初めまして、ヴァンです。
広間に集められた剣士達の前、広間より一段高い壇上に一人の可憐な少女が立っている。
スカイブルーのドレスに、白銀のカールしたロングヘアーの彼女は、この王国の王女、モニカ王女だ。
若干十六歳にして異例の即位により、史上最年少王女として君臨している。
そんな彼女の命によって集められた剣士達。
これから始まるのは、この国の勇者を決める決闘大会だ。
日々努力を重ね、王国のため、民のために剣術を学ぶ選ばれし剣士達はみんな揃って勇者を目指している。たった一人、僕を除いては。
そもそも何で僕がここに呼ばれているのか、よく分からない。
僕の剣の腕なんてチャンバラする子供達にも負けるレベルだ。剣術の知識もほとんどない。剣を握ったことは一度だけある。剣士になった日、職業証明証を作るために剣士の格好になったその一回きりだ。なのに何でここに呼ばれているんだろう。あれかな、底辺枠みたいなのがあったのかな。
「早く終わらないかなぁ」
僕の名前はヴァン。王都の士官学校に通う十六歳。世間では怠け者のヴァンなんて呼ばれている。
剣士なのは、クラス希望の紙を提出し忘れたせいで一番枠の多い剣士に入れられたから。
得意なことは屁理屈。苦手なのは運動。好きな食べ物は果物。嫌いなのはあんまりない。
王都の士官学校に通う剣士でここに呼ばれたのは、僕以外いなかった。他はみんな、ギルドのエースや剣術道場の師範、ソロながらも最高レベルの生ける伝説、とそうそうたるメンツ。
僕は勇者になる気なんてさらさらないので、さっさと不戦敗してしまおうと思っていた。
あぁ、早く家に帰りたいなぁ。
そんなことを思っていたら、いよいよ王女が静寂を切り裂き空気がぴんと張り詰めた。
「それでは、これより王国の英雄として語り継がれる、勇者の選定を開始するわ!!」
王女の言葉に剣士たちが「オォー!!」と雄叫びを上げる。それに合わせて僕も「フォー」と大きな欠伸を一つする。でも欠伸が終わる前に雄叫びが終わってしまい、欠伸をしていたのがバレてしまう。なんだよ、もっと叫んでればよかったのに。
大きな欠伸は剣士にこそ見られなかったけど、こちら側を向いている王女にはバッチリ見られてしまった。だけどこれで不謹慎だと追い出されればそれはそれで好都合だ。とか考えていたら何やら王女の様子がおかしい。
「…………」
目をクリクリさせて、大きく開いた口を両手で塞いで、まるでこの世ならざるものを見たみたいな顔で硬直してしまっている。……ってあれ、王女、何かこっち見てない?
「…………」
「…………」
絶対こっち見てる、完全にこっち見てるよ。もしかして、欠伸の大きさに驚いたの? 僕いっつもあれくらいだよ? それとも王の前で欠伸をすることが頭にでもきたのかな、それでも結構、早く追い出してくれ。
「……ごほん」
あ、取り繕った。でも大きな欠伸に驚くなんてやっぱり王女様なんだな。浮世離れした感じが何とも貴族っぽいや。
「選定が終了した」
……え? あれ? なんか終わっちゃったよ。まだ雄叫びしかしてないよ。オォーっておっきな声で言えた人が優勝? だったらあの剣士らしからぬデブが一番大きかったと思う。あいつが勇者か、この王国も末かもしれないな。でもこれで早く帰れるぞ、あのデブには後でスライムのおしるこでもあげよう。
……何かチラチラ王女がこっち見てくるのが気になる。
あれ、おかしいな。なんか嫌な予感がするぞ。ヤバイヤバイ、平常心平常心。いや、逆にもうさっさと出て行ってしまうという手も――
「この王国の勇者はヴァン、あなたよ!!」
「…………」
っていう夢でしたー。
……え、ホント? あれ、何言ってるの王女?
「以上、解散」
「…………」
え?
いや、ちょ、え?