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返崎Re-cycle  作者: 晒す者
17/23

Turn5 行峰フェイズ(2)



 思えば、全てはあの神社から始まっていた。

 あの時、あの場所で何が起こっていたのか。それを僕自身はよく覚えていない。だけどよく考えてみればそれはかなりおかしなことではないだろうか。

 僕はこの一年近く、ずっと親友がどこに行ったのかを探していた。それほどまでに親友は大切な存在だったはずなのだ。なのになぜ、『リサイクル』にさらわれる直前のことは全く覚えていないのか。何か思い出したくないことがあったのだろうか。

 それを確かめるためにも、僕はもう一度あの神社に行く必要があると思った。だから今、神社へ続く人通りの無い道を自転車で走っている。


「もう少しだな……」


 だがそんな僕の前に、予想外の光景が現れた。


「なっ!?」

『ケテ、ケテテ……』


 曲がり角を曲がった僕の前に現れた大男。思わず僕はブレーキレバーを引いて、自転車を止めてしまう。

 そう、『リサイクル』が再び現れたのだ。


「な、なんで……?」

『……』


 おかしい。『リサイクル』は僕と返崎さんが二人きりになっている時に現れるはずだ。今までのパターンからしても、それは間違っていないはず。なのに何で僕一人の前に現れたんだ? 何か別の法則があるのか?


『な、ん、で……』


 僕の言葉を繰り返すようにノイズがかった声を発した『リサイクル』は、道路脇の草むらに放置されていたゴミ袋を手に取る。

 まずい! また武器を作り出して襲ってくるつもりだ! 理由はどうあれここから逃げないと……

 

『……』

「……あれ?」


 しかし、『リサイクル』はゴミ袋を身体の中に取り込んだまま、動かなくなった。そうだ、そもそもコイツが狙っていたのは返崎さんのはずだ。もしかしたら……


 コイツは、僕に対して攻撃する気は無いのか?


『……』


 『リサイクル』はいくつかのゴミ袋を取り込んだまま依然として動かない。このままにらみ合ってても仕方がない。そう考えた僕は、『リサイクル』を無視して、そのまま神社に向かうことにした。

 何度か後ろを向いて確認したが、『リサイクル』が追ってくる気配は無かった。


 

 十数分後。

 ようやく神社に続く階段の前までたどり着いた僕は自転車をそばに止めた。

 辺りを見回すが、『リサイクル』が追ってくる気配は全くない。しかし僕が神社に向かおうとしている時に、法則を無視してアイツが現れたということは、やはりこの神社には何かがあるのだ。

 何度か深呼吸をして心を落ち着かせた後、神社に続く階段を一段ずつ上っていく。少し急な階段ではあったが、この時の僕は全く疲れを感じなかった。


 そして階段を上り終え、本殿のある境内に入る。


「ここに来るのも久しぶりだな……」


 僕は何度かこの神社で手がかりを探していた。しかし、親友の行方を示すような手がかりは何も無かった。

 だけど今なら何かわかるかもしれない。この神社であったことをよく思い出すんだ。

 しばらく、本殿の周りや神社の境内を調べることにした。しかし何も無かったので、次は賽銭箱の後ろにある本殿の中を覗いて見た。

 しかし本殿の中には、紙垂のついた注連縄で仕切られた神棚のようなものが中央にあるだけだった。正直言って、神社の中を下手に荒らすとバチが当たりそうで怖い。

 どうしたものかとしばらく迷っていると、あるものに気がついた。


「あれ?」


 賽銭箱の裏に、ちょうど本殿の正面からは隠れるような形で何かが張り付いている。よく見ると、それは白い封筒だった。見た感じ、昔からここにあるものではなく、まだ真新しい。

 以前にここを調べた時にはこんな物は無かったはず。気になった僕は封筒を剥がして、中を透かしてみた。


「なんだこれ……写真?」


 中にあるのは、一枚の写真のようだ。なぜ神社にこんなものがあるのかはわからないが、とにかく今は何でもいいから手がかりが欲しい。そう考えた僕は封筒を取り出し、中の写真を取り出す。


 そこには……


「……え?」


 しかし、僕がその写真に何が写っているかをはっきりと見る前に後ろから声をかけられた。


「義堂さん」

「う、うわっ!」


 突然声をかけられた僕は、とっさに写真を懐に隠す。後ろを振り向くと、そこには返崎さんが階段を背にする形で立っていた。


「か、返崎さん?」

「ここで何をなさっていたのですか?」


 返崎さんはこれまでに無いほどの無表情で僕を見つめる。その表情に、僕は確かな恐怖を感じた。しかしなんだろう、彼女の顔にそれ以外の何かを感じる。

 なんというか、『敵意』のようなものを。


「あ、ああ。金水くんにここを調べてみたらどうかって言われてさ……」

「やはりそうですか」


 金水くんの名前を出すと、彼女の『敵意』が更に増したような気がした。そう言えば、彼女は金水くんを異常なまでに嫌っていたのを思い出した。


「帰りましょう、義堂さん」

「え?」

「ここはあなたがいるべき場所ではありません。帰りましょう」


 返崎さんは有無を言わさない口調で僕に迫ってくる。そして腕を捕まれた。その時……


「あっ……」


 僕の頭にある映像が浮かぶ。親友が僕の腕を掴む映像だ。そうだ、よく考えたらこの前に『リサイクル』に襲われた時も、親友のことを思い出した。

 

