死んだ日
初なのです。
温かく見守ってください、更新不定期の受験生の気休め小説を。m(_ _)m
大嵐の中、その船は進んでゆく。
だがその船による旅もこれが最後だった。
俺は部屋で1人、横になっていた。と、いってもまだ他の奴らは食事中だからだ。1人、先に終わった俺は部屋に戻ったのだ。そのため、2段ベッドが2つあるその小さな個室にいるのは俺だけだった。
俺は扉から最も遠いベッドの上段にのぼり、寝転がっている。耳にはイヤホンがあり、本当ならば今持っていてはならない物──スマホを使い、音楽を聞いていた。
ノリノリで聞きながら目を閉じ、大嵐によって起こる船の揺れを楽しんでいた。
───これから楽しみにしていたアレがはじまる。
それを考えただけで俺はワクワクする。きっと……いや、間違いなく他の奴らもだろう。
……バタン。
イヤホン越しに扉を開ける音がした。
「遅くなって悪かったね。」
爽やかな笑顔であいつが部屋に入ってきた。俺は寝転がったまま、あいつにみえているだろうと思い、片手を上げてふった。
────その時だった。
突如、イヤホン越しのはずなのに耳が壊れるかというほどの大きな音がした。さっきまでとは違う揺れにかわっている。船は大きな岩にぶつかったのだ。
俺はいそいでイヤホンを外した。そして固まっているあいつのそばへといくために、階段をつかって下におりた。
『───お客様にご連絡いたします。………で、……となり、……。』
俺の耳にノイズとともに届いたアナウンス。だが、そんなことは気にならなかった。
俺は…いや、俺たちは学生が何よりも楽しみにしていると思われる例のアレ…修学旅行に来ていた。でも突然の事故により、今乗っている船が沈みそうになっていた。
俺たちは急いで部屋から出る。
食堂から何人かは帰ってきていたらしい。クラスメイトたちがざわついている。足から感じる船の動きに戸惑っているようだ。別にクラスメイトだけではない。
目の前を大慌てで横切る人。もちろん転けた人を踏みつけて走ってゆく。
何かに気づき、ずっと泣き続けている子供。あやす暇も惜しんで手を掴み走る母親。
先ほどまでいた食堂で飲んでいた中年男性。顔は赤くフラフラしているが、船外を目指して千鳥足だ。
「はやく!何してるの、そこの君!この船はもう…沈むのよ!」
俺の肩を叩きながら通りすぎてった女性船員さん。一応心配はしてくれたが、自分一番らしい。客を押しのけてつき進んでいった。
その船員さんだけではなく、他の船員さんも我先にと、外を目指す。
(今突っ込んだほうが危なくね?)
俺は冷静に思った。
クラスメイトたちのほとんどがあの出口に向かって突っ込んでいっている。が、何人かは転けてしまい、後ろからきた人に踏まれている。
「何してるの?俺たちも行こう!」
「……、あぁ。」
少し離れたところにあいつがいた。俺をせかしながら出口を目指す。
ふと見ると、扉の開いている部屋があった。窓から外が見える。船はゆっくりと沈んでいるのは間違いないが、まだ時間はありそうだ。俺は少しだけスピードを落とした。何よりもあんなところに突っ込みたくないよな。
………その判断が命とりだった。
突如、船が大きく揺れる。
え、と気づいた時には遅かった。大荒れの海は船を突き破った。そして逃げ惑う人々の最後尾にいた俺をつれさった。他の人々はギリギリで巻き込まれなかった。
俺の耳に、親友であったあいつの声が届いた。波につかまる前に手を差し伸べてくれた。あの時……空ぶった時のあいつの顔は忘れない気がする。文武両道で、顔も性格もイケメンの自慢の親友が、あそこまで慌てた姿を見せたのはいつぶりだったかな。
俺はあいつに笑顔で手をふった。
別に死ぬことが怖くないわけがない。いくら親友のあいつより運動神経よくて、海が大好きだから夏になると週5で海に通ったとはいえ、こんな海で泳いだことはない。
……けど、恐怖はなかった。
波が突き破ったことにより船が二つに分かれ、親友のあいつのいたほう……つまり俺以外の人たちのいたほうが運よく、海上で安定している。
俺は必死に泳ぎ、その様子を見た。ほっと安心したのがいけなかったのか……。大きな波が俺を襲う。元から疲れていただけあって、俺は簡単に海底へと連れていかれる。俺の視界は暗闇に包まれた。
じゃあな、この世……。
不思議と死というものを受け入れることができた。俺は死にたいと思ったことはなかったはずだ。それに学生の楽しみ……修学旅行に行けなくなったのにもかかわらず、だ。
なんだか頭に小さいころの俺とあいつが浮かんできた。いつも顔には笑みがあり、マイペースのくせして運動神経がよいあいつ。頭はバカな俺だが、運動面では負けたくなかった。
走馬灯…なんだろぅな。
俺の思い出す記憶のほとんどにあいつがいる。しかし、焦る顔はなかった。いつも余裕を持っている親友のあの焦った姿を見て嬉しかったと、思う。だって俺を心配してくれたんだぜ?自分の命が危ない状況で!いい親友を持った。
パッと頭にさっきのあいつが浮かぶ。ほとんど力は入らないがニヤッと笑った。
……来世でも仲良くしてくれよ?
俺はそう願い、この世から離れていった。
────どのくらいの時間がたったのだろうか。俺はなぜか暗い部屋?にいた。
人間の声ではないような、だが俺にも理解できる言語が耳に届く。
《あれ?ねぇ、あの子死んじゃったよ?君の予知が外れるなんて……仕事さぼったのかぃ?》
《はぁ?……っ。そんなわけないもん!僕の予知は正確なんだから!ウェパルのせいだよっ!》
《現に死にそうになってるぞ?》
《うっ……。僕の、僕のせいじゃないもん!》
2人?なのか……よくはわからないが2つの影が話していた。そこにもう1人、きたらしい。
《イポス殿を責めるでない、シトリー殿。》
《……!バエル様?》
《むー。バエル君ったら、いつもイポスのことかばうんだから……。》
《まぁ、まて。あの者は……》