探偵ねくろまんさー!
私は若竹美千代、探偵だ。今私は、クーラーの効いた事務所でダベっている。
「あーぁ、何か事件はないかなぁ」
「不謹慎ですわ。日本は治安が良いことが売りですのに」
そう言うのは、私の探偵助手の靖広多恵子。
幽霊である。
「だって、私は探偵業で喰ってるんだよ?! 事件が無かったら私飢え死にしちゃうじゃん!」
「良いではないですか。私と本当の意味で一緒になれますわよ?」
「それはまだいいの! どうせいつか死ぬんだから。あー、じーけーんーじーけーんーー!!」
「そんな君に朗報だ。ほれ、新しい事件だぞ」
いきなり事務所に入って来たこいつは、刑事の平暮歳三。
通称ヘボ刑事である。
あと脇が臭い。
「やったーっ、メシだぁーっ!」
「メシじゃなくて事件ですわよ……。ていうか、何故こいつの紹介が私よりも長いんですの?!」
「いいじゃんこいつどーせモブだし、今くらい見せ場ないと可哀想でしょ?」
「それもそうですわね」
「そこ納得しないでくれないかね? あと脇が臭いが見せ場とかどんな」
「「ヘボは黙ってろ」」
「……ワシ帰っていいか?」
そうやってとぼとぼと踵を返そうとするヘボ刑事の方をガシッと掴む。余談だが、多恵子の姿が見えるとは私と、あと何故かこのヘボ刑事の二人だけだったりする。まぁ、こいつが多恵子を見れるからこそ私達は知り合ったわけだが。
「いやいや話はまだでしょ? ていうか、お前がヘボ過ぎて解決出来ない事件があって困ってるんじゃないの?」
「まぁ問題を解決しているのは全て私なのですけれど」
「いい加減にその口の悪さを何とか……。あぁはいはい、分かった分かりました、じゃあ事件の説明をするから適当に寛いでくれ」
「ろーせ話ふならさっさと話へってんらよ(バリバリ」
「ポテチ食べるのはやめてくれないかね」
〜15分後〜
「ふんふん、ふまり、殺人事件があって状況証拠で犯人は割り出へてはいるけろ、物的証拠が無いから立証できぬぁいと。だかられきれば凶器などの物的証拠を見ふけてほひいと(バリバリ」
「ほうゆうことら(バリバリ」
「何でヘボ刑事までポテチを食べているんですの……」
「ふい、てわけで多恵子行ってら〜(バリバリ」
「行ってらって……せめて場所を教えて下さいませんこと?」
「あぁ場所かぬぇ? 取り敢えず、ほれが容疑者の家周辺の地図らよ。黄色のマーカーで塗ってありゅとこが容疑者の家ね(バリバリ」
「何か納得が行きませんけれど……分かりましたわ。じゃあ、美千代様///」
「んー、またー? 全く、多恵子は甘えん坊ねぇ。はい、行ってらっしゃいのちゅー♡」
「ちゅー///」
「……おあふいことで(バリバリ」
〜2時間後、探偵事務所〜
「ただいまですわ」
「おふ、ほかえり(バリバリ」
「まだ喰ってるし」
「らって暇らし(バリバリ」
「この豚め……。っと、それより、美千代様はどこですの?」
「あぁ、なんか暇らからーっつって銭湯に女の子お漁りに行ったぞ(バリバリ」
「また浮気ですの?! 今日という今日はもう許せませんわ!!」
「へ、あ、ちょっと待っへ、せめて調査結果くらい聞かせt……」
「……行っちゃったな(バリバリ」
〜2時間後、銭湯〜
銭湯って何でこんなBBAばっかなのかなぁ……。それもマナーもへったくれもないクズばっか。はぁ、今日もピチピチの女の子は居ないのかな……。お? おおお? あそこに居るのは華のJKというやつではないか? よぉーし、ちょっと声をかけてみよう!
