表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

嘘だよ。

作者: 瑠音




「──ねえ、今日ってエイプリルフールでしょ?」




そう言って目の前で微笑む彼女。

俺は目をパチクリさせて、その顔を見つめる。そして、カップに手を伸ばすとコーヒーを一口含む。


新年度の始まりの4月1日。

始まりの日が日曜日ということで、のんびりと過ごそうと勝手に計画していたのだが……そうもいかないようだ。


彼女は、俺の反応を今か今かと待っている。

その期待の眼差しはやめてくれ。



「……だったら何?」



俺が冷静にそう返すと、彼女はムスッとして、これでもかというほど頬を膨らませる。


「何ーっ!?その冷たい反応っ!!本当にいつもいつも冷めてるんだから!!!!」


「いや通常運転です。」


「その通常運転が冷めてるのっ!!」



朝の食卓に響く、彼女の大きな声とは対照的に、テレビの画面では男性のニュースキャスターが、淡々と先日起きた殺人事件の事を語っている。




「とりあえず、せっかくのエイプリルプールなんだから、私今日は嘘つき続けるからね!」




「……………はあ。」



彼女は自信ありげにそう宣言する。

まあ良い。暇潰しにはなるだろう。付き合ってやるか。



「まあ、いいよ。好きにしろ。」



「やったー!!ありがとう!!」




それから、彼女の一人嘘つき大会が始まった。

てか、嘘つくって予告されてたら反応のしようがないよな。本当に、何考えてるんだ?アイツは。



***



「ねえねえ聞いて?私、実は男だったの。」


「……ふーん。」


「騙された?」


ニコニコと微笑む彼女。


「いや全く。」


「あー!!残念!!」




***




「ねえねえ!!ハワイ旅行が当たったの!!すごくない!?」


「……すごいねー。」


「……信じてないでしょ!?」


「よく分かったね。」




***




「そういえば、この間一万円貸したよね?」


「え?」


「まだ返してもらってないから返してね!」


「……貸したっけ?」


「フフッ……嘘で──」


「いや、俺お前に貸してるじゃん。ちゃんと返せよ?」


「…………………えっ!?」




***




「……あのね、私、妊娠したみたいなの。」


「…………反応に困るんだけど。」


「ちょっと信じた?」


「……いや信じてない。」


「もう!!ちょっとは騙されてよね!!」




***



そんなこんなで小さな嘘をつかれ続けて、夜になった。

少しずつではあるが、嘘のつき方がうまくなっている。やっぱり何でも積み重ねていくことって大切なんだなーと、一人納得していた。


そして、夕飯の時間になり、彼女はいつものようにテーブルにご飯を並べてくれている。俺は、ニュース番組を見ながら、ボーッとしていた。

今朝報道されていた殺人事件のことについて、またニュースキャスターが語っている。



「──それにしても、ひどい事件だよな。」


俺がそう言うと、彼女は皿を置いてテレビを見る。


「子どもが誘拐されて殺されてた事件のこと?」


「そうそう。何でそんなことが出来るのか分かんねぇわ。」


「……そうだよね。」


彼女も悲しみに暮れているのか、表情は暗い。



「──ねぇ。」



彼女は、ボソッと呟く。





「その子を殺したの………私なの。」




俺は、飲もうと思った湯のみを思わず落としそうになる。



「おいおい。さすがにその嘘はダメだろ。」



そう言いながら、お茶を一口含む。

そして、彼女の方を見るが、俯いて何も言わない。





「……おい?」





ゆっくりと声をかけると、スッと顔を上げる。

そして、俺の目を見つめたまま何も言わない。




「……え、お前、何?もしかして本気で言ってんの?」




心臓が嫌というほど大きな音を立てる。

彼女は、いまだ何も言おうとはしない。


おい、何か言えよ……!!


心の中でそう叫ぶと彼女は微笑んだ。

















「──どっちだと思う?」
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エイプリルフールに、仲睦まじい二人の元に起こった、どこか甘い物語。 途中まで、そんな事を想像しながら読んでいたので、最後の展開には驚かされました! どうか、エイプリルフールの嘘の一つで…
[良い点] 最後は嘘だよね? 最後のセリフの後にタイトルの「嘘だよ。」が来るんだよね? そうだよね? そうですよね!?
[一言] 読ませていただきました。 彼女の最後の言葉はどっちなんでしょうね。 嘘だとしたら彼は安堵するでしょうけど、本当だとしたらどんな行動に出るんでしょうかね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