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返崎Re-cycle  作者: 晒す者
13/23

Turn4 行峰フェイズ(1)


『ケテ、ケテ、ケテ……』


 教室に現れた『リサイクル』は返崎さんをじっと見ている。覆面を被っているその顔からは何を考えているか全くわからない。


「か、返崎さん!」


 僕はとっさに返崎さんの腕を掴んでこちらに引き寄せる。その間に『リサイクル』は教室にあったいくつかの机を身体の中に取り込んでいた。


『ザ、ザザザ……』


 そしてまたしてもヤツの身体が波打ったかと思うと、その中から大きな斧が姿を現した。今までの武器と同様、斧の金属部分にはリサイクルマークが描かれている。


「義堂さん、この手を離してください」

「そんなこと出来るわけないだろ!」


 この期に及んでも僕の前で死のうとする返崎さんに少し苛立つが、今はそんな場合じゃない。とにかくどこか人のいる場所まで逃げないと。そう考えた僕が返崎さんの手を掴んだまま立ち上がった時だった。


「……あれ?」

『ザ、ザザザザザ……ケ、ケテケテケテ……』


 『リサイクル』は何故か斧を手に持ったまま動かない。いや、それどころか身体を小刻みに震えさせて、どこか苦しそうに呻いている。

 なんだ? 何が起こっているんだ? 


「義堂さん、あの、腕が痛いのですが……」


 返崎さんが僕に痛みを訴えてくる。どうやら強く掴みすぎていたらしい。


「あ、ああ、ごめん」


 僕が返崎さんの腕を離した時だった。


『――――!』

「えっ!?」


 『リサイクル』は再び動き出し、斧を両手で握り大きく振りかぶる。斧は柄が長く、この距離でアレを振られたらひとたまりもない。


「ま、まずい!」


 僕は反射的に再び返崎さんの腕を掴んで逃げだそうとした。だが……


『――アアアアアアアアア!!』


 その時、『リサイクル』は大きく苦しみだし、持っていた斧を床に落とす。


「……?」


 どういうことだ? 何でコイツはここまで苦しんでいるんだ? 

 何かコイツが苦しむ要素があるのか? 僕がコイツにダメージを与えているのか?

 そこまで考えて、僕はあることに気づく。


「……あれ?」

「……」


 僕が握っている返崎さんの腕。正確には僕は彼女の左腕の手首の部分を掴んでいる。 

 そしてそこには、白いリストバンドが着けられていた。


「義堂さん、痛いです……」

「……」

「義堂さん?」


 ……たぶん、彼女の手首にはあまり触れてはいけないものが残っているのだろう。だからリストバンドが着けられている。彼女が痛がっているのはそのせいだ。

 だけどもし、もし僕の推測が当たっていたとしたら、僕は彼女の秘密を暴かざるを得ないかもしれない。


 僕は罪悪感を抱きながらも、返崎さんの手首を強く握った。


「……ッ!」

『ガアアアアアアアアッ!!』


 痛みをこらえるように返崎さんが顔をしかめるのと、『リサイクル』が今までにないほどの叫び声を上げるのはほぼ同時だった。『リサイクル』は背中を大きく反らし、ビクビクと身体を震わせている。

 

 間違いない。理由はわからないが、返崎さんの手首は『リサイクル』の弱点となっている。


 ……そしておそらくは、このリストバンドの下に、その理由も眠っているはずだ。


「返崎さん」

「ダメです」

「……この状況でそんなことを」

「ダメなのです。あなたにこの下にあるものを見せるわけにはいきません」


 やはり返崎さんはこのリストバンドを外したくはないようだ。

 当然だろう。そもそも見せられないものがあるからリストバンドを着けているのだ。そしておそらくは僕にも見せたくはないのだろう。

 だけど、僕は見なくてはならない。そして理由を知らなくてはならない。なぜ『リサイクル』は返崎さんを襲うのか。その理由を。

 

 それが、『リサイクル』の正体に繋がるはず。なぜだかわからないが、僕にはその確信があった。


「悪いけど、僕は知らないといけないんだ!」


 そして僕は無理矢理彼女のリストバンドを外そうとする。


「や、やめてください!」


 返崎さんはリストバンドを外そうとする僕の手を掴み、激しく抵抗する。


「……!?」


 だが、その時僕の頭にある光景が浮かんだ。

 あのとき、あの神社で僕の親友が僕に激しく詰め寄ってくる光景。

 なんだこれは? 僕はこんなものは知らない。あのとき『あいつ』と喧嘩なんてしていなかったはずだ。


 喧嘩なんてしていなかった? 本当に?


 そうだ。僕は親友が『リサイクル』に連れ去られていく直前のことをほとんど覚えていない。まさかこの光景は、その時の記憶――? だとしても、なんでこのタイミングでそれを思い出したんだ?


 しかし僕がそれを考えている隙に、返崎さんは僕の手を引きはがした。


「あっ!」


 しまった。彼女の手を離してしまった。そうなると当然……


『ケテ、ケテ、ケテ……』


 『リサイクル』は再び動き出し、さらに返崎さんはヤツの前に身を差し出している。ダメだ、このままじゃ彼女が殺されてしまう!

