プロローグ
プロローグ
目が覚めると辺りは真っ暗だった。
腕や足は縄で縛られており、背中の方にある大きな鉄柱に繋げられていて身動きが自由に出来ない。
これだけの説明で事態は理解出来ると思うが、どうやら俺は監禁されているようだ。
ポケットに入れていたはずの携帯電話も無くなっており、外へ連絡することも出来ない。
腹が減って何も行動する気が起らない、俺はいつからここに閉じ込められているのだろうか、思えばもう数日食べ物にありつけていないような気がする。
とにかくこの状況をどうにかするべく俺は様々な手を打った。
縄を歯で噛み千切ろうとしたり、物音を立てて助けを呼ぼうとしたりした。
しかし、縄は思っていたより頑丈で、尚且つ今のこの弱った体ではとてもじゃないが噛み千切ることは不可能だった。物音を立てても特に誰かが来る訳でもなく、周りに人の気配を感じることもなかった。
他に方法を考えようとしたものの、弱っているせいもあって思考がなかなか上手く働かない。
そもそも何故俺はこんな場所にいるのだろうか。誘拐されているのならば最悪殺されてしまう可能性もある。そうでなくても、このままでは死んでしまうことは明確だ。
とりあえず、今は打開策を考え続けることにした。
それからしばらく時間が経った頃、目が慣れてきて辺りの光景がハッキリと見えるようになってきた。
見渡す限り大きな箱のような物が上へ上へと積んであった。どうやらここは何かの倉庫のような場所らしい。
埃が立っているので軽く咳き込みながら引き続き辺りを見渡す。
すると正面に扉があることに気づいた。
俺は助けを呼ぶべく、その扉に向かってあらん限りの力を使って声を張り上げた。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!」
それから三十秒くらいした頃であろうか、その扉がギシギシと鈍い音を立てながらゆっくりと開かれていく。
扉の隙間からは光が差し込み、眩しくていったい誰がこちらへ向かって来ようとしているのか全く分からない。
バタンッ!!
突然、扉の閉まる音がした。
ゆっくりと目を開けると、俺の目の前に映ったには一人の男性の姿だった。
背丈はとても高く、シルクハットを深く被っており目元がよく見えなかった。
そして左手にはカラフルな杖、右手には――――――――――ライフル!?
よく見ると男の衣服は血痕で赤く染め上げられていた。
その瞬間、全身に激しい悪寒が走った。
手や足が震え始め、どんどん血の気が引いていく。
そうしている間に、男は既に俺の目の前にいた。
俺は覚悟を決め、大きく息を飲んだ後、ゆっくり目を閉じた。
そして――――――――。
「おっはよー! いやいや起きてたんだねぇ、良かった良かったぁ」
聞こえてきたのは何とも陽気な声だった。
俺はそっと目を開き、その男の姿を間近で確認する。
「さっきから何を怯えているのかな? もしかしてこのライフル? ハハハハ大丈夫だよ、これで君を殺そうって訳じゃないから」
男は蒼白になっている俺の顔を見て笑い続ける。すげぇムカつくなぁこいつ。
「おっ…おい」
勇気を出し俺は男に声をかける。
「お前はいったい誰なんだよ?」
俺は男を軽く睨みつけながら質問を投げかけた。
「失礼、申し遅れました、 私、ノア・スチュワートと申します、ノアで結構ですよ」
「目的は何だ? 俺は何故こんな場所にいるんだ?」
「そうだねぇ…目的は大きく分けて二つと言ったところだね」
ノアはそのまま話を続けた。
「一つ目…を言う前に少し君のことについて知っておきたい事があるのだけれど、聞いても良いかな?」
ノアの発言に少し戸惑いつつも、黙ってうなずいた。
「君は……もしかして童貞?」
「は?」
いきなりの突拍子もない発言に思わず目を丸くする。
「いやいや別に小馬鹿にしている訳じゃないんだよ、君の緊張を少しでも解してあげようと思って少しジョークを言ってみただけなんだ」
「小馬鹿にしてんじゃねぇかよ! 早く目的を言え!」
「そう焦らずにさぁ、もっとゆったりお話しようじゃないか」
焦らずだぁ?こっちは腹も減っているし、身動き出来ないし、一向に目的を教えてくれないしで切歯扼腕していると言うのに。そろそろこいつの気ままな態度に嫌気がさしてきた。
「ところでさぁ、君はここに来る前のことを覚えているかい?」
俺の様子を窺うように新たに質問を投げかけてきた。
「えっと、確か学校から家に帰っている途中だったような…」
その時のことは鮮明に覚えているのだが、どうやって俺がここまで連れてこられたのかは全く覚えていない。まるで記憶を消されているかのように。記憶喪失とは少し違う、頭の中を探られたような違和感がある。
「えぇと、実のことを言うとねぇ、一時的に君の記憶は無くなるように軽く魔法をかけちゃってるんだよねぇ」
何を言っているんだこの男は?あぁ、これが俗にいう中二病と言うやつか。
「お前のことがよく分かった気がする、お前アレだろ、馬鹿だろ?」
俺はノアに疑いの眼差しを向けた。
「あっ、信じてないでしょ! 本当だよ!」
「信じられるわけないだろそんな突飛な話! 偽言にも程があるだろうが!」
「君は夢がないなぁ、君さぁサンタとか信じてないタイプの人でしょ、駄目だよぉ夢は持たなくちゃ」
こんな時にそんな発言をされる俺の身にも成ってみろ。頭を整理するので精一杯だって言うのに。