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街からの帰還

「いいですか? もう一度言いますが、陽が暮れかけたこのような時間に、女性が一人で外出するというのは感心致しません。荷物をこんなに手にしていては咄嗟の時の対応が遅れて危険です。貴女がいた場所も良くはありませんよ?」

「は、はい……すみませんでした」


 私は半分になった荷物を持ちながら、お城へと帰る道を歩いていた。

 隣には、私の荷物を半分持った、銀髪の少年。

 彼による、歩きながらのお説教の真っ最中である。

 姿を見た一瞬こそ助けにはならないだろうと失望した私だったが、それに反して、この少年はあの四人の男性達をあっという間に地面に倒れ伏させてしまった。

 そして男性達が起き上がる前に素早く私の手を引き、駆け足でその場から逃げ出したのだった。

 その後大通りに出て足を止めると、後ろを振り返って男性達が追って来ない事を確認し、道の端に寄って私に事の顛末を聞いてきた。

 私がそれに素直に答えると、少年は呆れたような顔をしてお説教を始めたのである。

 まず、私が歩いていたあの通りは、大通りではなかったらしい。

 どうやら私はあの広場に入ったのとは違う道から出て、別の、人通りの少ない通りに出てしまったようだ。

 荷物の重さに気を取られて、建ち並ぶ店の様子が違う事に気づかなかったみたい……うう、恥ずかしい。

 道理で、人がいなかったわけだ……。

 次に、陽が落ちてきているこの時間に一人で外出しているのも、いけなかったらしい。

 陽が高いうちなら女性一人や女性のみでの外出も普通らしいが、今くらいの時間になると異性同伴以外で外出する女性はまずいないらしい。

 そういえば午後中の講義でも、夕方以降の外出はしないようにと言われていたんだった、すっかり忘れてた……。

 そして、荷物が多いのは……うん、反省してます……。


「……さあ、着きました、王城です。この中は見回りの騎士達もいますし、ここからは貴女お一人でも大丈夫でしょう。……荷物、持てますか?」

「う、うん、大丈夫。ありがとう」

「いえ。では、僕はこれで。……いいですか、メイド殿? いくらお仕事の買い出しとはいえ、もうこんな無茶はしてはなりませんよ?」

「えっ? あ、いや、えっと~……う、えっと、うん……もうしないよ。今日は、本当にありがとうね」


 私はメイドさんではないけれど、それは、まあ、訂正する事はないだろう。

 また会う事があるかもわからない、名乗り合ってすらいない相手。

 お説教が始まる前に申し出た、お礼に何か奢るよという言葉は、『当然の事をしたまでですから』と固辞されちゃったし、助けてくれた事に対する感謝の気持ちだけしっかり伝えれば、きっとそれで十分だ。


「……それじゃあ、さようなら」

「はい。ご自分の住居に戻られるまで、転ぶ事のないよう、どうかお気をつけて」

「うん、ありがとう。君もね」


 少年から荷物を受け取り、それをガサガサと揺らしながら小さく手を振ると、私はくるりと体を翻し、お城の門をくぐって歩き出す。

 少し進んでからふと振り返ると、少年もこちらに背を向けて街へと歩を進めていた。

 私は数秒の間それを見送り、やがて再び歩き出そうと、また体を翻す。

 すると、正面から、金茶の髪をした男性が早足でこちらに向かって来るのが見えた。

 ……これから外出、いや、家に帰るのかな?

 もう陽が落ちたし、急いでいるのかも。

 私は道を譲るつもりで端に寄ったが、何故か男性も端に方向転換してきた。

 そして、スピードを落とさず私に向かって歩いてくる。

 え、な、何……!?


