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第十五話「ステージ2(後編その2)」

(くっくくくくく! よくも散々この俺をコケにしてくれたなああ! この、クールな俺様に対する数々の無礼暴言失言千万! 利子つけてまとめて返済してやるっくははははははあ!(高速脳内思考。この間、0、2秒ぐらい))


 驚愕に染まったエレナの顔に勝利を確信したその時、確かにそれは聞こえた。


「やっぱ、二十九点」


「――あ?(脳内思考停止)」


 耳を疑う暇もなく、銃口から解き放たれた魂の波動は、目の前のエレナを飲み込んだ。








第十五話「ステージ2(後編その2)」








 闇が空間を侵食する。球状に凝縮された魂の波動は、まるでブラックホールのように近づくものすべてを飲み込み、その中に引きずり込む。光から断絶されたその世界は、やがて、捉えたものを道連れに崩壊する。


 目の前のブラックホールに光の亀裂が走った。そして、俺が背後に飛びのくと同時に、ブラックホールが崩壊した。


 けたたましい爆音が鼓膜を叩く。衝撃が地面を伝い、鏡張りの地面にひびが走る。爆発の中心から発散する黒煙から抜け出した俺は、地面に着地すると同時に、仰向けにその場に倒れこんだ。


 案の定、たった一発で魂の波光すべてを持っていかれた。シンクロするだけの波光さえ吸い尽くされた俺の傍から、チトセの意識はもう離れていた。


「……やりましたか?」


 俺の頭元に立ち、チトセが無表情で言葉を落とす。精神的にかなりの疲労を負っているはずにも関わらず、その素振りを見せない俺の宿主。ここはクールに「当然だろ」と返してやりたいところだったが、言い知れない不安が俺の胸に残っていた。


「……手ごたえはあった」


 そう言って、俺はなんとか上半身を起こした。煮え切らない俺の返事の意味を悟り、チトセがじっと黒煙の中心に目を留める。未だ晴れない深い黒煙は、まるで生き物のように不気味にうごめいている。あの状況、あのタイミングで、しくじるなんてあり得ない。あの爆発で仕留められないとも思えない。それなのに、シンクロの影響で胸に残った痛みに、じくじくと嫌な予感が上乗せされる。


 あの瞬間に聞こえたような気がしたエレナの声は――。


「――強敵でしたね」


 不意に流れてきたチトセの声に、俺ははっと我に返った。顔を上げると、チトセが静かに俺を見ていた。その静かな瞳に、胸中を見透かされているようで、俺はわざとらしく息をついてみせた。確かに、不安なんてクールな男には似合わねえか。


 気を取り直して、俺は言った。


「認めたくねえけど、確かに今までで一番厄介な相手だったな。いろんな意味で」


「とりあえず、これで王への宣戦布告にはなったでしょうか」


 さらりと放たれたチトセの爆弾発言に、俺は息を呑んで言葉を返した。


「……頼むから冗談だと言ってくれ」


「冗談です」


「……」


 真顔で言われてもな……。こいつ、マジ――なわけねえよな?


「つーか、今更だけど王の秘書倒したのはどう考えてもまじぃよな……。これって、王への謀反になるんじゃねえか?」


「先に手を出してきたのは向こうです。立派な正当防衛ですよ」


「……そこまで計算ずくか」


「言ったでしょう。これだけ(ぶちのめしがい)の(ある)相手と手を合わせる機会はない、と」


 不敵にほくそ笑むチトセに俺は閉口するしかなかった。その顔に、シンクロを強めた時、俺の魂の中で見せた微笑みの面影はどこにもない。つーか、あの時の台詞は王をどうこうするって意味じゃねえよな?


「……なあ、チトセ」


 俺の声に、チトセは無言で俺に目を留めた。


「あの時、俺の魂の中で言ったこと――」


 言いかけて、俺は言葉を止めた。いや、正確には言葉を続けることを忘れて、そこに気を取られたのだ。


 弱まっていく黒煙の向こうに見える人影。その瞬間、俺の体中に悪寒が走った。


「ほんと、あんたらには緊張感ってもんがないのね」


 濃淡な闇の余韻が、霧が散るように晴れていく。


 深紅の長髪。ふざけたビキニ。そこに無傷で立っているエレナの姿に、俺達は言葉を失って、あり得ないその光景に呆然とすることしかできなかった。


「自分達の立場分かってる?」


 巨大な女王蜂のソウルインフから伝わってくる圧力が、俺達の体の自由を奪う。遅れて、体が震えていることに気づいた。


「ち、直撃したはずだろ……。なんで、無傷なんだよ」


 最悪の状況をようやく理解しだした俺の脳が、無意味な命令を俺に下す。震える唇を噛んで、ようやく発した俺の言葉に、エレナはこともなげに声を返した。


「確かに当たってたけど、残念ね。私に攻撃は効かないのよ」


「な、んで――」


「ま、覚醒したばっかのあんたは知らないでしょうけど、各々のソウルインフにはそれぞれ特性があるのよ。で、私のソウルインフの特性は絶対防御」


「……」


「攻撃を受ける瞬間、ソウルインフの身につけたブラが私の盾となったのよ。どんな攻撃も防ぎきる能力。言い換えるなら、どんな衝撃も吸収して、ポロリの確率0パーセント。名づけて、天使のブラよ」


「俺らの置かれてる立場は分かってるけど、これだけは言わせてくれ。……ふざけんな、バカ野郎」


 俺の切実なツッコミはしかし、虚しく空を切った。


「だから、至って真剣だって」


「同じ破られるでも、シリアスな能力に破られたかったって、この無念がてめえに分かるか……?」


 そう言って、絶望とともに四つん這いになる俺。なんかもう、アホらしくて体の震えも止まった。その代りに、絶望感が俺の全てを支配した。


「俺のクールな必殺技がブラジャーに敗れた? 認めねえ……認めねえよ……天使のブラってなんだ……」


「なんか分かんないけど、悪いことした?」


 ――なんて、アホらしい空気を、チトセの制裁の剣が一刀両断した。


「うっぎゃあああああ!」


「馬鹿をやっていないでさっさと準備しなさい」


 地面を転げ回った後に、俺はなんとか体を起して、チトセの傍に立つ。ピアスに手を当てて、すでに臨戦態勢に入っているチトセだったが、もうこれ以上戦えないことは俺もチトセも分かっていた。


「……まだ、終わっていません」


「おい、チトセ。もう無理だ。現時点で俺らの敵う相手じゃなかったんだよ。悔しいけど、ここは負けを認めて、王を侮辱したこと取り消すしか――」


「黙りなさい。あなたにはプライドがないのですか。そんなこと、私は死んでもごめんです」


「……どこまで意地っ張りなんだ、お前は」


 立っているのもやっとな俺達に、エレナが悠然と歩み寄ってくる。


「どうするの? 私も鬼じゃないし、王を侮辱したこと取り消すならここで終わりにしてあげるけど? なんかもう、飽きちゃったし」


「あんな猿公えてこうに下げる頭などありません!」


 高らかに宣言するチトセに、エレナの顔色が変わった。


「マジかよ……」

 

 











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