「ねー、君。今一人?」
「え? え? は、はぁ」
「じゃあ、お姉さんとイイコトしない?」
「……え? イイコトって、え?」
「問答無用!!」
「え、ふみゃあっ?!」
「へっへっへ、お客さぁん。気持ちいいのはここですかい? それともここで? ほれほれ、ここはどうですかな?」
「えっ…あっ…ちょっ…あっ……やめ……あっ、あっ、あぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ」
「ぐへへへ……あそーれ! ここ掘れワンワン!」
「ふみゃああああああああああああ」
「やめるのですわこの誑しがぁ!」
「ぶべらっ?!」
ボッチャーン。
「な、なに、多恵子、どうしてここに?」
「どうしてもクソもありませんわぁ! 私が一生懸命してるあいだに一人遊びやがって! 私というものがありながらぁーーっ!!」
「え、ち、ちょっと待とう? 落ち着こう?」
「これで落ち着いてなんていられる訳あるかーっ!!」
「キャラが崩壊してるよ?!」
「その償い……。しかとその身で味わうがいいですわぁーっ!!」
「ひゃあんっ?! ちょ、ここで?! あ、そこはd……」
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「はーっ、はーっ……(ガクガク」
「せいせいしましたわ(ツヤツヤ」
「た、立てないよぉ……。この状態でどうやって帰れっていうのさぁ」
「はい、先ずはバスタオルを身体に巻いて下さいませ」
「う、うん」
「じゃあ、行きますわよ」
「って、え? このまま? バスタオルだけで? あ、飛ばないでぇ! 空飛ばないでぇ! 見える! 下から見えるからぁ!!」
幽霊である多恵子は空を飛べる。そして、私一人程度なら運ぶのも容易であるらしい。つまり、今私は多恵子に運ばれ、空を飛びながら事務所に帰っている。銭湯から事務所まで2kmはあったのに、3分程で事務所に着いた。扉を開くと
「……今晩はお楽しみだったな」
「あ、そういえばお前の存在忘れてた」
「酷い?! 流石にワシの扱いが酷いぞ?!」
ヘボ刑事がギャンギャン喚く。
「こいつ、よく吠えるなぁ……。狂犬病にでも罹ってるのかな」
「餌をやってれば落ち着くのではないですの?」
「ワシは犬扱いか?! はぁ……。もういいわ。で、容疑者の自室に凶器は見つかったのか?」
「おそらく、刃渡り12cm程のサバイバルナイフだろうという話でしたわよね? 残念ながら、ありませんでしたわ」
「そうか……。仕方ないな。では、引き続き部屋の見張りをお願いしよう。ポロっと情報を漏らすかもしれんからな」
「男の部屋を監視するなど、私にそのような趣味はないのですが……。仕方ないですわね。他ならぬ美千代様のためですから。それでは美千代///」
「はいはい、行ってらっしゃいのちゅー♡」
「ちゅー///」
「この光景が日常になりつつある自分がこわい」
〜3日後、探偵事務所〜
「大変ですわぁ〜!!」
「え、なになに、どうしたの」
「容疑者が口を滑らせましたの!! 凶器の隠し場所を!!」
「おおー、さっすがギャグ100%の小説と名乗るだけはある。なんてヌルゲーなんだ」
「何か言いましたか?」
「いやいや、やったねたえちゃん! 凶器がでてきたよ! で、その凶器は何処にあるって?」
「三丁目のマンホールに落としたらしいですわ」
「Oh……」
現実は、そこまで甘くは無かった……
〜3日目、警察署〜
「……というわけですわ」
「なんと……。凶器は三丁目のマンホールから下水道へ捨てられたと……」
「どうするヘボ刑事、下水道に乗って流されてたら探しようがないよ」
「……まぁ、行くだけ行って見ようか。もしかしたら下水道に潜るかもしれんし、君達は汚れてもいい服装に着替えて」
「ヘボ刑事、まさか女にあんな薄汚い下水道へ潜らせようとか考えてんの?」
「え、い、いや、それは……」
「じゃあ、一応着いて行きはするけど、探索は任せたよ!」
「は、はぁ……」
〜15分後〜
「ここが三丁目のマンホールですわね」
「本当だ。橙色のポスカででっかく三丁目って書いてある」
「マン ホールに入るって言うと、何か卑猥に感じますわよね」
