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■ 後 編

 

 

 

能面のような顔で、固まるハルキ。

虚ろな目は半眼。口は半開きになっている。

 

 

 

 

 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』

 

 

 

 

 

   なんつった・・・?


   今、なんつった・・・・・?

 

 

 

   あれ?


   聞き間違い・・・?

 

 

  

   落ち着け。


   まず、一旦。 落ち着け、俺・・・。

 

 

 

   ハハハ・・・

 

 

 

   でも。 だって、ほら・・・

  

   俺・・・。 サクラのおむつ、替えたし。

 

 

 

   ハハハハハハ・・・

 

 

 

   一緒に風呂にもはいったし。


   ・・・小学生の頃だけど。

 

 

 

   だから、ほら!


   だから全然・・・全っ然。 全っっっっ・・・然・・・


   別 に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

  

 

  

  

   って。 全然、意味合い違うし!!!

 

 

 

 

   え? どーゆー意味??


   どーゆー意味で ”泊まる ”っつった??

 

 

 

   サクラ。 ジャンプで隠れてて、顔見えないじゃんか・・・


   つか、


   つか、サクラさん。アナタ・・・

 

 

 

   ずっと。 ページ、めくって、ない、じゃないですか・・・・・


   耳、真っ赤になってんじゃ、ない、ですか・・・・・・


   かかか隠れて赤い顔、隠してるだけじゃないですか・・・

 

 

 

   ちょ。 ちょっと待った!


   え? ・・・そーゆー意味でいいの?


   俺の考えてる ”そーゆー意味 ”で、いいってこと??

 

 

 

   考えなかったわけじゃないよ。


   今までだって、考えなかったと言えば嘘になる。 大嘘になる。


   いや、むしろ考えた。いつかの ”その時 ”のこと。


   悶々と考えた、考えまくった。

 

 

 

   なんだ?


   なんなんだ?この感じ・・・

 

 

 

   つか、


   今までだって。ケッコー前だけど、ちゃんとカノジョいたし、俺・・・


   こんなだった?


   こんなにアタフタしたか?

 

 

 

   なんか、なんつーか ・・・背徳感?的な。


   罪悪感?的な。


   この、イケないことしようとしてる感、なんなんだ?


   俺、血つながってないし。 別にいーんだよね? ね??

 

 

 

   つか、おばちゃん公認て・・・


   おばちゃんセッティングて・・・ ハズいにも程があんだろ。


   いーの?


   ねぇ、おばちゃん。 いーの??


   電話して確認する? おばちゃん、 ”そーゆー意味 ”でいーの?、って。


   ・・・いや、しないけどね。 電話なんかしないけどさ。

 

 

 

   まー、おばちゃんだからか。


   これが、おじちゃんならあり得ない・・・


   つか、殺されるかも。 コウジおじちゃん、地味に怖えぇし・・・

 

 

 

   あああ、死ぬ。


   死ぬかも。


   どうしよどうしよどうしよどうしよ・・・

 

 

 

   でも、まぁ。 ほら。


   雄ライオンは仔ライオン食っちゃうって、どっかで読んだ。

 

 

 

   ・・・ちがう。


   それ、意味ちがう。


   落ち着け、俺。 まず、一旦落ち着け。 鎮まれ鎮まれ・・・

 

 

 

   ・・・コンビニ、とか・・・行った方が、いいか・・・?


   じゅじゅじゅ・・・準備、的な・・・?


   ぁ。でも、なんか・・・アレか。 露骨か・・・?

 

 

 

   あ! ドリンク、とか・・・


   あああー・・・


   サクラ来ると思って、イロイロ買って冷蔵庫ギッシリだった・・・。


   これ以上なに買うってんだ・・・

 

 

  

   つか、着替え?的な・・・


   持って来てんのか?サクラ・・・


   アレ、か・・・


   俺の、Tシャツ、とか・・・貸す系の、アレか?


   ああああ・・・


   小さい体で、俺のTシャツ、とか・・・


   それもそれで、善しデスけど・・・。

 

 

 

   つか・・・


   サクラ、きっと、いや絶対、初・・・・

 

 

  

   ぇ。 ハタ・・・・・・・・?

 

 

   んなわけない、んなわけない。


   アホのハタとは、なんにもないはず、なんにもないはず。

 

 

 

   ・・・あったら・・・


   あったら殺す。あったら殺す。あったら殺すぞ、ハタっ!!!


