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第十四話「ステージ2(後編その1)」

「一発勝負か。まあ、あいつ相手に分が悪いのは仕方ねえけど、一つ切実な問題があるぜ。それはまだ使えねえってことだ……!」


「どういうことですか。まだ、コントロールが利かないのですか」


「いや……なぜなら――」


 俺は覚悟を決めて、宣言した。


「――まだ、技の名前が決まってねえ!」


 神の雷が、罪人を貫いた――。








第十四話「ステージ2(後編その1)」








「――て、ぎゃああ!」


 なんて、チトセの制裁の剣を受けて、のたうち回ってるとこに、エレナの鞭が襲いかかってきた。俺の頬を掠めたそれは、防弾性の鏡をまるでヨーグルトのようにえぐリとり、主人の元に戻っていく。すんでのところで、致命打を身をよじってかわした俺は、すかさず立ち上がり、チトセに食ってかかった。


「時と場合を考えろ!」


「その言葉そっくりそのまま返します」


 相変わらずの無表情で言葉を発するチトセ。が、わずかに乱れた呼吸をかみ殺しているその表情に余裕は伺えない。俺は気を取り直して、エレナに目を向けた。


「……俺にとっちゃ切実な問題なんだよ」


「言ってる場合ですか」


 後ろでチトセの声がツッコむ。確かに、ボケてる間に(至って真剣だが)殺されたんじゃ、身も蓋もない。ここは涙を飲んで勝負に徹するしかない……!


「全く、あんたらには緊張感ってもんがないの」


 そして、そんな俺達にもっともな言葉を投げかけてくるエレナ。に俺は言ってやった。


「てめえの格好見てもの言えよ」


「失礼ね。私は至って真剣よ」


「そっちの方が厄介だろ」


「他人の目なんてクソ喰らえ」


「王の秘書がそんなハジけてていいのか」


 なんて、正論がこいつに通じないのは承知だ。案の定、エレナは退屈そうに耳をほじってやがる。つーか、さっきまでの緊張感が吹っ飛んだのは誰のせいだ。……俺のせいだけじゃないことは断わっておく。念押ししとくが、相手は女王蜂のソウルインフを持つ、ビキニ姿のふざけた女だ。ふざけんな。


「あーあ。なんか、もう萎えちゃった。ねえ、王を侮辱したこと取り消してよ。そしたら、ここで終わり――」


「あ?  ふざけ――」


「――にするわけないでしょ」


「――んな!?」


 閃光が俺の目をくらませた。不意に放たれたエレナの鞭が、光速で走る。反応する暇もなく、衝撃が俺の腹で弾けた。


 まるで、巨大なハンマーで殴られたような重い痛みが俺の神経を伝う。5、6メートルほど吹っ飛ばされた後に、痛みに全身が痺れた。が、そんなことに気を取られている暇はなかった。


「チトセ……!」


 俺の叫び声とほぼ同時に、俺の胸の中の痛みが暴れだす。たった今受けた痛みとはまた別の、心を侵食するただれた痛み。俺の意思を汲み取り、チトセがシンクロを強めたのだ。


 一瞬気が遠くなりかけながらも、視界に飛び込む閃光に目を覚ます。


 破壊音が俺の耳元で炸裂した。目標物を捉え損ねた鞭が、鏡を食って引いていく。舞い散る鏡の破片。空気を裂く音。すべてがスローモーションに思えるほど、鋭敏な感覚。シンクロが強まれば強まるほど、俺の魂が解放される。


 エレナの一撃をかわすと同時に俺は銃を召喚した。二丁の銃が重なり合って、一つになる。マズル(銃口)とバレル(銃身)の極端に大きなその銃は、今まで思い描きながらも扱えなかった代物だ。


 通常俺が扱う二丁拳銃は38口径の通常弾も使える便利なものだ。が、この銃は普通の弾は扱えず、完全に魂の波動を打ち込むためだけに存在する銃なのだが、欠点が一つ。


 この銃は持主の魂を際限なく吸い尽くすのだ。だから、うまく制御してやらなければ、自滅は確定。今まで何度か試みた結果、そのどれもが、魂の波動を打ち込めず、すぐに魂を吸い尽くされ、シンクロが強制的に解けてしまい、気がつけば病院のベッドの上と散々たるものだった。


 が、その厄介な代物も、今の俺にはちょうどいい玩具だ。と強がってみたところで、制御して波動を放てるのは一発が限度だ。それも、制御できるだけの魂の量をうまく見極めなければ、その一発もままならない。


 打ち込む魂の量が多すぎれば、制御しきれず自滅。かといって、打ち込む魂の量が少なすぎれば、エレナには通用しない。


 かなり分の悪い一発勝負だったが、それはチトセも承知済みだ。そして、作戦というにはあまりにも無謀だったが策はある。


 息をつく暇もなく襲いくる鞭打をすべて紙一重でかわす。舞い散る鏡の破片が地面に着地する前に、俺は地面を蹴り、エレナを目指す。またも煌めく閃光は、俺の体を捉えはしない。この攻撃はもう見えている。


「もう、見切ったね」


 にやりと笑い、ただ一点の勝機の道を突き進む。


 エレナの初撃。あの時は見えなかったが、エレナは十メートル以上離れた俺達に届く攻撃を仕掛けてきた。が、その時地面に刻まれた破壊跡は、地面の途中で止まっている。つまり、加えられた攻撃は衝撃波のような遠距離まで範囲の及ぶものではないということだ。あれは「物理的な攻撃」でありながら「物理的には不可能な攻撃」。つまり、魂の絡んだ攻撃ということだ。


 そうなると、可能攻撃範囲は、エレナの魂の大きさ。つまりソウルインフに影響されるということだ。そこに、鞭自体の飛距離を足して、エレナの間合いはおおよそ14,5メートルほど。ここで重要なのが、それが衝撃波の類の攻撃ではない、ということだ。


 なぜなら、限界距離がその程度であるなら、下がっているチトセの心配はなくこっちも暴れられる。何より、そうなると、エレナの攻撃は、極端に長い鞭を振り回しているということに他ならないからだ。


 当然、鞭を振るうには一度振りをつけなければならないだろう。そして、攻撃距離が長いほどふり幅は大きくなり、懐に入られ易い。どんなに攻撃が速くとも、その振りをつける一瞬の隙が命取りだ。今の俺なら、その隙を見極められる。


 遠距離から一撃を加えても、エレナにはアッサリかわされるのがオチだ。が、その一瞬の隙をつけば俺の攻撃も当たる。


 エレナの攻撃の数だけ、俺達の距離が縮まっていく。最高潮に高まった俺の集中力は、体を走る痛みも、胸にたまる爛れた痛みも忘れさせ、俺を快感へ誘う。


 幾度も目の前を通り過ぎる死線。命の駆け引き。緊張と恐怖を帯びた冷や汗は、皮膚を伝い、ゾクリとしたその感触は、神経にまで浸透する。


 絶頂が、すぐそこまで来ていた。


「――採点しろよ」


 わずかな隙に割り込んで、エレナの懐に飛び込み、眼前に銃を突き付ける。瞬間、エレナの瞳には、驚愕の色とともに、俺の銃だけが映っていた。


「今度は何点だ?」


 俺は引き金を引いた。











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