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異世界に到着です

 暖かな日射しを感じて目を開けると、そこは森の中だった。

 足元には四角い石の床があり、その上に丸い魔方陣のようなものが描かれていて、それはまだ淡く白い光を放っている。

 周囲を見渡せば、床の端、四方に四本の石の柱が立っていて、その柱の外、前方に変わった服を着た人達がいた。

 ファンタジーな世界でいうのならば、あれは魔法使いや神官が着る服だろうし、鎧を纏い腰に剣を差した騎士もいる。

 そして、仕立てのいい、高級そうな服を着た人達も。

 暫くの間お互いがお互いを眺めていたが、魔方陣の白い光が完全に消えると、高級そうな服を着た人達の中の一人がこちらへ歩いて来て、石の床に乗ると、その場に膝をついた。


「ようこそおいで下さいました、異世界の乙女、女神様に選ばれた方々よ。私はこの国、グランベリル神聖国の王太子、ゼオスイード・グランベリルと申します。貴女方にはこの国の男達と情を交わし、婚姻を結んで戴きたいのです」


 真剣な顔でそう切り出した王太子様は、続いてその理由を、大層な言葉を使って、長々と説明した。

 要約すると、この世界では幼い女子がかかりやすい死病があり、女性が少ない。

 その為に五年に一度女神様にお願いをして異世界から女性を招き、その時に一番女性の数が少ない国に行って貰い、その国の男性達と婚姻を結んで貰うのだそうだ。

 そう、男性達、と。

 この世界は一妻多夫らしい。

 その話を聞いた途端に戸惑いを示した私や周りの女の子達を見た王太子様は、『無理ならば一人でも構いません、けれど必ず一人とは婚姻を』と付け加えた。

 ……あの女神様が言っていた就職の世話って、永久就職の事だったのか……。

 そう思って遠い目をしていると、王太子様が背後に何やら合図を送り、それまでただ佇んでいた男性達が一斉にこちらへと歩いて来た。

 そして、次々と女の子の手を取ったり、周りに群がったりしながら、何処かへと誘導して歩いて行く。

 その様子をぼんやりと眺めて、やがてはたと気づく。

 ……あれ、私は?

 自分には誰も寄って来ない事に慌てて前を歩いて行く人達を見て……ああ、と、納得した。

 この世界に送られた、私の以外の女の子達は皆、可愛かったり、美人だったり、魅惑的な体つきだったりと、魅力的な子ばかりだった。

 考えてみれば、この世界の男性と結婚する為に送られる女の子達なのだから、魅力的な子達なのが当然である。

 けれど私は、たまたまあの女神様を助けてそのお礼にと急遽メンバーに加わっただけの、平凡な容姿の女。

 男性達の目や興味が私に向かないのは自然な流れと言えよう。

 ……でも、まあ、今は容姿や魅惑の肉体に興味を持って行かれても、そのうちに性格の不一致とかであの子達から離れる男性もいるだろうし、そういう人達が私に目を向ける事もあるかもしれないよね。

 それに、当然、ここにいない独身男性もいる筈だし、焦る事はないかな。

 とりあえず、何か他の職を探しながら、このファンタジー世界での生活を満喫しようっと。

 あ、そういえばあの女神様、チート能力をひとつくれるって言ってたよね……どんな能力なんだろう?

 あとで確認しないと……こういった世界では定番のアレ、ステータス、で、見れるのかな?

 そんな事を考えながら、前を歩く人達について行く為、歩き出す。

 きっと彼らは、これからの住居となる場所に案内してくれる筈だ。

 他の女の子達が使用する部屋を決めるのを見て、残った部屋を使わせて貰おう。

 そう決めて、彼らを見失わないよう視線を固定しながらテクテク歩く私の前に、突如、横からスッと影が立ち塞がった。


「んっ?」


 目を瞬いてその影を見ると、それはなんと、あの王太子様だった。

 あれ、この人、まだいたの?

 しかも何で、私の前に立ったんだろう?


「あの……?」

「ユイカ・トガクレ嬢ですね。女神様より、貴女の事はより丁重に対応するようにと申しつかっております。何でも、猫になりきって散策する為に神としての能力のほとんどを封じていた女神様を、危険な大型馬車の暴走からお助けなさったとか。命の恩人ゆえ、万一粗雑に扱った時は容赦せぬと厳命されましたので、貴女のお世話は我ら王族と、我らが絶対の信頼をおく者達でさせて戴きます。……もっとも、私を含めそれらの者は、その立場故に優先的に女性と縁付かせて戴き、既に婚姻、もしくは婚約をしている為、貴女と新たに結ぶ事はできないのですが……。それ以外で何か、ご希望や、ご所望のものはございますか?」