   ぶっっっ殺すっ!!!!! 八つ裂きにしてくれるっ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

脳内会議は終わらない。まとまらない。


脳内首脳会議は、脳内G8サミットは、

世界経済より外交政策より気候変動よりも切羽詰まっている。

今現在、切羽詰まりまくっているのだ。

 

 

 

 

 

ベットに寄り掛かり、ふたり座る。


流れるテレビの映像も音声も、一切頭には入らない。


並んで座る互いの二の腕が触れている。

サクラが赤い顔を隠すために掴んでいるジャンプを、その手からそっと掴んで

テーブル上に置いた。


ハルキの右手がサクラの左手を握る。

指の間に指を絡ませて、やわらかく握る。

 

 

 

 

  (ちいせぇ手だなぁ・・・)

 

 

 

 

サクラの左手の甲に、唇をあててそっと小さくキスをする。

指先の絆創膏と、婚約指輪をやさしく眺めた。

 

 

 

 

  (相変わらずバンソーコして・・・料理、ガンバってんだな・・・)

 

 

 

 

頭を傾け、寄せ合う。

コツン。軽くぶつけてみた。

クスリ、小さく笑い合う。


ゆっくり頬をよせ、ほっぺにキスをすると チュ。と小さく音が鳴った。

 

 

 

 

  (子供みたいだな・・・ ほっぺ、ぷくぷくじゃんか・・・)

 

 

 

 

鼻の頭に、小さく唇をあてる。

サクラが頬を染め俯いている。

 

 

 

 

  (まつ毛、なげー・・・)

 

 

 

 

唇に。

短く、キス。

 

 

 

 

  (あああー・・・)

 

 

 

 

ハルキがサクラを抱き締める。


大切な大切な、なにより誰より大切な、サクラ。

俺の、俺のサクラ・・・

 

 

抱きすくめ腕を背中にまわすと、ハルキの左頬にサクラの熱い耳が触れた。

 

 

 

 

  (ちっちぇえ体・・・)

 

 

 

 

目を閉じて、ふかく深呼吸をした。

高速に胸を打つ鼓動は、自分のそれなのか否か、もう分からない。

 

 

 

 

 

 

 『こわい・・・?』

 

 

 

抱き締めたまま、頬に触れるサクラの左耳に小さく訊く。


ゆっくり、わずかに首を横に振り、

『・・・ダイジョーブ・・・。』 かすれ声で小さく小さくサクラが呟いた。

 

 

 

ぎゅぅうううう・・・と更に強く抱きしめる。

深く深く、息を吐いた。

 

 

 

 『・・・こわくなったら言って?』

 

 

 

『・・・ん。』 サクラが小さく頷いた。

 

 

 

 

 

そっと、顔を傾け熱を帯びた唇を重ねる。

 

 

 

  唇が熱い。


  息も熱い。


  呼吸が速い。

 

 

 

 

もう一方の手も重ね、指を絡め、ゆっくり。


ゆっくり。ベッドに体をしずめた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『やばい!ハルキー!! 遅刻するっ。初日なのにーぃ!!』

 

 

 

春。

赴任初日の朝。

 

 

サクラの相変わらず絆創膏がデフォルトの指が、大慌てで弁当箱を

ハンカチで包む。


そして、姿見鏡の前でスーツの上着を羽織り襟元を正すサクラ。

スーツに着られている感が否めないぎこちなさ残る、その小さい背中。

 

 

 

 

 『なんでもっと、時間にヨユー持って行動できないかなー・・・』

 

 

 『だってさー、卵焼きがうまく丸まんないんだもーん。 ムっカつく!』

 

 

 

 

 

 『あれ。 俺の時計どこいった?』

 

 

 『ぁ、まちがった。コレ、ハルキのほうのか。 あれ?じゃ、あたしのは?』

 

 

 

 

真新しいアパートの一室。


朝から騒がしいカタギリ家の一齣。

春のまばゆい朝陽が、ローボードの上に飾られたフォトフレームを

やさしく照らす。

 

 

 

そのフォトフレームには、


にこやかに微笑む黒留袖のサクラ母ハナと、

目元が赤いモーニング正礼装の父コウジ。

ハルキ両親サトシ・サトコは、顔をくしゃくしゃにしてふたり揃って号泣顔。


フォーマルスーツで立つジュンヤの隣には、

シフォン素材のやわらかくゆったりしたマタニティドレスで

目を細め微笑むユリの姿が。

 

 

 

そんな家族の中央に立つ、ふたり。


カットレースがやわらかい純白ドレスに、ナチュラルなアップスタイルヘア。

白ガーベラとアイビーのウエディングブーケを持つ、サクラ。


そして、その隣に

シルバータキシードに、ガーベラのブートニアを胸元に差したハルキの姿。

 

 

 

 

 

寄り添い佇むふたりが、溢れんばかりの笑みで写っていた。

 

 

 

                          【 完 】

 

 

 


【君の見つめるその先に シリーズ】はこれにて終了です。 大変拙く下手くそな文章であるにも関わらず、最後まで読んで下さった皆様に、心からの ”5文字 ”を・・・。 今後も新作を上げていきますので、暇つぶしにでもご一読いただければ幸いです。 

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