「ユイカ・トガクレ嬢! こんな時間に、街に出ていたのですか!? 道理でどれだけ探しても隊舎にも何処にもいない筈だ……!! なんて危険な事をしているんです!? ああもう、こんなに荷物を持って……貸して下さい、持ちましょう」

「え、え? あ、あの……ごめんなさい? あ、ありがとうございます……?」


 開口一番に早口に捲し立てられ、次いで荷物のほとんどを奪われた私は、ぽかんと男性を見上げ、戸惑いながらも謝罪とお礼を口にした。

 男性は荷物から私に視線を戻すと、そんな私の様子に気づいたようで、一瞬ハッとした表情をし、罰が悪そうに目を伏せる。


「ああ……すみません。こちらはまだ名乗ってもいないのに、不躾でしたね。失礼しました」

「あ、いえ……。……えっと、貴方も、私の世話役のお一人、なんですね?」

「え? ……ああいえ、違います。私は貴女の、貴女方の伴侶候補の一人ですよ。貴女方、召喚された女性のね」

「えっ? …………伴侶、候補…………って、ええっ!?」


 そ、それはつまり、あの大勢の男性達の一人!?

 え、そんな人が何で私の所に!?

 今日のお昼までは一切放置だったのに!


「ど、どういう風の吹き回し……!?」

「っ、か、風の吹き回し……。……いや、そう言われても仕方ありませんね。……すみません、私は、貴女ともお話をさせて戴きたかったのですが……何しろ貴女は、女神様の命の恩人で、粗雑に扱えば容赦せぬと女神様より厳命されているお方。不用意に交流をもって、万一酷くご不快な思いをさせ、女神様のお怒りをかってしまっては自身の身の破滅は勿論、それだけでは済まない可能性もある。故に、大まかでも貴女の人となりを知ってから交流をと、貴女の近くで控えていたのです」

「え?」


 な、何それ……つまり私がぼっち状態になってたのは、下手な事して女神様のお怒りをかうのを恐れてたって、ただそれだけの理由?

 いや、確かに神様を怒らせるなんて、そんな事になれば自分だけでなく家族にまで害が及ぶだろうし、避けようとするのが当然だろうけど……。

 ……なあんだ、少なくとも、この人にとっては外見が理由なわけじゃなかったんだ……そっかぁ。


「けれど、今日の昼食の時間、ジューン殿と貴女の会話を耳にして、貴女にあのような誤解をさせているのでは本末転倒だと思い直しまして。今からでも交流を持たせて戴こうと、仕事を急ぎ片づけ向かったのですが……予定表を見て、貴女の第十六士団隊舎へ行ってみれば貴女はおらず、貴女の自室へ訪ねてもおられない」

「え。あ、あっ……!? そ、そういえば、予定表には掃除としかっ!」

「ええ。ですから、その掃除が予想より早く終了し、時間が余ったのだろうと考え、中庭や書庫等の暇を潰せる場所を探してみたのですが、やはり姿はなく。まさかとは思いましたが街を探そうと向かう所で、漸くこうしてお会いできたという次第です」

「う、そ、それは……すみません。結構、探させちゃいました……よね?」

「ああ、いえ、それは良いのです。貴女をあちこち探して歩くというのも、案外楽しかったですから。……ですが。……こんな時間にお一人で街へ行ってらした事は、良くはありませんよ? ユイカ・トガクレ嬢?」

「……えっ!? ……あああの、それは、助けてくれた男の子にも厳しく注意されましたから、もう十分反省を……!!」

「……助けてくれた? ……何か、あったのですか!? 怪我はっ!? 怪我はありませんか!?」

「ひぇっ!? だ、大丈夫です……!!」


 突然ガシッと肩を掴まれ、上から下まで何度も視線を走らせる男性にそう答えると、男性はホッとしたように息を吐いて肩を離してくれた。

 けれど……そこからはまた、あの少年と同じ内容のお説教が、男性の口から発せられる事となってしまったのだった。

 うぅ……夕方以降の外出は、もう二度と一人ではしないよ……。

 ……あれ、それに結局、あの人……自己紹介、してないよ?

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