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買い出しにて

 街に出た私は、露骨過ぎないよう、あくまでさりげなくと心の中で繰り返しながらゆっくりと辺りを見回しつつ大通りを進んでいた。

 通りに軒を連ねる店舗は白や黒、ダークブラウンにベージュ、淡いオレンジ等、様々な色彩の石造りの建物で、軒先にはそれぞれが何の店かを示す看板が掲げられている。

 私は頭の中で買う必要のある物を再度思い浮かべながらも、ついつい興味を惹かれて各店のショーウィンドゥから中を覗き見つつ、足を進めた。

 時折衝動にかられ今は不必要な物を売っている店に寄り道したりしながら、それでも順調に購入すべき物を買い揃えて行った私は今、買い物の途中、交差した道の奥に見えた広場にあるベンチで座っている。

 帰る前の小休憩である。


「ふぅ……あはは、ちょっと買いすぎちゃった」


 歩き疲れた足を休めつつ、隣におろした買い物袋の山を見て、私は苦笑いを浮かべた。

 袋の中には、ペンやノートに掃除道具、お菓子とお茶の葉等の当初の予定の物もあれば、寄り道した店等で衝動的に買った、買ってしまった本や栞、鉢に培養土に花やハーブの種、下着と洋服等の予定になかった物も詰まっている。

 我に返った今となってはちょっと後悔している。

 明らかに買いすぎだ、とても重い。

 これらを持って、お城の敷地にある隊舎や自分の部屋まで歩いて帰らなければならない。


「うう、道のりが厳しい……でも自業自得だし、頑張らなくちゃ」


 そう呟いて己を鼓舞し、両手に袋の山を持って立ち上がる。

 うっ、やっぱり重い……でも、頑張れ私!

 時々立ち止まっては袋を地面に置き、再び持ち直してまた歩き出す、を繰り返しながら広場を出て、大通りを進む。

 その歩みはヨロヨロとしてどこかおぼつかないものである事は、自分でも自覚している。

 最低限、人にぶつかり迷惑をかける事だけは避けようと周囲に注意を払って歩いて行く。

 けれど、幾度めかの交差点で、曲がり角から突然現れた人影に、避ける暇もなくぶつかってしまう。

 幸い、それは相手の腕と、体の前に出していた私両手と荷物の袋が軽く当たった程度で、袋の中身を地面にばら撒く事もなかった。

 その事にホッとすると同時に、相手に謝らなければと慌てて顔を上げ、口を開く。


「す、すみません! 突然で、避けれなくて! 気をつけてはいたん、です……が、?」


 謝罪を口にしながら相手の顔を見上げると、何故か相手の、その男性はニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

 ぶつかられたのに笑みを浮かべている意味がわからず、そしてその事になんだか嫌な予感がして、私は一歩後ろに下がる。

 すると、今度は背中がトン、と何かに当たった。

 首だけで後ろを振り返れば、そこにはいつの間にか別の男性が立っていて、その男性も前にいる人同様、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。

 その顔を見た途端、嫌な予感は強くなり、私は慌てて横にずれようと視線と体を右に向けた。

 しかしそれは既に遅かったらしく、道の反対側からやってきたらしい男性二人組が、やはりニヤニヤとした笑みを浮かべて私のすぐ隣まで迫ってきていた。


「……!!」


 急いで反対側に体を反転させるも、左側には店があり、そちらへは進めない。

 逃げられない状況に素早く追い込まれた事を悟って、血の気が引いた。


「くくっ、だ~いじょうぶだよお嬢さん、気にしないで? それより凄い荷物だね、運ぶの手伝おうか? え、お礼? そうだなぁ、帰る前に俺らとちょ~っとお話してくれればいいよ。ね? 決定!」

「いやぁ、優しいでしょ俺ら? さ、立ち話も何だし、移動しようか? 裏通りに俺らの馴染みの、個室で話せる良い店があるんだよ~」

「っ、い、いえ、結構です……!!」


 私は店の壁に体をくっつけ、男性達から僅かに距離を取る。

 けれど囲まれている状態ではそれは無駄な抵抗で、男性達はすぐに容赦なくその距離を詰めてきた。

 ああ、どうしよう。

 こんな事になるんなら、魔導士団の制服を着たまま街に来るんだった。

 あれを着ていたなら、使えるだろう魔法を警戒して、こんな人達に絡まれる事はきっとなかったのに……!!

 ……って、んんっ?

 そうだよ、魔法!!

 恐怖に支配される頭で行えたであろう防衛策を考え、ふと気づく。

 次いで慌てて、口を開いた。


「結界! 防御結界っ!! 展開して~っ!!」


 今だ一度も使った事なんてない。

 呪文があるかどうかもわからない。

 けれど今取れる方法はこれしかない。

 藁にもすがる思いで口にすると、次の瞬間、パキンと音がして、私と男性達との間に薄い半透明の膜が現れた。


「あ? 何だこれ?」

「……これ……魔法、か? ……てことはこの女、貴族か!! おい、やったぞ、上物だ! 一時のお楽しみだけじゃなく、今後も親から金が脅し取れるぜ!?」

「おおっ、やりぃ!!」


 突如現れた膜を凝視し、コンコンと叩き魔法であると推測を立てると、男性達はおかしな事を口にして何故か喜び始めた。

 一時のお楽しみ?

 親から金が脅し取れる?

 今この世界にいる私には、親はいるけどいないも同然だし、一時のお楽しみとやらを共に楽しむ気もない。

 ない……けど、さて、これからどうしよう。

 無事に結界が展開されたおかげで男性達は私に触れず、考える余裕ができたけれど、囲まれているという状況は変わっていない。

 この結界がいつまで保つのかもわからないし、一刻も早く逃亡策を捻り出さなくては。

 助けを求めて通りに視線を走らせるも、どうやらこの男性達はちょうど周囲から人波が途切れた瞬間を狙ったらしく、人がいない。

 いたとしても、今いる交差点の向こう、遠くのこことは違う通りで、声を張り上げても届くかはわからない。

 ……どうしてだろう、ここは大通りなのに。

 だいぶ陽が落ちてきているとはいえ、こんなに人がいないなんておかしくない?

 そう思った時、頭上からピシッという嫌な音が聞こえた。

 次いで、男性達から嬉しそうな歓声が上がる。

 恐る恐る音がした場所を見れば、半透明の膜にヒビが入っていた。

 男性達はその場所に、激しく拳を叩きつけている。


「……い、嫌……誰か。……誰か、助けてぇっ!!」


 最早考えている余裕などない、結界が壊れればそこで終わりだ。

 結局何の策も浮かばないまま、私はただ、声の限りに叫んだ。


「……そこで何をしているのです?」

「!!」


 次の瞬間聞こえた、天の助けとも言える声。

 私は、これで助かるという期待を胸にそちらへと視線を向けたけれど、しかしそこに立っていたのは、十代半ばくらいの、銀髪の少年だった。

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