敵のボス登場
1人、ソウテンは空を飛ぶ。
あたりは暗闇に包まれ、月と星々だけがソウテンを照らしていた。
「さて、いつまで姿を隠す気だ?……白虎。」
「ん〜?アジトに着くまで……とか?」
白虎……と呼ばれた男性は、ソウテンの前に姿をあらわした。その背には羽がないため、天界族ではないことがわかる。
「ルシファー様に言われてたんでな。悪く思うなよ、青龍。」
「悪く思うはず、ないだろう?白虎の特殊魔法のおかげで、奇襲をかけれたんだからな。」
「おぉ!やはり気づかれていたか。」
白虎は困ったように笑う。ソウテンはその様子を見て、息をはく。
「レハブアムに常についていたあの猫、イポスという悪魔……。未来予知の特殊魔法の使い手だからと甘く見ていた。」
「だとしても、成功したんだろ?ルシファー様に頼まれていたことは。」
「まぁな。ちゃんと植えつけてきた。ルシファー様の言ったとおりだ。まだ危険察知能力は低い。」
「だろうなぁ。俺がいればあの猫の特殊魔法はふせげるからな。今まで猫が守ってくれてたからなぁ。」
「なんにせよ、好都合だった。」
2人は雲の間を飛ぶ。そして、1つの雲の上に立つ。
「いつきても抜けそうで怖いぜ…。」
「まあ、人間は雲の中に家を作ったりしないらしいな。天界族からしたら、そんな疑問持つことさえ、ない。」
「まぁ、建物が普通のでよかったぜ。建物まで雲だったら、魔法とけなねぇ……。」
2人は雲の中を歩く。すると木でできた大きな扉かあらわれる。2人はゆっくり扉を開ける。
扉を開けると大きな空間が広がる。その中央の椅子に1人の魔人族の少女が座っていた。赤い羽毛で覆われた手でコップをつかんでいる。足は鳥型のもので、鋭い爪が目立つ。
彼女はソウテンたちに気づいたらしく、後ろを振り返る。赤い髪は左目を隠し、暗いこの部屋でも冴えて見え、存在感をあふれださせている。
「む?帰ってきたのだ?お帰り青龍、白虎。」
「朱雀か……。お前、もう仕事終わったのか?」
「む〜?仕事……。あぁ、あれは玄武にやらせた。僕はしてない。」
朱雀はそう答えると、コップを口に近づける。手には本が握られている。本の題名は“天界族の歴史”だった。
「古代書のとおりだったのだ?ソロモン・マジックの使い手に会えたとみたの。」
「あぁ、ありがとうな、朱雀の言うとおりだった。いくら魔法の才にあふれ、ソロモン・マジックの使い手だとしても、危険察知能力を使い魔に頼っていたのでは……な。」
「むむ……!ルシ様のところ行くの。帰ってきたら通せと言われてたのだ。」
朱雀はコップを机におく。そして、2人に背をむけながら立ち上がった。
2人には朱雀がソウテンに感謝されて恥ずかしがっているということに気づいている。
褒められることが大好きなのだ。
3人は歩き出す。しばらく歩くと、豪華な装飾の施された扉があらわれる。朱雀はその扉を軽く叩く。そして遠慮なく開けた。
「ルシ様、青龍と白虎が帰ったのだ。連れてきた。」
部屋は扉同様、とても豪華なつくりとなっている。その部屋の中央の椅子に座り、大きな窓から外を眺めている人がいた。窓から見えるのはやはり雲なのだが、明るくなっており、朝が近づいているのがわかる。
「……。ありがとう、朱雀。席を外して。」
「了解したのだ。」
朱雀は一礼して部屋からでていった。2人は礼儀に気をつけながら頭を下げる。椅子に座っていた人はゆっくり立ち上がった。
「お疲れ様、2人とも。」
そこには天界族の青年の容姿をもち、背中の羽は黒く染まってしまった人がいた。しかしその瞳は綺麗に白く光っていた。その銀灰色に合う腰までの銀髪は輝いている。
その人物はにっこり笑った。