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4-そして淑女は要求した

「おうおう、なんじゃいワレは?大事な商売の邪魔すんじゃねぇぞゴルァ!」


威勢よくメンチを切った獣人はゴキリと首の骨を鳴らす。


口で勝てないなら実力行使に出るというボディーランゲージ。口先三寸だけで言いくるめられる雰囲気じゃない。こういうの苦手なんだがね。

――だがお生憎様。暴力なら今の私の方が上だ。拳で語り合いたいなら応じるまで。


「へぇ、商売?それって頭パッパラパーな可哀想な人達から金を巻き上げるハッシュド精神溢れるヤーさんの汚仕事かい?」


獣人と鼻先を付き当てるよう、踏み出しながら口を横に裂く。愛想を振りまくための微笑みじゃない、捕食者が浮かべる威嚇めいた嘲笑を。


あからさまな挑発にしかし、獣人のウォーリアは怒るどころか顔を青くさせた。


ふっ、どんなに廃人(がんば)ったとろこでプレイヤー(パンピー)のレベル上限は90。対して私は255。本来100人で倒すボスモンスターを一人で遊び倒す(、、、、)ために練り上げたアバターだ。パンピーじゃどうにもならんことを本能的に察して慄いたかね?賢い坊や(、、)じゃないか。


「あ、あんた……メンチ切ってこんな事聞くのもアレだけど、メンタル的に大丈夫か?顔色がビリジアングリーンだぞ……?」


はい?ビリジアングリーン?


「ゲームみたいな世界に閉じ込められて不安なのは分かるぜ?でもそんな生板の上で窒息死した魚のような目して思い詰めてもいいこと何もないって」


「元気出せや!ほら、この50ゴールドで装備整えてきな。そんな装備じゃ同レベルのモンスターも狩れねぇだろ?」


なんか本気で励まされた。手のひらにはズッシリと重たい、金貨50枚分詰まった革袋。


これはありがたく頂戴するとして、そも私は頭が不憫なプレイヤーからグルで金を巻き上げようとしたペドゲス野郎共にムカついて、我ながら馬鹿馬鹿しい真似に仲裁に入ったわけで、どうやったら逆に同情されるシチュエーションに発展できるんぞや?


「……あんたらそこの阿呆の子から金巻き上げてたじゃんか」


「……阿呆の子……」


背中からどんよりとした負のオーラが拡散する。強面にびびって嫌々差し出したんじゃなく、本気で信じてたんかい。ひょっとしたらこいつ天然記念物?


「募金だっつーの!なんか知らんがゲームで買ったギルドハウスは全部取り上げられちまってるし、大首長(のうきん)はアポがどうのこうので面会できないし、おまけにギルドハウスの値段が1万5千から5万に値上がりだぜ?」


「しかも大手ギルドに買い占められて残り少ねぇから、売り切れになる前に急いで募金しろってギルマスが号令かけたんだよ」


「ふっ、そういう事か。やはり私の選択に間違いはない」


申し訳なさそうにポリポリと獣耳をかく獣人共をドヤ顔で受け止めるダークエルフの男。


計画通り、なんて言い出しそうな雰囲気だがあんたは違う。あんただけは違う。あんた故に違う。

要するにグルでも芝居でもなんでもなく、ガチであの詐欺臭漂う勧誘に乗った頭が不憫な人第二号、本当にまるでダメなおっさんじゃんか。こいつらがマジモンのワルだったら身ぐるみ剥がされて路頭に迷ってるパターンだぞ。


「いや、勧誘した俺が言うのもアレだけど、あんたもっと人を疑った方がいいぞ、頭使ってるフリ(、、)する前に。なんか騙してるような気がして罪悪感に潰されそうだったぜ……」


と言いつつも貰った銭袋を返す素振りが全くないアサシン。罪悪感感じてるクセに。まぁ、まるでダメなおっさんの方も全く気にした様子はないし、リッチな御人なんでしょうよ。私がとやかく言うことじゃないね。





「にしても倉庫キャラでインした時に巻き込まれるなんて、運がねぇなあんたも。行くあてはあんのか?」


ああ、そういう事か。倉庫キャラなら無駄枠を抑えるためメインキャラのギルドには入れないだろうし、そのくせレアアイテムや素材アイテムそれに貿易用の金貨がぎっしり詰まってる。その上レベルも低い。まったくもって美味しい鴨だ。

