夢の中で2
《さて、レハブアム王よ。我らの力をお使いください。あなたが望めばなんでもいたす。》
そんなこと俺に言われても……。
正直俺はよくわからない。いきなりイポスに連れて来られたかと思うと、俺のことを王と呼ぶし。あの悪魔の王らしい、バエルもだぞ?
「……聞きたいことがあるんですけど……?」
そりゃ、声も小さくなる。
悪魔だからなぁ。……ん?そういやイポスもなのか?このネ……ライオンの子どもみたいなのが?
《かまわぬ。お答えいたそう。》
「えーと、じゃあ、ソロモン王ってなんですか?それに何故俺に力を?」
《あれ?やっぱり説明不足そうですね、バエルは頭かたすぎ。それは王もですけどね。王は我らに敬語なんて使う必要、ないですから。》
「え……あ、はい。」
俺はうなづいた。
じゃ、いつもの口調で話していいんだよな?
《ご主人〜!僕がご主人の疑問にお答えしますよぉ!》
イポスが俺にしがみついてくる。
俺はそんなイポスを抱き上げた。かなり軽い。本当の7.8歳くらいの子はもう少し重いぞ?あ、歳の離れた弟いたからね。弟が俺とかなり歳が離れてたんだ。
《ご主人は僕たちの元王、ソロモン王の力、持っているんだよ。》
「力?」
《うん。正しくは使役魔法の1つ、ソロモン・マジック。かつてソロモン王に仕えた僕たちの力を使える魔法だよ!》
イポスが得意気に言う。
そんなイポスのライオン耳はぴょこぴょこ動いている。どうやら得意気になっているときは耳が動くらしい。
《うむ、少し付け足そう。ソロモン王とは約8000年ほど前にいられた方だ。そして、レハブアム王が新たに生まれた世界の“創造主”と呼ばれている。》
「8000年?!」
《そうそう。ソロモン王、強かったんですよ〜。その時、人類は魔法なんて使えなかったんですからね。まさか僕たちが負けるとはね。》
ヴィネは敗戦した話をしているにもかかわらず、なんだか楽しそうだった。
《ソロモン王は我ら72名の悪魔と主従の関係を結んだのだ。そして我らを呼ぶ時の魔法を使役魔法ーソロモン・マジックと名付けた。》
「ソロモン・マジック……。」
《うむ。ソロモン王亡き今、その使い手は失われた。しかしまた現れるとはな。8000年後の、しかも異世界で。》
バエルは指をならす。
すると部屋にあった大きなスクリーンに映像が映し出される。
「……船?」
その映像には大嵐の中、ゆっくり進む船が映っていた。間違えなくあの時乗っていた船だ。
《本当は事故を起こし、レハブアム王を行方不明にして、この世界に呼び寄せるつもりだったのだが、ミスがあってな。》
バエルは気まずそうな顔をしている。ふとイポスを見ると、こちらは目を合わせようとさえ、しない。
《ウェパル殿が少し張り切りすぎてな。この通り……という訳だ。》
「な、なるほど。」
つまり俺は転生ではなく、トリップ予定だったと。……たいしてかわんなくね?あの世界から出るのには間違えないし。
《イポス殿の未来予知が少しズレたということも、原因の1つだ。》
《う……。ごめんなさい、ご主人。》
イポスはうなだれている。耳はペタンと垂れている。
「や、別にいいけど。生きてたとしてもあの世界にはいられなかったみたいだし。」
《……ご主人!》
イポスがキラキラした目を向けてくる。思わず頭を撫でる。
(ネコ科よりもイヌっぽくないか……?)
イポスを見てそう思った。
《さて、そんなソロモン王の使っていたソロモン・マジックなんだが、レハブアム王が現れるまで、使用者がいなかった。》
《うんうん。暇でしたねぇ、この8000年。》
《だから我々としても嬉しいのだ。再び力となることができるのが…。》
バエルはニッと笑う。そして拳を握りしめた。
《いつでも力をかそう。我らの名を呼べばよい。念のため護衛にイポスを付かせる。》
《ご主人任せて!僕ね、未来予知、得意なんだ!》
「あぁ、ありがとな、イポス。」
《王〜!面白いタイミングで呼んでくださいよねぇー!僕、待ってますから!》
ヴィネが言う。はじめに感じた危険さは感じない。
《王よ。我らは主従関係であって、主従ではない。我らはソロモン・マジックが使えるという理由だけで、王を決める訳ではない。》
「あぁ、気がついてる。俺は変なこと頼んだりしねぇよ。だって……。友達…だろ?」
《……よろしくいたす、王よ。》
俺とバエルは顔を合わせニッ笑う。
すると俺の耳にイポスの声が届いた。
《ご主人〜!そろそろお目覚めだよっ。向こう戻ろっ。》
イポスがそう言ったのを最後に、俺は眠気に襲われた。