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第十七話「ステージ2(後編その4)」

 まさに、威風堂々。俺達のピンチに颯爽と現れたその漢は、救世主以外の何者でもない――はずなのだが……。


 助かった安堵より、憂鬱が先に立ってしまうこの心情を誰か察してやってくれ。


 とりあえず、言っとく。


 また、面倒くせえのがきやがった……。








第十七話「ステージ2(後編その4)」








「ト、トウオウ? お前がなんでここに――」


 気が抜けた途端、蓄積された疲労が顔を出し、俺はその場に崩れ落ち――ようとしたところを、トウオウが片手で俺の腕を取り、俺の体を支えた。


「――!」


「どうした。クールが信条なお前が、女相手に随分なやられようだな」


「ト、トウオウ……」


「失望させてくれるな。貴様それでも私のライバルか?」


 そう言って、トウオウは無理矢理俺の体を引っ張り上げた。


「……誰がライバルだ誰が」


「とぼけるな。貴様との決着はまだ着いてはいない」


「あー……あのことまだ根に持ってんのかお前」


 知らない間に、また面倒くさいことになってるし……。つーか、あれは俺のせいじゃなくてふっさんだろ……。


「そんなことより――」


 そう呟いて、トウオウはエレナに顔を向けた。俺にとってはそんなことでは済まないが、今はそうも言ってられないので、黙っておく。


「P・Yよ。貴様少し会わぬうちに腕が鈍ったようだな」


「バカ野郎。半端ねえぞ、あいつ……。まともにやりあって勝てる相手じゃねえよ」


「らしいな……。あれほど巨大なソウルインフは初めて見る。伊達に王の秘書ではない、というわけか」


 そう言って難しい顔をしてみせるトウオウ。に俺は横から声をかけた。


「お前、あいつのこと知ってんのか?」


「……まあな」


 言葉とともに、トウオウは物凄い形相でエレナを睨みつつ、歯ぎしりをした。握った刀がカタカタと怒りに震えている。


「も、もしかして、あいつとなんかあったのか?」


「――な・に・も……!」


 歯ぎしりしながら俺に顔を寄せ、否定するトウオウ。なんか、あったんだな……。


「とにかく、貴様は引っこんでいろ。あの女は私が斬る」


「ま、待ちなさい……」


 と、今まで黙っていたチトセが、ずいっと俺達の間に割って入ってきた。


「従魔風情が何を勝手なことを……。他人ひとの勝負に水を差さないでもらえますか」


「従魔師チトセ」


「決着はまだ着いていません……!」


「チトセ……」


 珍しく感情を露わにしてトウオウを睨むチトセ。しかし、トウオウは冷静にチトセの噛みつくような視線を受け止め、厳かに声を出した。


「呆れたものだな。死ぬまで負けを認めぬ気か」


「――!」


「敗北を認めるのが恐ろしいか。気持ちは分かる……が。貴様、それでも従魔師か? 貴様に従魔の魂を預かる資格はないな」


「だ、黙りなさい!」


「まあいい。どのみち、貴様の許可など取る気もない。従魔師チトセ。よもや、私の魂を愚弄したこと忘れたわけではあるまいな。覚悟しておけ。あの女の次は貴様だ」


「もう。トウオウったら。今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ」


 殺気立ち睨み合う二人の間に、アヤセが仲裁に入った。


「ごめんねえ、チトセちゃん。トウオウったら、一度言い出したら聞かなくて……」


 そう言って、諦めた微笑みをチトセに向けるアヤセ。相変わらず、この従魔師は大らかな性格してやがる。


「あなたはそれでも従魔師ですか。言って聞かなければ制裁してやればいいのです」


「う、うん。でも、私そういうの苦手だし」


 そう言って、たはは、と笑うアヤセ。


「聞いたか。見習え」


「黙りなさい」


 ぼそりと耳打ちする俺に、制裁が下った。


「うっぎゃああああああ!」


「分かりますか。こうすればいいのです」


「チ、チトセちゃん。死んじゃう。これ以上はPちゃん、死んじゃうから!」


 滑り込みセーフでアヤセの制止が間に合い、俺はなんとか死なずに済んだとさ。


 ……からかうのも命がけってわけだ。まあ、重い空気戻ったからいいけどな。


「とにかく、友達がこれ以上傷つくのは嫌だから、この勝負私たちに譲ってくれないかな、チトセちゃん」


「……」


「Pちゃんも」


 なんだかんだ言って、チトセもアヤセの笑顔には弱いのだ。決して認めはしないものの、チトセがそれ以上二人に食ってかかることはなかった。


「……ま、今の俺らじゃ贅沢は言えねえよ。その代り……半端じゃねえぞ。気をつけろよ」


「ん。ありがと、Pちゃん」


「だから、Pちゃんはよせっつってんだろ」


「えー、せっかくあだ名かわいいのに?」


「ノーサンキューだよ、バカ野郎。俺のイメージ壊す気か」


「それについては今更心配することもないでしょう」


「……どういう意味だ、こら」


 と、緊張感ゼロでだべっている俺達に、ただ一人緊張感百パーセントの堅物が歯ぎしりをした。


「貴様らには緊張感というものがないらしいな……?」


 あー、どっかのビキニ女にも言われたな、それ。


「それにしても、お前らエレナのこと知ってるみたいだけど、どういう知り合いだ?」


 俺の質問に、アヤセが表情を曇らせ、トウオウはさらに歯ぎしりを増した。


「ん……実は私達、二日前にあの人に襲われてね……失格って言われちゃって」


「あー……そういうことか」


「うん。間の悪いことに、トウオウがお風呂入ってて――ね」


「なるほど……」


 魂を発揮する暇もなかったというわけか。それはさぞ無念だったろうな……。ああ、一応ここは笑うとこだ。


「それで、カツラ被る暇もなかったというわけですか。傑作ですね、それは」


「……斬る」


「ちょ……落ち着いて、トウオウ!」


「いっそ潔くスキンヘッドにでもしたらどうです? お手伝いしましょうか?」


「ちょっと、チトセちゃん!」


 いきり立つトウオウを必死に止めるアヤセ。そして、俺はチトセに言った。


「八つ当たりは止めてやれ……」


 ちなみに、その間エレナは地面に寝転んで、頬杖つきながら退屈そうに俺達のやり取りを傍観していた――。











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