「何故一文字分開けたし」
「MANHALLS 〜三丁目の夕日〜」
「……」
「……」
「何でワシ喋るとみんな黙るのかね?」
「いや、意味分からんし」
「然しMANHALLと表記すると、何だかMAN(=男の)HALL(=となってやはりひy」
「はいはい黙ろうかー。この小説をR指定にするつもり?」
「取り敢えず、マンホールの蓋を開けようか……うおおお(ズゴゴゴ」
「うーん、やっぱり真っ暗だねー。ここから落ちたら死ぬのかなぁ?」
「女性として死ぬのではありませんこと?」
「うわー、やだなー。ヘボ刑事ー、あんた男だからこっから落ちても死なないでしょ? ちょっと飛び降りてみてよ」
「んな無茶な?! 先ずは懐中電灯で中を照らしてみよう」
「やっぱ深いなー……。うん? あそこで何か光ってない?」
「あれはマンホールから下水道に降りるための梯子ですわね……。その途中に、何か光るものがあるようですわ」
「……まさか、ね」
「……まさか、ですわね。ちょっと取って来ますわ」
「……どうだった?」
「案の定、でしたわ」
多恵子の手には、血濡れたサバイバルナイフが握られていた。
「……これが小説が持つ絶対的スキル、ご都合主義ってやつか……」
「単純に作者が書くのを面倒臭がってサボっているだけですけれどね」
「最近、ワシの存在意義について真剣に悩んでいるのだが……」
「かませっていう確固とした存在意義があるじゃん」
「それもどうなの?!」
「仕方ないじゃん。こうなった以上、自身に割り振られたキャラを全うするしかないよ」
「だから、ワシがかませキャラだという事に納得が行かんのだ!」
「私達に八つ当たりしてどうするんですの……。悪いのはキャラを設定した作者ですわよ」
「おいコラ作者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
ピコーン。
天の声『反抗勢力を確認。作者にして絶対の神より、天罰を下します』
「は?」
「ひ?」
「……ふへほ?」
「あぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うわ、ちょ、ヘボ刑事?!」
「とうとう狂犬病を発症しましたの?!」
天の声『彼の魂は、一時的に私の統制下に置かれました。今彼はきっと、豚小屋の中で盛った雄豚達に輪姦されている夢を見ていることでしょう』
「うっわー……」
「えぐいですわね……」
「…………(ブクブク」
「うっわ、凄い。泡吹いてるよ」
「人間も泡なんか吹くんですのね」
「……どうする、こいつ」
「……帰りましょうか」
「……そうだね」
「…………(ゴボゴボ」
〜翌日、警察署〜
取り敢えず、ヘボ刑事から今回の依頼料を掠め取らなくては明日からの生活費がないので、私は渋々ながらも多恵子と共に警察署へ向かった。
「やっほー、ヘボ刑事はいる?」
私が受付の巡査に尋ねると、
「いるにはいますけれど……」
どうにも歯切れの悪い返事だ。
「いるならいいよ、案内してよ」
「分かりました……。ここです」
「ひぃ……っ! ごめんなさいごめんなさい許して下さいただの出来心だったんです本当に貴方に反抗する気なんてなかったんです私はただのかませなんですかませはかませなりに貴方に頂いたキャラを貫きますあだめ貫くからといって貫かれるのは駄目ぇ出す為の穴なのにそんなの押し込んじゃらめぇ分かった分かりましたごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい謝るから許して下さい何でもしますからやれと言われれば大統領の尻でもクソ上司の心臓でも何でも貫きますからだから私を解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して解放して」
「……」
「……」
「……これは酷いですわね」
うん、これは末期だ。
「……どうしよう、これ」
「叩けば直るのではありません?」
「よし、えいっ!」
ゴキッ!
「……何か首が変な方向に曲がっている気がするのですが」
「気にしない! 逆方向からもう一丁、えいっ!」
ゴバキャッ!!
