この世界の種族
俺が目を覚ますと、視界に尻尾が見えた。すぐにイポスのものだと気づく。
《ご主人〜おはよう!》
イポスが嬉しそうに言う。
また俺の体は赤ん坊となっているが、イポスのほうへと手を伸ばした。
「うー(イポス……!)」
《はいっ!何〜?》
(せっかくこの世界に来たからには、強くなりたい。)
《手伝うよ〜っ!それにきっと、人類はご主人の力を欲しがる。僕が守るよ。》
イポスは俺が伸ばした手の下に頭を持ってくる。俺はイポスの頭に手をおろした。……フカフカだ。
するとイポスが俺の目をしっかりと見つめ、鋭い視線を送ってきた。
《ご主人、この世界の今をお伝えします。》
今までのイポスとは違い、その顔から真剣さが伺える。
《この世界は今、人類と魔族による戦争真っ只中なんだ。この世界には全部で4つの種族がいる。》
イポスは一旦区切り、続ける。
《まずはご主人たち、人類族。この世界のいわゆる支配者。魔法を使えたり、火薬なんかでいろんな武器を作ったりしてるの。
次が僕たち72名の悪魔族。といっても僕たちはソロモン王時代以降、姿を見せてないから、存在自体が疑われているんだ。元々、魔界というところに住んでるし……。
そして魔人族。最も数が多くて、力も強いんだ。獣種と亜種に分かれていて、亜種と呼ばれる魔人以外は魔法が使えないし、ほとんど言葉も話せない。いわゆる力だけの獣だよ。
最後に天界族。雲の上で過ごしている、羽をもつ種族だよ。知性とプライドがすごく高くて、1番数が少ない。だけど1人1人が高い潜在能力を持っているんだ。》
(天界族……か。)
《うん。元々あまりこの世界の主権を握ることに興味がなかったみたいでね。無干渉なんだ。》
そしてイポスは、胸を張ってこう告げた。
《もちろん僕たち悪魔族が1番強いし、その力を使えるご主人が、この世界最強だよ?》
(……なぁ、イポス……。そんな悪魔族倒したのがソロモンだよな?)
《そだよ?でも今の僕たちなら、ソロモン王なんてバエル様が倒しちゃうよ?》
(ならなんで、俺を王と呼ぶんだ?お前らで世界支配できるだろ?)
《簡単さ!僕たちはソロモン・マジックによって主従関係を結んでから、ソロモン王にいろんなことを教えてもらったんだ。》
だから……。
《悪魔族はみんな、ソロモン王のこと、大好きなんだよ!》
ネ……ライオン姿だというのに、その笑顔はすごかった。悪魔なんていうのに、幸せで満ちている顔……。
《でも根元は破壊好きだからね。仲間内でよく死合したなぁ……。》
(死合?漢字違いだよな……。)
イポスの様子から見て、こいつが殺し合いする様子が想像できないんだが……。人型の時が7.8歳ぐらいの子供だぞ?相手本気だせんのか?
イポスは俺に新たな疑問を持たせたが、ある程度、この世界についてわかった。うん。いいことだ。
《これでわかった?ご主人?》
(あぁ、つまり俺たちの力は、最強、なんだろ?)
《うんっ!ご主人の隣に立てるのは、僕たちだけ。》
イポスは嬉しそうに言った。
そして俺は今更ながらの疑問を口にした。
(俺たち……どうやって会話してんだ?)
《ん?テレパシーだよ?ソロモン・マジックの恩恵の1つで、ご主人と僕たち悪魔族しか、聞こえてないから大丈夫!》
(なるほどなぁ……。)
イポスは俺の視界から消えた。
スタン……という着地の音がする。
《ご主人、頭いっぱいでしょ?次はちゃんと、寝れるよ?魔界に連れてったりしないから。》
イポスの声が聞こえる。
うむ。意識してみたら、異常にこの体、疲れてんな。なるほど……。
(イポス……これからよろしくな、お休み。)
《ご主人、お休み〜!》
俺はとりあえず寝る。
よく考えてみたら、何故色々と納得してるのか分からない。だが悪くないと思う。
元の世界に残してきた家族や親友。
心の中で謝るが、俺にはこれから起こる未来について考えるのに精一杯だった。
間違えなく、楽しくなる。だって色んな種族がいるんだぜ?なにやら俺はチートらしいし…。
……まるで、姉に借りた、小説の主人公じゃあねぇか!
あの時は、こんなもののどこが面白いのか分からなかったし、主人公が元の世界を捨てる理由も謎だった。だが、今なら分かる気がする。
剣と魔法、冒険とファンタジー。
とてもワクワクした。