右と左
正直、きのこというと見下されます…
どの世界にも、右派、左派というものが存在する。
この世界は国王が首長となる王国議会制度をとっているが、当然ながら議会には国王派と反国王派が存在し、対立している。
それにより中道が保たれているとも言える。
規模が大きくなればなるほど、この右派、左派の存在は明確化するのであるが、なぜかこの寂れた田舎の宿でも右派、左派問題が勃発していた。
ことの発端は、昼間の団体客の昼食だった。
先週、とあるギルドから四十人分の昼食の依頼を受けたのだが、時間がないので、簡単に済ませられる昼食を用意してほしいと頼まれたのだ。
ダンカンと相談してカレーライスならば、まとめて作れるし、用意も早いからということで、それで先方にも了解を得て、今しがたその団体客が食事を終えて帰ったところなのだ。
それで、食器の片付けをしていたところ、ハリーとタオが何やら言い争っていた。
「ハリー、あなたずっと間違っていましたよ」
「何を言ってるんだよ、間違ってるのはタオの方だろ!」
何やら険悪な様子である。
正直、あまり関わりたくはないが、立場上、無視するわけにはいかない。
「ちょっと落ち着け、何を揉めてるんだ?」
「支配人!聞いてくださいよ!ハリーったらカレーライスをお出しするのに、ルウを左向きにして置くんですよ?!」
「は?」
「いやいや、右にルウの方がおかしいだろう?カレー、ライス、だぜ?ルウが左でライスが右に決まってるじゃないか!」
「何?」
「違いますよ!右利きの方が多いのですから、ルウをすくいやすいように右に置くんです!」
「馬鹿言うなよ、すくうのはライスだろう?そもそも、ルウが右にあると袖の長い人は汚してしまうじゃないか!」
二人の議論はヒートアップしていく。まさかこんな右派、左派が存在しようとは…
「支配人はどちらが正しいと思われますか?!」
声を揃えて二人が俺を見た。
突然降りかかる火の粉。
これは慎重に返事をしないと、内部分裂の危機に陥りかねない。
まさに終わりの見えない「きのこたけのこ戦争」の様相である。
「そうだなぁ、うーん…」
答えあぐねていると、戻りが遅い俺の様子を伺いにサツキがやってきた。
「支配人、片付けサボって何してるんですか?」
「あ、いや。サボってたわけでは…」
言い淀む俺に不審な目線を投げかけるサツキにタオが問いかけた。
「サツキさん!カレーのルウは右に置きますか?それとも左ですか?」
「はあ?何言ってんの?ルウは手前が正しいんじゃない」
まさかの第三勢力「すぎのこ」の登場に事態はますます混迷を深めていく。
結局、この三すくみの議論に結論は出なかった。
ん、俺?
ああ、俺は正直どうでもよかったんだが、俺の場合は、
「ルウはソースポットに別置き派」
だったけどな。