「……何か、人の体からは聞こえてはならないような音が聞こえた気がするのですが」
「気のせい気のせい! ……えーっと、取り敢えずこれは袋に包んでマンホールにでも捨てようか」
「逃げる気満々ですわね!」
「おいおい、ワシをどうするって?」
突然、足元からそんな声が聞こえた。
「あ、ヘボ刑事。直ったんだ」
「人が直るという表現もどうかと思うのだが……。よく分からん。何でワシは警察署にいるのだ? さっきまで三丁目のマンホールの所に居ただろう」
「はぁ?」
「……あー、これはあれですわね。作者から天罰を喰らってから今までの記憶を失ってしまったようですわね」
「あーなるほど。いやーヘボ刑事ったら、何か突然ぶっ倒れてさぁ。びっくりしたけど、放っとくのも可哀想だし、私達でここに運んどいてあげたんだよ」
「その言い訳はどうですの……」
「そうなのか? いやはや、迷惑をかけたな」
「あっさり信じましたわね」
「取り敢えず、凶器は私達が持ってる。これで容疑者を追い詰められるよ」
「分かった。すぐに容疑者を呼び出そう」
〜5時間後〜
容疑者は、短く刈り揃えられた金髪にピアスを付け、へらへらとした笑みを浮かべた、いかにも軽薄そうな人物だった。今、彼は取り調べ室の椅子の上で胡座をかいている。片手に持ったゆで卵を齧りながら、何というか、場違いな程にリラックスした様子だった。
「しつこいですね、あなた方も。何度私の時間を奪えば気が済むのですか? それとも何です、まさか証拠が見つかったとでも?」
「そのまさかだよ」
「それは……ッ?! 俺が捨てた筈のナイフ……ッ?! 何故それを!?」
「清掃員のおっちゃんが見つけたっつって持ってきた」
「そうか……。俺の運も尽きたか……。そうだよ、俺がやったんだよ」
「やっと認めたか」
「いやまだ30秒も経ってないよ?! せめてもっと粘ろうよ!!」
天の声『面倒なので端折っちゃいました。てへっ♪』
「てへっ♪ じゃねぇよ!」
「そして、唯一分からないのがその動機なのだが……。お前はどうして被害者を殺したのかね?」
「動機だと?! そりゃあ決まってんだろ!! あいつはな……」
「「「あいつは……?」」」
「あいつはな、ゆで卵の殻は下から剥くものだとか抜かしやがったんだよ!!」
「「「……は?」」」
「いやおかしくね?! 何でわざわざ剥きにくい下から剥くわけ? ! 尖った上の方から剥くのが一番やり易いに決まってんだろ?! 何でそんな非能率的な事をやるのかね。卵が可哀想だろ!! 卵だって出来るだけ早く食べて欲しいに決まってんだろ、少しでも温かいまま食べて欲しいに決まってんだろ?! なのに何でもそんなわざわざ時間のかかるマネを」
「あぁ……はいはい。君の動機はよーく分かった。だから少し頭を冷やせ。おい、冨樫くん。こいつの口を塞いで拘留所へ連れて行ってくれ」
「分かりやした(ガシッ」
「卵はあらゆる栄養素を含んだ万能の……もがっ?!(ズザザーッ」
「……むが、もがーっ(バタバタ」
卵オタクは、必死の抵抗虚しく拘留所へと引き摺られて行った。
「……終わったかな?」
「……終わりましたわね」
「やったねたえちゃん! また事件を解決だよ!」
「やりましたわね! これで今月の生活費は安泰ですわ!」
こうして、私達はまた一つの事件を解決した。私達の探偵生活は、まだまだ続く。次は、一体どんな難事件が私達を待ち構えているのだろう。だけど、例えどんな難事件が私達を苦しめても、私達は力を合わせて、絶対に事件を解決して見せる! だから、どうか皆さん。これからも私達を応援して下さい。
それでは皆さんさようなら。また、何処かでお会いしましょう!
「それで、次の事件なんだがな」
「ちょ、今は綺麗に終わってたでしょ?! 空気読めよヘボ刑事!」
「そうですわ、豚はさっさと豚小屋に帰るがいいですわ!」
「豚?! ……ん、豚? 豚……。う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
「ちょ、どうしたの?!」
「どうやら、あの記憶を思い出したようですわね」
「あー、御愁傷様だね。とりあえず、帰ろっか」
「そうですわね。うふふふ、今夜は寝かせませんわよ?」
「あはははは、お手柔らかに頼むよ」
「美千代様♪」
「多恵子♪」
「…………(ピクピク」
天の声『……自分でやった事とはいえ、ヘボ刑事が不憫過ぎて泣けてきた』