さっきの50ゴールドは先行投資で、いい人と思わせたところでギルドに勧誘。やる事がえげつないねぇ。――まぁ、人情だの妥協だの、持った方が食い物にされるのだから仕方がない。こんな異常事態ならなおさらだ。


だが残念だったな腹黒くん。私には行くあてもあれば生きるための術も十二分にある。そもプレイヤーとつるむ気は微塵もない、夏蘭さんはこの世界の住民として生きていくのだ。


「ソウコキャラとやらが運となんの関係があるかは知らんが、私が浮浪者のように見えるか?」


「プレイヤーじゃ、ないんですか……?」


独り言のような小さな声がさらに小さく消え入っていく。後ろの少女が、後ずさりながら呟いた。


「でもNPCから絡んでくるなんておかしくねぇか?今まで会ってきた連中は全員ビビって避けてただろ?なぁ暗殺者の宿命」


暗殺者の宿命と呼ばれたのはフードを目深く被ったイタイファッションのアサシン。なんつー痛い名前。まだ中二病が抜けてないと見た。


「その呼び方やめろっつったよな?宿の店長は普通に世間話仕掛けてきてんだ、そう言うのはNPC次第だろ。ゲームだと思って甘く見てはいけないぜ、俺様竜騎士」


「よし、仕返しか殴るぞ」


燃えるような赤いモヒカンの三白眼獣人ウォーリアは俺様竜騎士、ねぇ。ネトゲーの名前じゃ呼びづらいし、俺騎士と暗殺命で略そう。


「暗殺者の宿命の言うことに一理はある。なぜならハルマゲドン・オンラインは仮想現実(バーチャルリアル)オンラインゲームではない、昨今深夜枠で人気を集めているテレビアニメのようにログアウト不可能のゲームの世界に閉じ込められたわけでもなかろう。この世界にいる住民は私たちと同じ生きた人間と思うべきだ」


「知ってるわそれぐらい!当たり前の事を論理的にセパレートしてドヤ顔で解説すんな、なんかムカつくから!」


「私は断じてドヤ顔など浮かべていない。それに当たり前の事だと言うのなら最初にゲーム脳で物事を測った貴様の行動は矛盾しているではないか。見苦しい言い訳はよすんだな」


「いや、二人共見苦しいから」


ぶっちゃふぇあんたら全員見苦しいがな。うまいことNPCだと思い込んでくれたから別にいいんだが。


でもおっさんの言うように、マヤの予言を過ぎたばかりの21世紀初頭に仮想現実(VRMMO)なんてSFじみた技術は存在しない。私一人だけなら不摂生な生活がたたってパソコンの前でぽっくり、で通るんだが、プレイヤー大量トリップとなると話が違ってくる。こいつらがトリップした時の情報も聞いてみた方がいいだろう。

それに最初私を倉庫キャラだと思いこんでカモろうとしたのだ、お礼として逆にカモってあげよう。


「さっきからよー知らん単語をちらほら聞くが、ギルドハウスを買おうとしていたようだし、あんたらよそ者かね?」


「へ?あ、ああ……俺たちは……その、南大陸のクロヴァッズヘイムから来たばかりなんだよ。ここに拠点を置こうと思ってな」


へぇ、クロヴァッズヘイム。別大陸の都市ならNPCの足じゃ着けんからボロもでないとタカをくくったな。


「奇遇だねぇ、私もそこから旅してきたんだ。ソウコキャラとかプレイヤーとか聞いたこともないがね。……で、本当はどこから来たんだい?」


「余計なことに首を突っ込まない方がいいぜ、嬢ちゃん。というかあんた強そうには見えないけど、本当に旅なんかしてんのか?」


「人を見かけで判断するのは頂けないね。こう見えても転送魔法について色々と研究する身の上でね、仕事柄色んなところを旅する必要があるのだよ」


転送魔法、というフレーズにその場全員の目が光る。


食いついたな。こういう時に備えて『放浪する世捨て人系大魔道士』のキャラを日頃から妄想している私だ、そうそうにボロはださんよ。


「と言っても普通の転送魔法と違って、転送魔法を応用した異界からの『招集術』でね。自分の足で旅しないといけないのだよ」


このゲームには二種類の召喚術が存在する。契約を結んだ生き物を転送魔法で呼び出す『招集術』と、精霊や神霊に媒介に魔力を付与した仮初の肉体を与える『降霊術』だ。


前者は主にシャーマンやプリーストが契約(せんのう)した動物や人間、騎乗用の馬を召喚するスキルで、後者は召喚特化のマジシャンの『使い魔』やドルイド、チューナーの『憑依』があてはまる。


