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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

大国様シリーズ

大国様が本気で義父を攻略するようです・十四

作者: 八島えく

注意:このお話は、男性同士、父子同士の恋愛描写が含まれております。閲覧の際はご注意ください。

 温泉にのぼせた大国も、夜には調子を取り戻したみたいだった。

 宿にも浴場はあって、とりあえずシャワーだけ浴びて、大国だけ先に部屋へ帰した。


 俺は風呂につかってのんびりする。運がいいことに貸切状態で、余計浴場が広く感じた。ちょっと寂しいかな。


 ずっとつかってても俺はのぼせることがない。のぼせる前に上がるから免れてるのかもしれない。

 さっぱりしたあと、冷たい飲み物を買っていく。俺のと大国のを。あいつは緑茶がすきだったような。


「大国」

 大国は、外でのんびりと外を眺めていた。この部屋から見わたす外は、とてもきれいだ。

「ああ、お義父さん。いかがでしたか?」

「きもちよかったよ。広いのに俺ひとりだけでさ」

「そうでしたか。それはそれは」

「……ああ、これ。大国の分な」

 缶のお茶を差し出した。

「わざわざ、私のために?」

「ついでだついで。緑茶でよかったか? 他のがいいなら、また買ってきてやるぞ」

「いえ、これがいいです。ありがとうございます」

 そうして大国は、完璧な微笑を浮かべた。


 風呂でさっぱりした後は、わりと豪華な食事が待っていた。

 ひとり用の小さい鍋に色んな野菜とでかい肉が並べられている。ぐつぐつ煮えるのを、俺は眺めていた。

 鍋の隣には天ぷらとか刺身が置かれてて、隅っこには果物とかケーキとかの甘いものもある。

 それら夕食は、部屋の机に宿屋の人が並べてくれた。


 大国と向かいになる状態で、俺は夕食を食べる。ご丁寧に酒まで用意してあった。あ、自動販売機で酒買っておいてもよかったか。


「……うん、美味しいです」

「そうだな。豪華な飯は、そんな久しぶりでもないはずなのにな」

「人間や異国の神々との会合で、よく食べますものね。大勢であれこれ世間話をしながら、賑やかに食事を楽しむのが多かったです」

「ああ、それそれ。……だからなのかな。同じ豪華な飯なのに、賑やかじゃないのは新鮮だ」

「私とお義父さんだけですからね。会話もそれほどしませんし」

 大国は完璧な仕草でてんぷらをさくさくかじってる。

「嫌か……? 静かすぎると、気まずくなっちまうし」

「とんでもない。静かになっても、全然構いませんよ。もちろん賑やかも好きです。お義父さんとふたりでいる時間は、どんな状態でも愛おしい」

 天ぷらの天かすをさくさくやってるというのに、こいつが言うといちいち絵になるから気に入らない。

「ん、……ありがとよ」

「とんでもない」

 嬉しかったからあとで缶の酒でも奢ってやろう。嬉しい、なんて言ってやんねーけどさ。


 たくさんあった食事をぜんぶ平らげると、宿屋の人が食器を片づけにきてくれた。酒はそのままにして、飲み終わったら部屋の外に出すよう言っていった。


 俺は大国を呼んで酒をやろうと誘う。大国は嬉しそうに杯を受け取った。部屋の障子を開けると、綺麗な外が広がった。

 月が明るく周りを照らす。縁側に出て月を見上げていると、大国が酒を持って隣に座った。


「これはこれは」

「明るいよなあ。今日は兄の機嫌がいいのかも」

 俺の兄である月読は、夜の世界をまとめている。月が満月に近いほど力が強くなるらしい。

 それとは別に、満月ではない今夜の月を眺めていると、何だか俺まで気持ちがうきうきしてしまうのだ。これは兄に何か嬉しいことがあったに違いない。俺には何となくそれがわかるのだ。


「月夜というのは出雲でも見慣れておりますが、こちらの月もよいものですね」

「うん。俺もそう思う」

 杯に注いだ酒に、月が映った。きらきらしてて、宝石が放り込まれたんじゃないかってくらい、水が光ってる。

 ぐいっと酒を飲み込んだ。月も一緒に飲みこんだような錯覚がある。喉に綺麗な酒が流れていって、気持ちがすこし嬉しくなる。


 隣の大国もちびちびと酒を舐めている。一気に飲んでもけろっとしているような酒豪だが、今宵は大人しめだった。

「大国、杯」

「ん……? ああ、ありがとうございます、お義父さん」

 今の俺は気分がいい。空になった大国の杯に、なみなみと酒を注いでやった。

「頂きます。お義父さんも、どうぞ」

「ああ、ありがと……」

 完璧な男は酒を注いでも飲んでも絵になる。仕草がいちいち完璧だ。

 ふたりして酒を味わう。


 月の光とかそれに照らされる外とか、時々吹く風とか揺れる葉とか、遠くから幽かに聞こえる水の音とか、すべてが俺を満たしていく。

 宿屋の酒も極上だ。喉が潤う。いくらでも飲めそうだ。酒に強いのがありがたい。


 旅先そのものが良いのはもちろんだろう。賑やかな街、美味い飯、綺麗な川に体が休まる温泉……。どれもこれも逸品だ。


 だけどそれをより良くさせているのは、隣に大国がいるからだ。俺ひとりの旅ではここまでしんみりとうきうきはしなかった。


「……大国」

「何でしょうか、お義父さん」


「ありがと、な」


 大国の手から、杯が滑り落ちた。


 奴の顔はきょとーんとしてて、鳩が豆鉄砲食ったような間抜けたツラだった。


 そんな表情されたら俺も意識してしまう。やべえ、急に恥ずかしくなってきた。

 顔が熱い。今更酒がまわってきたんだろうか。そんなわけない。俺だって酒には強いんだ。酔ったわけじゃない。


「っ、んな意外そうな顔すんなっ! ばかっ」

「い、いえ、いや、はい、申し訳ありません……。お義父さんに感謝の言を頂くなんて、思いませんでしたので……。ああ、お酒が……」

 大国は行儀悪くも浴衣の袖で零れた酒をぬぐう。おいそれ誰に教わったんだ。…………あ、俺か。


 大国が酒で湿った袖を舐めた。どこまでもいじきたねえな。教えたの俺だけど。


「……布にひたっても、このお酒の味は良いものです」

「おいこら。……いやまあ、いいか。いい感じに飲んだら寝るぞ。明日はもう少し遠くまで歩いてみよう」

「はい。そうしましょうか、お義父さん」


 酒を片付けて布団をくっつけて敷いた。あいつのことだからてっきり一緒の布団に入ってあれやこれやとやらしいことをするんじゃないかと思ったが、そんなことはなかった。


「なんだ、寝こみを襲うことはしないのな」

「本当は今すぐにでもくっついて抱き枕にしたいところですが」

「本音かくしてくれ」

「失礼しました。床を共にするのは、お義父さんと結ばれてからの方が良いと思いまして」

 こういうところは律儀で真面目なのだよな。今の今まで、強引にことを運んだことがないのだ。それはあいつなりのケジメみたいなもんなんだろう。


「……大国」

「はい」

「寒くなったら、そっちに行っていいか」

「…………。いいですよ。私、平熱高いので」

 嘘つけ。


 でもその嘘が、俺にとっては嬉しい。

旅行先の宿やホテルに行くと、必要以上に大浴場に行きたくなります。そしてお風呂上がりに飲む炭酸がおいしいのなんの。つかりすぎてのぼせないように注意しなければならないですがw

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