Turn3 天青フェイズ(2)
それから。
私と斉藤くんは定期的に会って遊ぶようになった。それこそ毎週のように。
「斉藤くん!」
「やあ、天青さん」
「今日はさ、あそこに行きたいんだけど」
「いいね、じゃあ行こうか」
斉藤くんは私の呼び出しに必ず応じてくれた。それだけでなく、私の行きたい所にいつも付き合ってくれた。
「天青さん、ジュース」
「うん、ありがとう。斉藤くんも結構運動神経いいんだね」
ある時は一緒にレジャー施設でスポーツをして遊んだ。
「あー、またゲームオーバーだ」
「このゲーム難しいって評判だからね」
またある時はゲームセンターでたくさん遊んで店員さんに注意されてしまったりもした。
「斉藤くん、ここわからないんだけど……」
「ああ、この問題はね……」
そしてある時は図書館で勉強を教えてもらったりもした。彼は私の苦手な教科をわかりやすく教えてくれた。
そうした日々が一ヶ月半ほど過ぎた時、私は気づいた。
自分が、斉藤くんにどんどん惹かれていっていることに。
最初は一週間に一回遊ぶだけだったのが、週に二回になり、さらに彼が私の学校まで来て一緒に下校したりもした。
彼は色々な話をしてくれる。そして私の話を聞いてくれる。私という人間を否定せず、受け入れてくれる。それがたまらなく嬉しかった。
私はもしかしたら、彼と一生を共にするのかもしれない。そんなことを自分の部屋で考えて顔を赤くしながらベッドで転がってしまって頭を打った。でも、そんな痛みなど気にならないくらい彼に夢中だった。
だけど私は彼について気になっていることがあった。
「ねえ、斉藤くん」
「なに?」
どうしてもそれが気になっていた私は、ある日の下校中に質問をぶつけてみることにした。
「斉藤くんって、どの辺りに住んでるの?」
「え……」
そう、私は気になっていた。斉藤くんの家はどの辺りなのか。
基本的に私は部活がある時は、斉藤くんに学校まで迎えに来てもらう。そして私の家の前で別れるという流れになっていた。
しかし斉藤くんは私とは別の学校に通っている。つまり彼の家は私の学校よりかなり遠いはずだ。それなのにいつも私と帰ってくれる。そのことに罪悪感を感じていた私は、自分の方が斉藤くんの学校まで迎えにいこうかと提案したことがあった。
だが彼は、それを頑なに拒否した。
「大丈夫だよ。僕が好きで君の学校まで迎えに来ているんだから」
「でも……」
「いいから。ね?」
「……わかった」
彼が私の申し出を否定するのは滅多になかったが、このことに関しては全く首を縦に振ってくれなかった。
さらに彼は自分の家庭のことを話したがらなかった。まるで家族が重荷にでもなっているかのように。だから彼の家がどの辺りなのかも全くわからなかった。
そして、今回もはぐらかされた。
「そんなこと、どうでもいいじゃないか」
「どうでもいいって……友達がどこに住んでいるかくらい知りたいよ」
「……でも、だめなんだ。こればかりは」
「どうして!? 私がそんなに信用できない?」
「そうじゃない! ただ、僕の勇気が無いだけなんだ……」
「え?」
「ごめん。その時が来たらちゃんと話すよ」
「……?」
彼の言う『その時』が何時を指しているのかはわからなかった。
だがこの出来事を境に彼の様子がおかしくなっていった。
私と遊んでいるときも、どこか集中していないような感じというか、心ここにあらずという印象を受けた。始めは彼も疲れているのかとも思ったが、その頻度は徐々に増えていった。
しかし私はそれでも彼に会うのを止めなかった。私は彼と一緒にいるのが楽しい。私は彼と話をするのが待ち遠しい。私は彼が自分を認めてくれるのが嬉しいからだ。
いつしか斉藤くんは、私の中で無くてはならない存在になっていった。
そんなある日。
私はいつものように学校に行き、授業を受けていた。木原との一件でクラス内で浮きがちになっていた私は当然のごとく一緒にご飯を食べる友達もいなかったので、一人でご飯を食べていた。
昼食を食べた後、斉藤くんと連絡を取ろうと廊下に出た時だった。
「やあ天青さん。元気そうでなによりだねえ」
その声を聞いて、私は顔をしかめた。
振り向くと、予想した通りのいやな顔をした男がいた。私はこの男が気に入らない。自分で行動せず、他人に全てを押しつけて、自分では何一つ責任を負わないこの男が気に入らない。そして他人に押しつけておいて、自分は綺麗な人間でいるつもりのこの男が本当に気に入らない。
気に入らない。気に入らないのだ。
「おいおい、そんな怖い顔をしないでくれよ。同じクラスではないとはいえ、同じ学校に通う仲間なんだからさ」
だから、私に話しかけるな。偽善者の金水くん。
――フェイズ終了――