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仲間の鎮圧

 ミオンの元を離れた僕とシャオフェイは人気のない物陰に身を潜めながら、それでいて息を切らせながら走っていた。遠くの方では暴徒によって巻き起こされた悲鳴や破壊の音が聞こえる。僕らの目的地はそこだ。


「ミオンに言われたとおりにしてはいるけど、本当に信用して良いのか心配になってきた。考えてもみれば、アイツが僕たちに力を貸す理由なんてただの一つもないんじゃ……」


「うーん、そういう損得感情とかじゃなくて、もっと別の次元で動いてるような気がするよ」


「そう言われるとそんな気もする」


 事の発端は数時間前。麗しき乙女の水浴びが終わり、これからのことについて話し始めたときだった。


「ヴァンはまずどうしたい?」


 そんなことをミオンから聞かれた。僕は一応考えをいろいろ整理していたため、その考えの中から難易度や実現可能性などを考えつつ優先度を付けていった。


「とりあえず、国内で暴徒と化している王国のみんなを解放したいな。このままだと王国のイメージがドンドン悪化するし、国内も緊張が高まるし、まずはそこからなんとかしたいな」


「なるほど、確かに王国の人間ならそう考えるのも無理はないな。だが、あの暴動はヘキセンによって引き起こされている。鎮圧に動いているのをヘキセンに感づかれればそれこそ一帯は戦果の渦に巻き込まれるな」


 ミオンの意見は当然のものだった。しかしそうであっても、とにかく今は王国の人間が既にいないモニカ達に手を出させないためにと起こしている暴動を止めなければいけない。暴動の規模も被害も場所も、何も分からないけど、だからこそ早く動き出したかった。


「ヘキセンに気付かれないように鎮圧することはできないかな」


 そんな言うだけなら簡単なことをぼそっと口に出してしまったことを後悔して、恐る恐るミオンの表情を伺うと、彼女の表情は至って冷静だった。


「できないことはない。私が出向けば良いだけのことだろう」


「え?」


「もはやヘキセンにとって暴動の理由はさしてない。一番の目的である王国の人間に見せびらかす事に成功しているからな。それに他のものを国外に出していることから、暴動を起こさせている人間にもそれほど興味はないのだろう。私が出向いて気を引けば、簡単に注意はそれる」


 なるほど、と思った。しかしそれはなかなか簡単に頷くことの出来ない内容でもあった。要はミオンをおとりに目的を遂行するという話なのだ。考えてもみれば、僕はニオンからミオンを救って欲しいと言われているのに、そのミオンをなんとおとりに出してしまおうというのだ。


 ただそんな強がりもそこまでで、おとりとか助けるとか、そんな話に今の僕は関与出来ていない。ヘキセンはそれぐらいに強く、僕にはおそらく如何することも出来ないのに、ミオンにはそれが出来るのだ。もはや助ける助けられるの関係は逆転済みというわけなのだ。


 一応、秒で頷くのもどうかと思ったので、若干苦悩の表情を見せたのちに、


「ほんとうにいいのか?」


 と問いた。我ながら弱者である。ミオンは実に頼りがいのある表情であぁ、と返した。言い声である。

しかし彼女はこう続けた。


「ただ、今ヘキセンの元に捕まっている女達は、残念だがそう易々と解放することは出来ないだろう。それに……口にするのも憚られるが、あそこにいる全員がシルシウスになるのもそう遠くは無い……。こればっかりはどうすることもできないだろう……」


 その言葉に、僕もシャオフェイも言葉、表情を失った。人数にして六人程だっただろうか。ヘキセンが選んだのであろう綺麗な王国の女性が、首に鎖を繋がれていた姿。その中に見た級友のアイナ。表情を思い出そうとすると、その記憶に黒いもやがかかり、吐き気を催す。言葉に出来なかった。


「ただヘキセンさえ倒せれば、彼女らを解放することも可能だ。とにかく今は心を強く持って貰うことを願うしかない。



 そして今に至る。僕たちはいち早く暴徒化した王国の人間を鎮圧する。彼らからいろいろな状況を聞いたのち、ひとまず王国へ解放する。その後秘境でミオンと合流するのだ。


 僕もシャオフェイも煮え切らない気持ちは持ち合わせているだろう。しかし力がない僕に出来ることは限られている。力のないことを嘆き、落ち込んでいる暇はないことぐらいもうよく分かっている。


 拳を握りしめて、今出来ることをするしかないのだ。



 騒ぎの元に到着すると、王国で見たことのある優秀な兵士達が家に火を放ち、出てきたオジオールの国民を捉えているようだった。それはまさに地獄絵図で、オジオールの人々が王国のにんげんをみるやいなや戦慄していたことをここでようやく理解した。


さっそく僕とシャオフェイはその暴動を止めに入った。しかし、ここで予想外のことが起こった。


「おい、やめろ、やめてくれ!!」


「みんな、もうやめて!!」


「…………ん、勇者と……あいつは」


「…………シャオフェイじゃないか?」


 僕たちの声を聞いた彼らは、僕とシャオフェイを見て怪訝そうな表情をする。何が起こったか分からないような表情だ。急いで状況の説明をしようと試みる。


「今すぐ暴動を止めてくれ!! もうこんなことする必要ないんだ!!」


「そうだよ、モニカ王女たちはもうこの国にいないの!!」


 しかし、そんな僕たちの言葉を聞いて、彼らの緊張は解けるどころか更に強ばっているようだった。

剣を握る手に更なる力が込められていく。


「なんで王国をつぶそうとしていたシャオフェイが……それに、勇者まで……どういうことだ」


「まさかヘキセンは王国本土にまで何かしたんじゃ……」


 そのざわつきは次第に増幅していき、表情に恐怖、畏怖が宿っていく。もはやまともな精神状態ではなく、目の前の恐怖を振り払うかのように剣を振るい始めたのだ。


「まずい、シャオフェイ!! 一旦手荒にはなるけど武力的に鎮圧しないと危険すぎる」


「わ、わかった!!」


 まるで亡者のように襲い来る仲間の姿を前に、僕たちは虚脱感と戦いながら臨戦態勢に入った。


またまた遅くなってしまいすみません……。

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