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直談判

 国民からは酷い言われようだったけど、やっぱり勇者は勇者、扱いはかなり丁寧だった。

 やばい、今優しくされたら恋に落ちる。王宮であったのジェントルマンな紳士ばっかだけど惚れちゃう。


「こちらがモニカ様のお部屋でございます」


「あ、どうも」

 

 さらば、愛しき紳士よ。お願いだから影で悪口いうのは止めてね。


 紳士を丁重に見送って、改めてモニカ様の部屋を見る。

 うん、すっごく大きい部屋だ。扉を見ただけでわかる。多分、僕が来ることは連絡が行っているはずだ。彼女はどんな顔で待っているのだろう。


 してやったり顔か? それとも以外にも申し訳なさそうにしてるとか? まさか寝てるなんてことはないだろうな。


 こんなに焦ったのはいつ以来だろう。基本的にのほほんと生活して、自堕落の限りを尽くしてきたので、心拍数が増加することなんてまずなかったもんな。


 うわ、手が湿ってきた。こんなに緊張してるのか。いやいや、たかが同い年の女だぞ? しかも数年教室を共にして、レアアイテムを盗んだこともある相手だ。何を怯える必要がある。



「……よしッ」


 やっとの思いで心を固め、扉のノブを握る。両開きの扉を思いっきり手前に引く。

 開かない。

 あれ、おかしいな。力が足りなかったかもしれない、もう一度。

 開かない。

 ぐぬぬ、硬い扉だ。それならこっちだってこうして、一回押してからその反動で――


「うわっぷ」


 勢いよく扉が開く。反動を得るための押しの段階で開いたせいで意表を突かれ、変な声が出てしまう。押すタイプだったのか。


 そのまま床にビターンと体を打ち付ける。痛いものは痛かったが、それ以上にホントに転んだ瞬間にビターンって音がなって驚いた。


「……久しぶり、ヴァ――勇者」


 気持ち悪い虫を見つけたような表情で迎えてくれた王女は、死んだ名前を言いかけて咄嗟に言い換えた。


「……久しぶり、モニカ王女様」


「止めてよ。私たちの仲でしょ? タメ口でいいわよ」


 この尼、僕が何しに来たのかわかっているのか? 分かっていての狼藉ならさすがの僕も堪忍袋の緒が切れるぞ。


「士官学校はどうした?」


「それはあなたと同じよ、勇者。私も名誉卒業でこの前士官学校を後にしたの」


 僕は名誉じゃなくて強制卒業なんだけどな。喧嘩売ってるの?


「……ねぇ、なんか僕に言うことないの? 僕はそのために来たんだけど」


 あ、目つきが変わった。自覚はあるのね。


「……え?」


 あれ、目つき変わったクセに分かってないのか。なんなんだこの王女。いちいち人をイラつかせるな。


「なんであそこで僕を勇者に任命したんだってことだよ」


 言ってやった。言ってやったぞ。王女に抗ってやったんだ。


 すると、それを聞いた王女は見る見るうちに額に汗を浮かべて、白い顔をしだす。まさか、本当に今の今まで気づいていなかったとか言わないよな。もしかしてこの王女、バカなのか?


 あぁ、多分バカなんだ。なんかそう考えればいろいろ検討が付く。

 あそこで変な指名したのも、執拗な意地悪を許してくれたのも、誕生日にくれた金券の桁が一つ間違ってて、ダンジョン一個変えるくらいの金額を一クラスメイトに渡したことで親に怒られていたことも、全部納得だ。


 モニカ王女はバカなんだ。


「……そ、それには、理由が、あって……」


 ああ、わかってます。おつむが痛い痛いだったんですよね。今気がつきました。おつむが痛くて何すればいいか分からなくて取り敢えず欠伸していて目に入った僕を指名してしまったと。


「あぁ、理由ですか。えーと、どんな?」


「だ、だから、それはその……」


 どんどん赤くなるモニカ王女。この方は自分がバカと自覚しているタイプのバカなのかな。だったらまだ救いの余地がある。バカだと思うところを直していけば良いのだ。でもバカだからそれが分かんなくてより一層バカになっていくんだろうな。あ、やっぱり救いの余地無いわ。というか、あまりに罵倒され続けせいか、僕の一言一言にも刺が出てきた気がする。


「言えないような理由ですか。ふむふむ、へー」


「な、なによ…… ッ!? まさか、あなた検討がついているの?」

 

 うわ、なんかこの感じゾクゾクする。尋問みたい。っとヤバイヤバイ。僕がどんどん壊れていく音がしたよ。


「まぁ、大体は」


「へ、へぇ。じゃあ、ちょっと言ってみてよ」


 お、モニカ王女が強気で来るならこっちも強気で行くだけ。女だからって容赦はしない。ここに来るまで僕が受けてきた仕打ちはこんなものじゃないんだ。


「あれでしょ、モニカ王女はバカなばっかりに……あ、今のシャレじゃないですよ?」


「…………」


 ヤバイヤバイ、なんか変な空気になった!? 調子こくんじゃなかった、すいません、やり直します!!


「……ごほん。バカだったからあそこで、欠伸で一人目立ちした僕を指名するしか考えが浮かばなくて、それでさらにバカだから僕がここに抗議しに来たことにも対処できなくてつまり貴方はバカ故、バカだからこそバカだったことでなんかもうバカバカしくてバカバカやけ食いして――」


「ちがうッッッッ!!!!!!」


 ……怒った。


「違う違うちがう違うちがうちがう違う違うちがう!!」


 血相を変えて、涙さえ浮かべて首を左右に吹っ飛ぶくらい振り回すモニカ王女。なんか情緒不安定だな、王女。泣きたいのはこっちだよ。


 然れど、今の僕はちょっと言いすぎてしまったかなと思う。女の子に浴びせる言葉じゃなかったかもしれない。


「…………」


「ちがう……そうじゃないの……」


「ごめんなさい。言いすぎました」


「…………」


 一応、仮にも王女様だし、謝るだけ謝っておこう。なんかもう手遅れな気がしないでもないけど。


 目を擦って涙を拭う王女は、黙ったままだったが首は振り続けていた。


「…………もっと、酷い理由なのよ……」


 あれ、なんかボソって声が聞こえた。もしかして僕への処罰かな。だったらしっかり聞かなくちゃ。


「え、今なんて?」


「……それ以上に、もっと酷い理由なのよ。ごめん、ごめんなさい」


 あれ、おかしいな。なんで王女様が謝っているんだ? あれあれ、そこに気がいってなんて言ってたか忘れちゃったよ。


「よく聞こえません、もう一回」


「もっと酷い理由であなたを指名してしまったのッ!!」


 半ば叫ぶように吐露したその一言。うん、もっと酷い理由? 僕は相当酷い言葉を浴びせたはずなのにそれ以上にひどい理由って……


「その、えっとね、怒らないで欲しいんだけどね……」


 ボロボロ涙を零すモニカ王女は、絶妙な上目遣いで言い放ったのだった。  

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