「ほ、本当ですか!?」


異世界に飛ばされて、よほど心細かったんだろう、初めて大声を出した少女の声音は期待に満ちていた。


うん、大嘘だ。


「ここでは召喚しないがね。私が研究しているのは悪魔の招集。研究だけならともかく、街中でやっちゃったら重罪だ」


じゃあ証拠を見せろ、と言い掛けた俺騎士を遮って先に釘を刺しておく。


一応マジモンの悪魔を召喚するスキルは幾つか覚えているが、これは元々NPCが使うスキルで、召喚しても敵対状態にある。平和な街中でちょっとした大災害(やんちゃ)を起こしたい時に使う程度で、その度屍山血河を築くことになる。ハーメルゲイ同盟の首都『城塞都市ハーメリオン』でテロに使うならまだしも、これから暮らそうって街を壊滅させる気はない。


「おい、その悪魔の招集術とやらを詳しく。場合によっちゃ相談してぇことがある」


はい上手に釣れましたー。

大真面目な俺騎士の顔に思わずニヤケそうになるのを我慢して、平然を装いながら条件を提示。


「それが人に物を頼む態度かね?……まぁ、丁度長旅で疲れていたところだし、そこぞの親切な殿方に美味しい山菜料理を奢って貰えたら、気をよくして相談ぐらい乗ってあげちゃうかもな?」


「いや、お前50ゴールドもやったろ……?」


「善意の施しで、だろう?まさか裏で黒いこと企んでないよね?」


「……? ! んな事するわけねぇだろ!」


一瞬の間を置いた激しい怒り。図星をドンピシャ言い当てられたというより、思いもしなかった形で好意を裏切られたような、そんな感じ。

素なのか、これも演技か。


「ならいいだろう?ケツの穴小さい事ばっかしてると、女の子にモテないゾ?」


報酬前払いなんて持ち逃げされてなんぼ。

まぁ、素だと思って、可哀想な俺騎士に少しだけご褒美をくれてやろう。この私の妖艶な笑みをプレゼントだ。


(うわぁ、殴りてぇ……凄く殴りてぇけど殴っちまったら帰る手掛かりが一緒に吹っ飛んじまう。もうそういうNPCだからと諦めるけど、せめてドヤ顔はやめろ。今にも死にそうな虚ろな目でドヤられてもどうリアクションすればいいか本気で困る!)


渋々受け入れ、トボトボと歩く俺騎士を先頭に道なりに進んでいると、香ばしい匂いが漂ってきた。


「おーい、俺様竜騎士」


「あ゛ん!?」


「前言撤回、やっぱ海鮮料理が良い」


俺騎士の拳が、近くの壁にめり込んだ。


ぶっちゃげどーでもいい職業紹介。

同盟と連合で名前違うけどスキル名が違うだけで中身は同じ。

ウォーリア――戦士。戦死。壁役、壁殴り役、パーティーの捨て駒

アサシン――暗殺者。近接攻撃特化、紙装甲。ヒーラー達の頭痛の種

レンジャー――弓使い。弓を片手に縦横無尽。操作ミスで敵陣に突っ込むのは愛嬌

マジシャン――火氷雷風を操りし者。ダークサイドに落ちれば悪魔召喚や暗黒魔法も使えるよ

プリースト=シャーマン――ヒーラー。マジシャンよりSTRが高いのでポイント次第で壁殴り代行もできる

パラディン=ジェネラル――壁役。モンスター達の肉○器。『指令』スキルでパーティー全体をバフれる

チューナー=ドルイド――憑依○体で壁役、壁殴り代行、放火魔、治療役なんでもござれ

セイレーン=ワーロック――破壊工作のエキスパート。呪いでジワジワなぶり殺したい方向け


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