 そしてその時も、返崎さんは一緒にいた。

 

 偶然、なんだろうか。しかし、返崎さんとアイツには全く関わりがないはずだ。

 だが、僕が思考を巡らせていたその時。


『ザ、ザザザ……』

「あっ!?」

「……」


 そうだ、今は僕と返崎さんの二人きり。今度こそ条件を満たしている。

 そう、『リサイクル』が現れる条件を。

 本殿の横に再び現れた『リサイクル』は、既にいくつかのナイフをその手に持っていた。おそらく、ゴミ袋にあった空き缶を再構成したものだ。


 だがヤツの弱点は既にわかっている。返崎さんの左腕を掴めば……


「あっ……返崎さん!」


 しかし彼女は既に僕から離れて、『リサイクル』の元に向かっていた。


「さあ、早く私に止めを刺しなさい! 私の、そしてあなたの目的を今度こそ果たすのです!」


 返崎さんは『リサイクル』の前で両手を広げてその身を差し出す。それに応えるかのように、『リサイクル』はナイフを振り上げた。


『ケテ、ケテ……』

「させるかぁっ!!」


 振り下ろされる直前に返崎さんを引っ張って、かばうことに成功する。『リサイクル』が体勢を崩しているうちに、強引に彼女を連れて距離を取った。


「離してください! 彼は、私が殺されないと彼は……!」

「だめだ! もう少しなんだ。もう少しでアイツの正体が……」

「あなたは彼の正体など知らなくてよいのです!」

「何で君にそんなことを決められないとならないんだ!」


 返崎さんがいつになく焦っている。この反応から見ても、僕が『リサイクル』の正体に近づいているのは間違いない。


「このっ!」

「あっ!」

 

 そして僕は返崎さんのリストバンドに覆われた左手首を掴む。


『ガアアアアアアッ!!』


 予想通り『リサイクル』は苦しみ始め、動きを止めた。


『ガ、ア、ケテ、ケテ、ケテ……』


 しかし尚も動こうとしている。さらには震える手でナイフを投げつけようとしているが、力が入っていないのか、ナイフはこちらには全く届かなかった。

 アイツもいつになく必死だ。しかしなぜここまで必死になる必要があるんだ?


「離してください、義堂さん! あなたは、あなたは何も知らなくていいのです!」

「何でそこまで隠すんだ! 僕は、僕は親友の行方を知りたいんだ!」

「そんな人のことなど忘れてください!」

「君にそんなことを言われる筋合いはない!」


 激しくもみ合っているうちに、僕の頭に再び映像が浮かんでくる。なんだこれは? 親友が詰め寄ってきて、僕は親友を……


「離して!」

「あっ!?」


 返崎さんともみ合ったことで、僕の胸ポケットからさっき隠した写真が飛び出した。そして地面に落ちる。


「あ……ああああ!!」


 その時、返崎さんは写真を見て悲鳴を上げた。


「な、なんでこんな写真が! まさか、金水朝顔! あいつ、こんなものを……!」


 なんだ? 何が写っていたんだ?


「だ、だめです! 見てはいけません!」


 返崎さんが制止する前に、僕は写真を見た。そこには……


「……は?」


 なんだこれは? 僕はこんなものは知らない。知らないぞ。

 だけど僕が、どんなに否定しても、その写真には。



 血を流して倒れている親友を呆然と見つめる僕の姿が映っていた。



「……なに、これ?」

「違うのです! あなたは何もしていません! こんな写真は嘘です!」


 僕が何もしていない? じゃあこの写真はなんだ?

 いや待て。ちょっと待て。そもそもこの写真が真実だとしたら。


 アイツは、既に死んでいる?


「義堂さん!」


 必死に僕に言葉を投げかける返崎さんを見て、僕はあることに気づく。リストバンドがずれて、その下にある手首に何かの模様のようなものが見える。


 ちょっと待て、まさか、まさか、まさか!


「あっ!」


 返崎さんが動揺している隙を見て、僕は一気にリストバンドをずらした。


「だ、だめ!!」


 とっさに手首を隠した返崎さんだったが、僕ははっきりと見てしまった。



 その手首に痣のように浮かんでいる……『リサイクルマーク』を。



「あ、ああ、あああ……」


 そしてそれを見た僕は……



「あああああああああああああああああああっ!!!」



 全てを、思い出した。



――フェイズ終了――

 

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