。キッチン片付けなきゃだね!」

 言葉だけでは足りないと思って、キッチンの片づけをいいことに逃げ出す。まったく、油断も隙も無い…いや、油断していたのはレインの方だが。

「じゃ、一緒にかたづけるか」

 そして結局二人並んで洗い物を済ませる。その間、レインは気が気ではなかった。


 その日の夜、風呂でのこと。レインは肩まで湯船につかりため息をこぼしていた。

「はぁ…。 どうしたらいいんだろうな、私」

 確かにケイトに気付いてほしい。しかしそうなるとこの関係はきっと崩れてしまうだろう。それゆえに、この関係を守りたいがために胸の内に秘めたままにしている。だがそれも限界が近いらしい。

「どうしろってのよ、もう…」

 結局答えは出てこず仕方なく天井をあおる。天井からは水滴が無機質に見下ろしてた。


*****


 翌日、連休最終日。レインは悶々としたまま一睡もできず、目の下にマサムネのような大きなクマを作ってしまっていた。

「レイン、大丈夫か?もしかして眠れてないのか?」

「ん?あぁ大丈夫」

 心配しないで、と続けるつもりが、レインは力なく倒れこみそうになる。未遂に終わったのは途中でケイトが受け止めてくれたからだ。

「おい、絶対大丈夫じゃねぇだろ!もう今日は家帰れ!」

 結局レインはケイトによって自室まで送られ、そのまま二人のゴールデンウィークは終わった。


 学校が始まり、朝登校しようとすると急激なめまいに襲われる。どうやら本格的に体調を崩したらしい。どうにかこうにか学校には連絡できたが、今日はもう安静にしておいた方がいいだろう。

 レインは布団に入ったままぼーっとする頭で考えこむ。気づいて欲しいのか、欲しくないのか。結局答えは出ていない。

 関係を保つためなら気づかれないのがいいのだろうが、それではやっぱりさみしい。恋心を抱いている以上気づいて欲しいものである。

(あぁ…。 わかってたことだけど、結構わがままだな、私…)

 改めて自分の性格を見つめなおしていると、k痛に睡魔が襲ってくる。レインは抵抗する暇もなく睡魔に呑まれた。


 はっと、呼び鈴が慣らされていることに気が付き目を覚ます。体は眠る前とは打って変わって何の異常も感じられない。

 兎角待たせては悪いと玄関に急ぐ。玄関を開けるとそこにはケイトの姿があった。

「あ、レイン。もう起きていいのか?」

「うん、一日寝たらすっきりしたよ」

 嘘ではない。事実を述べたまでである。

「はぁ?なんだよそれ。心配して損した」

 心配してくれた、というだけでうれしくなってくる。

「ふ~ん、心配してくれたんだ」

「まぁな、お前がいないと教室も静かだし」

「そんなにうるさくないでしょ!?」

 あんがいな理由に思わず叫んでしまう。

「はは、それだけ元気があればもう大丈夫だな」

 思わずケイトは笑顔になる。久しぶりに見た、思い人の笑顔。レインもつられて笑った。

(あぁ、やっぱり私ってわがままだな)

 そう、わがままなのである。この笑顔を自分一人のものにしたいと思ってしまうのだから。

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