プロローグ
東京から船に揺られてたどり着いたのはとある人工島。
そこではいずれ日本に取り入れられるであろうある法案が試験的に適応されている。
移住できるのは性格診断に合格した者とその親族のみ。そもそもその性格診断の合格基準も明かされていない上にかなり難解である。
そんな場所に、とある一人の少女が足を踏み入れたのだった。
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4月。吹き抜ける風は暖かく、街路樹の桜には満開の花が咲いている。
バスに揺られながら外の光景を眺めていると、これから通う学校の校門前にバスが停まる。
学校は外から見てもかなり大きく、設備も整っているように見える。それもそのはず。ここ百合ヶ丘学園は日本の市立校の中でも最も大きく、しかも幼稚園から大学までが一貫となっているのだ。
少女が通うのは高校。少女は高校入学を機にここ百合ヶ丘市に越してきたのである。
「おはようございます。新入生…だよね? 新入生は入口横に貼られているクラス分けで自分のクラスを確認して教室に入ってください」
突然男性教師に話しかけられて肩をびくりと硬直させる。ついでに手渡された資料には“新入生の手引き”と書かれている。
歩きながら1ページ目を開こうとすると、後ろから背中をポンと叩かれる。
「ヘイ彼女っ!歩きながら読んでると何かに躓いて転んじゃうかもしれないぜ!」
そうやって駆け抜けようとしたのだろうが、唐突に後ろから衝撃を加えられた所為か、バランスを崩して転びそうになる。
「おぉっとっと、大丈夫?ごめんね、ボクの所為だよね?」
転ぶ寸前に気付いてくれたようで、その人物の胸の中に抱きかかえられる。相手は男性だと思い込んでいた少女は恐る恐るその人物の顔を見上げる。
「えっと、君新入生だよね?
先週越してきた!?じゃあここの法律になれるのも難しいかもだけど、兎に角頑張ってね。
というわけでようこそ!日本で唯一同性愛・同性婚が法的に許されている行政都市。
百合ヶ丘市立百合ヶ丘学園へ!」