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プロローグ

 目の前のテーブルに並べられた、美味しそうな料理たち。

 正面に座る、幸せそうな笑顔を浮かべ、お互いを見つめ合って言葉を交わす夫婦。

 それらを交互に見て、私はこっそり溜め息を吐いた後、意を決して箸を手にする。

 そして、料理を一口口に入れ…………そこに広がる何とも言えない味に堪え、必死に飲み下した。


「うん、(えみ)さんの料理は今日も美味しいな! なあ結花(ゆいか)?」

「え、う、うん、そうだねお父さん。笑さんは本当、料理上手だよね」

「まあ、ありがとう。けれど結太(ゆうた)さん、私の事は笑でとお願いしたじゃありませんか。もう結婚したんですから。結花ちゃんも、どうかお母さんって呼んでちょうだい?」

「あ、はい……そうですよね、ごめんなさい」

「おっといかん、つい。だが、それなら君もだな? また俺をさん付けで呼んだぞ?」

「あ、あらやだ……本当だわ」


 お父さんの指摘に罰が悪そうに手で口元を押さえた笑さんは、その後お父さんと二人で、あはは、うふふと笑い出す。

 その様子を眺めながら意識して笑顔を作った私は、また料理を口に入れ、表情を保ったまま、また必死に飲み下す。

 うぅ……美味しくない。

 お父さん、この料理を本気で美味しいと言っているのなら、貴方は間違いなく味音痴です。

 それともこれが、愛の力と言うものなのだろうか?

 私が幼い頃母と死別した父は、その後仕事人間となりながらも、休日はなるべく私と一緒に過ごし、男手ひとつで私を育ててくれた。

 しかし一年ほど前に恋人として笑さんを私に紹介し、そして数日前めでたく再婚して、昨日新婚旅行からも帰り、我が家にて私を含めた三人での生活をスタートさせたのだが。

 そこで初めて知る事になった、笑さんの料理音痴ぶり。

 愛の力なのかなんなのか定かではないが、お父さんは『美味しい』と言ってもりもり食べるその料理を、私が不味いと言える筈もなく、家族団らんの食事どきの度に正面から漂ってくるピンクの空気と料理の味に堪えている。

 笑さんは、いい人だ。

 お父さんの再婚には反対どころか、むしろ両手(もろて)を上げて賛成している。

 けれど……この空気と料理には、きっとそういつまでもは堪えられない、と思う。

 よし、家を出よう。

 幸い、私はもうじき高校を卒業する。

 就職して社会人になる事を良い機会として話をすれば、きっと二人も承諾してくれるはず。

 さあ、そうと決まれば、なるべく就職先に近い物件を探さなくちゃね!

 これから、忙しくなるぞ~!

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