 真っ直ぐに私を見てそう告げる王太子様は、最後に少し申し訳なさそうな顔をして言葉を締めた。

 ね、猫になりきって散策って、何してるのあの女神様……。

 だから神様なのにトラックに轢かれそうになってたのか……見て見ぬふりしてた仄かな疑問が解決したよ……。

 再び遠い目をして呆けていると、王太子様がじっと私を見ている事に気づき、慌てて意識を戻す。

 ああ、いけない、えっと、私の希望や、ご所望のもの、だったよね。

 う~ん……まあ、やっぱりアレだよね。


「あの、仕事が欲しいのですが。私でもできそうな……あ、女神様から、能力をひとつ貰えている筈なので、それをまず確認して、仕事に活かせるようならそれに関する職を紹介して欲しいのですが」

「え……仕事、ですか?」

「はい。あ、あと、せっかくなのでこの世界の生活を満喫したいですし、あちこち街とか村とか見て回りたいので、護衛というか、案内役の人を一人付けて戴けると嬉しいです」

「街や村を……この世界の生活を満喫、ですか。ふむ……なるほど。ならば、いい案がございます。貴女の能力については、女神様より強力な結界を張るものであると聞き及んでおりますし……その能力を活かした、色々な場所に行ける職をご紹介致しましょう」

「わ、ありがとうございます! ……けど、そうですか、強力な結界を張る能力、なんですね。…………。……あの、ちなみに、それを活かした職って、どんな内容の……?」


 ま、まさか、まさかとは思うけど、騎士団とかの戦闘職の補佐とか……?

 う、う~ん、そういうのってちょっと怖いけど、でもファンタジーの醍醐味って言えば醍醐味だし……怖いけど、結界張る能力なら身の安全は大丈夫だろうし、いいかも……?

 少しの怯えと期待を胸に問いかけると、王太子様はくすりと笑って、口を開いた。


「女神様がお選びになりこの世界へ渡って来られる女性の中には、時折、自分の実力で成り上がる事を楽しまれる方がいらっしゃいます。政治、武力、魔力と方法は様々ですが……職を望まれるあたり、どうやら貴女もそういった女性であるようですね?」

「え?」


 な、成り上がり?

 え、嘘、それも、体験できるの?


「……目の輝きが増しましたね。承知致しました。そのように取り計らいましょう。女神様も、それが貴女の望みならば、お怒りにはならないでしょうし。……ですが、くれぐれも御身は大切に。貴女はより大事な、女神様の恩人であられる方なのですから。それと……この国の者と婚姻を結んで戴きたいというこちらの願いも、どうかお忘れなく」

「え、あ、は、はい……。えっと、ふ、複数は無理かもしれませんが……一人とは、したいと思います……」

「はい、わかりました。よろしくお願い致します」


 そうして話が済むと、王太子様は私の手を取り、白い立派な建物へと私を案内した。

 それはどう見ても白亜のお城で、何故か前を歩いていた人達とは途中から別の道を歩いて来たのだが……私が驚いたのは、もっと別の事柄だった。

 通された部屋が、物凄く広く、豪華だったのだ。

 ベッドは天涯付きで、ダブルどころではない大きさだし、配置されている家具も見るからに品が良く高級そう。


「こ、これのどこが、成り上がり……? もう既に頂点極めてない?」


 成り上がりとは、どん底で質素な場所から上を目指して這い上がっていくものではなかっただろうか。

 いや、どん底の暮らしをしたくはないが、でも、最初は質素な狭い場所からスタートしたい。

 そうでなければ、成り上がりとは言えない気がする。


「お、王太子様に、その旨を伝えるべき……? だよね、うん」


 そう一人ごちると、私は王太子様を呼んで貰い、再び来て貰った。

 そして成り上がりについて自分の意見を述べると、王太子様はにこりと微笑んで、『承知しております。只今小さな部屋を準備しておりますので、今日のところは、こちらをお使い下さい』と言った。

 準備、そうか、準備か。

 言われてみれば、部屋なり何なり、用意をしなければならないだろう。

 ……という事は、この部屋は私の為に準備されたもので、何も言わなければ、私はこのままここを使っていたという事だろうか。

 それは……ちょっと、遠慮したい……。

 こんなに広くて豪華だと、落ち着かないし。

 成り上がり生活も、ある程度、自分にとってちょっと豪華で贅沢な場所を得たくらいで、ストップしたいなぁ。

 頂点を極めてこんな部屋に住むのは、逆に気疲れしそうだし、うん。

 王太子様は『今日のところは』と言っていた事だし、きっと明日からは本格的に成り上がり生活が始まるんだろう。

 明日が楽しみだ。

 頑張るぞ~!!

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