 だが、その時だった。


「なるほどね、随分と面白いことになったねえ」


 教室の扉が開き、金水くんが姿を現したのは。


「か、金水くん!?」


 なんでここで彼が現れたんだ? いや、そんなことはどうでもいい。このままでは彼も危ない。


 ……いや待て。


『……ア、ア』


 『リサイクル』は金水くんをじっと見ている。そう、まだ『リサイクル』は消えずにその場に留まっている。どういうことだ? コイツは僕と返崎さんが二人きりになった時に現れるんじゃなかったのか?


『ガ、アアアアアアアッ!!』


 そして『リサイクル』は返崎さんに目もくれず、教室の入り口にいる金水くんに一直線に襲いかかっていった。


「金水くん!」


 僕が叫ぶが、金水くんは平然として、全く動かない。


『………アアアアアア!!』


 『リサイクル』の腕が金水くんに迫っていた。だが、その腕が彼に触れることはなかった。


『……!!』


 なぜなら彼に触れる寸前、『リサイクル』は見えない壁に弾き飛ばされるかのように吹き飛び、教室の壁に叩きつけられたからだ。


「え……?」


 あまりに非現実的な光景に唖然とする。しかし当の金水くんは全く動揺していない。まるでそれが当然と言わんばかりに。


「おいおい、君が僕に敵うはずがないだろ?」


 金水くんはそれまで見たことも無かった相手を見下すような笑みを浮かべて『リサイクル』に言い放つ。そして『リサイクル』の方は床に倒れたまま、金水くんを見ていたが……


『……ケテ』


 やがてその姿が透けていき、完全に姿を消した。


「……金水くん、大丈夫?」


 僕はとりあえず金水くんに声をかける。


「ああ大丈夫だよ。僕が怪我を負うはずがないからね。ましてやあいつ相手に」

「え?」


 ちょっと待て。彼はなんて言った? 『あいつ相手に』?


 まさか彼も、『リサイクル』を知っているのか?


「金水くん……」


「相変わらずですね、あなたは」


 僕が質問する前に、返崎さんが金水くんに詰め寄っていた。


「やあ、無事だったかい?」

「……」

「いやあ、無事だったようだね。なによりなにより。やっぱり世の中は平和でないと……」

「……!」


 その時、僕は目を疑った。


 返崎さんが金水くんを殴ろうとしていたからだ。


「返崎さん!」

「離してください! この人は、この人だけは……」


 僕はあわてて返崎さんを止めるが、彼女は金水くんを尚も睨みつけている。


「あなたなんて、死んでしまえばいいんです!」


「なっ!?」


 返崎さんの金水くんに対する敵意。いつもの彼女では考えられない姿だ。やはり金水くんもこの件に関わっているのだろうか。


「おいおい待ってくれよ。返崎さん……だったっけ?」

「……」

「まあいいや。とにかく『あんなこと』になったのは全て君の行動が原因だろう? それを僕のせいにするのはお門違いってやつじゃないかなあ?」

「ちょ、ちょっと待って!」


 僕を差し置いて話を続ける二人を制止する。この二人の関係も何の話をしているのかも全くわからない。


「金水くん、君は『リサイクル』……さっきの大男を知っているのか?」

「うん? 知っているよ」

「……!」

「それだけじゃない。僕はこの返崎さんとやらが君に何をしたのかも知っている」

「え!?」

「……」


 何で金水くんがそれを知っているんだ? いや、問題はそこじゃない。新たにこの件の関係者が現れた。そこが重要なんだ。


「でも彼女は君にそれを知られたくないようだねえ。いやあ全く意地悪な人だなあ」

「あなたは……!」

「でもね、いずれ君たちは真実を知ると思うよ。僕はその瞬間を楽しみに待っているんだ」

「な、何で……?」

「まあいいじゃないか。それにね、君たちもあまり教室でイチャイチャしない方がいいよ。噂っていうのはどう広がるかわからないからね」

「え?」

「そうだね、例えば……」


 金水くんは目を細め、口を湾曲させて先ほどの相手を見下すような笑みを浮かべる。



「クラスの乱暴者に、『行峰くんは彼女を持たない男子を陰でバカにしているみたいだ』……なんて噂が耳に入ったりねえ」



「まさか、君は……!」

「例えだよ、た・と・え。まあ、僕は君たちに忠告したからね。君たちがどんなことになろうと僕のせいじゃないよね」

「金水くん!」

「そんな大きな声を出さないでくれよ。それじゃ、僕はこれで」


 そして金水くんは教室から出ていった。


「……」

「義堂さん」

「な、なに?」

「あなたは何も悪くありません。ですので、あの人の言葉に耳を貸す必要もありません」

「でも……」


 返崎さんに言葉を返そうとしたが、このままだとまた『リサイクル』が出現する恐れがあったので、僕は彼女と別々に教室を後にした。


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