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剣より強し

本当はしちゃいけませんよ…


★本文改稿しました

★ハリーへの視点変更をやめ、報告書本文の抜粋をした文体へ変更しています

先日の一件があってから、おれの宿屋でも少し人手を増やす必要があると思い、新たに従業員をふたり雇い入れた。

ふたりともギルドに登録しているが今はこの地に住んでいる。


ひとりはエルフ族の男性、ハリー。ジョブは最近チェンジしたらしく、今はDランクの弓手アーチャー)だ。体の線は細いし表情もイマイチ顔に出さないため、夜の仕事には向かないかとも思ったが、本人が大丈夫ですよと即答したので、それならばと雇った。

彼には夜の食堂の給仕と、夜間の客室管理を任せることにした。


もうひとりもエルフ族でこちらは女性のタオ。

以前に宮仕えしていたこともあるBランクの僧侶。

さすがに気品にあふれていて、器量も抜群に良かったので即採用した。

あ、いや。決して顔で決めたのではないと断っておく。

彼女には朝の給仕とルームメイクを任せることにした。


ふたりとも非常にやる気があり、仕事も優秀であったので、見違えるように業務が円滑になった。あのサツキがこのところ気持ち悪いくらいに機嫌がよろしいので、相当な効果があったのだとわかる。

こんなことならば、もっと早くに人員を増やすべきだった。


ある晩、おれは業務をハリーに引き継ぎ自室に戻った。

緊急事態があれば内線管を通して呼び出しがかかるかもしれないが、それでもくだらない問い合わせにもいちいち叩き起こされなくて済むのは、精神的にも随分と楽になる。


深夜、ハリーが翌日の台帳のチェックをしていると、上階で宿泊中の客がフロントにやってきた。

なんでも、廊下の一部を占拠して騒いでいる輩がいて、うるさくてゆっくりと休めないという、まぁよくある苦情だった。


内線管でおれに連絡をよこしたハリーだったが、「僕の方で収めてしまっていいですか?」というので、何かあればまた呼んでくれといって、おれは彼に対応を任せた。


以下はハリーからの報告の抜粋である。


三階の廊下の一部を陣取って四人の大陸系東洋人たちが騒いでいた。

大陸系は狩猟民族のためガチムチの戦士ファイタータイプばかりだった。


ハリーが彼らに向かって、他の客の迷惑になるから、自室に戻るように促したが、男たちはハリーを一瞥しただけで、再びその場でカードゲームに興じた。

よくよく見てみると、男たちはカードゲームに金を賭けているようだった。

これは、ギャンブルだ。


そのことを確認するとハリーは再び男たちに、仲間内のギャンブルなんて、パーティ内の金が行き来するだけじやないか、と声をかけた。


すぐさま、男のうちのひとりがテメェに関係ねぇだろ、と食ってかかったが、ハリーが他のお客様からの苦情もありますから、ここはどうでしょう、私と勝負してみませんか?と提案した。

男たちが怪訝そうにハリーを見上げたが構わずに、一階の食堂を開けましょうというと、別のひとりが、負けたら本当に金を払うんだろうなとハリーに確認をしてきた。

ええ、当然です。勝負ギャンブルですからとハリーがいうと、男たちは互いに顔を見合わせてのろのろと立ち上がり、ハリーについて食堂までおりてきた。


男たちの興じていたゲームは龍、星、太陽、鳥のマークにそれぞれ2〜10の番号とA、J、Q、Kの記号を振ったカードの合計52枚から五枚の札を取り、完成した役の強さを競う、いわゆるポーカーだった。


本当に負けたら金を払うのかと男のうちのひとりが凄んだが、ハリーが先程と条件は同じですといって手早くカードを配布ディールすると、彼らは素直にカードを受け取った。


そこからのゲームの詳細は割愛するがハリーの独壇場だったようだ。


イカサマだ!と男のひとりがハリーに食ってかかった。

そこで、ハリーが、そこまでいうならアンタがディーラーでも構わないといって、カードの束を男のひとりに差し出した。


舌打ちをしてカードをふんだくった男が全員にカードを配る。

全員がドローし終えると、男たちはひとりを残してみなフォールドを宣言してゲームをおりた。

残った男が自信満々でベットを宣言し金貨を放った。


男の賭け金は龍の金貨五枚


ハリーはレイズし、龍の金貨十枚に賭け金を吊りあげ、金貨をおいた。


ちなみに龍の金貨十枚はウチの一ヶ月間の売り上げに近い額だ。


一瞬ひるんだ男だったが、本当に払えるんだろうな?とハリーに確認した。

ハリーはもちろんだといい、さらに相手がいくら賭け金をあげても彼はおりるつもりはないとつたえた。


次に男が龍の金貨二十枚に賭け金を吊り上げるも、間をおかずに金貨四十枚をハリーが宣言した。


ここで男が狼狽した様子で、本当におりないつもりか?とたずねてきたので、そうだとはっきりとハリーがこたえ、相手にレイズかフォールドを迫った。


グッと息を呑んで男はじっと考え込んだ。

大量の脂汗が流れて、微動だにしなかったが、数分後にやがて男はフォールドを宣言したという。



ここまでのハリーの報告書を呼んでおれは彼に質問した。


「ところでハリーのハンドはなんだったんだ?」

「3と7のツーペア」

「なんじゃそりゃぁっ!」


このときの男の手札はストレートフラッシュだったという。男はハリーのブラフにまんまと引っかかったのだ。


「それで、どうなったんだ?」


おれはハリーにつづけざまに質問した。


「僕が『龍の金貨四十枚だしてもらえますか』というと、『おい、本当に持って行く気なのか?!』と馬鹿げたことを言い出したので、『当然ですよ。勝負ギャンブルですから』と一般論をお伝えしました。すると、『頼む、勘弁してくれ!それに、宿屋の従業員が客からギャンブルで金を巻き上げたとあっては、お前らにも都合が悪いだろう?』といわれたので、それならばと、これにサインをいただきました」

そういってハリーが一枚の紙を差し出した。


そこには男たち(チョウケイ[戦士]、ガンジン[戦士]、キチュウ[武闘僧(モンク)]、リョウメイ[龍戦士])の名前とともに今後、宿屋内でギャンブル、その他の迷惑行為を一切しないという文言とともに、違反した場合は龍の金貨四十枚を支払うと書いてあった。


おれは気になっていた事を聞いた。


「もし負けてたらどうしたんだ?」

「もちろん払いますよ、僕のポケットからね。でも、負けることはありえませんね」


そういってハリーは右手のひらをくるりとかえす、何もなかったはずの右手に五枚のカードが並んでいた。


ハリーの前のジョブは一流カジノでのディーラー、Sランクの勝負師ギャンブラー手品師マジシャンであった。

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