ごあいさつ
不定期更新です
おれは海洋世界ダンジョンの第三階層「アマンデイ」で宿屋を営んでいる、一般的にいうオヤジだ。
人はおれのことを「宿屋の主人」とか「オヤジ」とか「旦那」とか「支配人」とか好きに呼んでいる。
名前? まぁ適当にオヤジと呼んでいただいて結構。ここのところ固有名詞で呼ばれたことがないからな。
この「アマンデイ」は魔導師シニレクと賢者アマミコが作った世界で、シニレクが陸地のダンジョンを、アマミコが海のダンジョンをその強大な魔力をもって 三日間で作り上げたという伝説がある。
それでウチの宿屋はというと、このところのダンジョン冒険ブームのおかげで毎日冒険者がひっきりなしに泊まりにくる。中には自らを勇者と称するものも少なくないが、無敵の勇者とて睡眠欲にかなうわけはなく、どうせ眠るならふかふかのベッドで眠りたいものなのだ。
最近はこのアマンデイにスペシャルレアモンスター「アーケロン」が出現したという噂が広まり、ただでさえ増えている冒険者が輪をかけて増殖中である。船の上から望遠鏡を使ってアーケロンが浮上してくる瞬間を一目見ようと、このアマンデイだけでなく、他の階層やほかの世界から冒険者が押しかけてきている。
これはもう冒険というよりもバカンスだ。
そして奴らは勇者というよりも旅行者だ。
これまでは馴染みの客でのんびりやっていたはずのこのうだつの上がらない宿屋の主人であるおれは、降って湧いたこのブームとレアモンスターのせいでここ一年は休みなしで働いている。
宿屋の主人にこそ休息が必要とかどんな皮肉だ、ちくしょう。
ただ、そんな愚痴をこぼせば宿の従業員のサツキに下等モンスターでも見るような蔑んだ視線の火炎放射を浴びる羽目になる。
オラ、この低級野郎、愚痴ってる暇があったらもっと働けといわんばかりだ。
おれの方が主人なのにだ。
多分、サツキは目力だけでスライム程度はやれるはずだ。
休ませてくださいなど、主人のおれが許しても従業員のサツキが許しちゃくれない。
ちくしょう、こんなブラック宿屋いつかやめてやる。
いや、すまない。取り乱した。
そういうわけで、おれは今日も冒険者たちのためにせっせと働いているのであるが、どうも最近の冒険者、とりわけ勇者と名乗る連中の素行の悪さが目に余るのだ。
人の言うことも聞かずやりたい放題な連中もままいる。
この宿屋の主人はおれだ。おれがルールブックなのだ。
まあ、ルールは人によって作られるという事実はさておき、誰が何といおうとこの宿屋に泊まるからには、おれのルールに従ってもらわなくては困るのだ。
何も難しいことを要求するわけではない。
ただ、他の冒険者に迷惑をかけるなといいたいのだ。
勝手に調度品の壺を割って中身を調べたり、宿の事務所に入ってきたり、他人の部屋に侵入して道具をかっぱらったり、そういうことをするなといいたいだけだ。
だが最近の勇者ときたらどうだ。
俺様強えぇー! だがハーレム状態だか何だか知らんが、あまりに充足されているが故に馬鹿に成り下がっている奴らばかりだ。
だからおれは決めた。
何をかって?
晒すのだ。馬鹿な自称勇者どもを。
奴らの英雄譚の裏にどんな馬鹿がいるのかを晒してやるのだ。
炎上上等。
宿屋を敵に回すことがいかに恐ろしいことか、思い知ればいいのだ。