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3-そして淑女は介入した

オンラインゲーム、ハゲドンの舞台は人類と亜人が共存するありがちな異世界『ネイモレア』。


人間、ライトエルフ、有翼人から成り立つ『ハーメルゲイ同盟』と、獣人、ダークエルフ、フェアリーから成り立つ『カスマン連合』という二つの陣営に別れ、時には敵勢力の狩場を荒らしたり、時には敵の首都に潜入して銀行職員を暗殺したり、そして時には敵のスタート地点にギルド単位で居座り新参プレイヤーを虐め抜いたりするのを楽しむゲームなのである。


私のアバター、『カラン』の種族は始祖エルフ(エバーフォルク)。本来ならどちらの陣営にも属さないNPC種族で、ライトエルフとダークエルフの始祖であり、バグったような再生力が売りだ。


だが陣営がないという事はNPCは皆敵、クエストすら受けられない修羅の世界で生きることど同義。銀行や装備の修理は改造コードで商人機能を付加したあのペンギンで何とかなるが、ただでさえプレイヤーのないオフライン版でNPCとのコミュニケーションまで断ち切ってしまっては余りにもソロプレイすぎる。


そんなわけでゲームでは『深緑の幻影』というNPCスキルを使ってダークエルフに変身し、カスマン連合側についていた。


カスマン連合というのは人類の侵攻に対抗すべくサバンナで狩り暮らしをしていた獣人族と森でヒャッハーしていた首狩り族――もといダークエルフがフェアリーのとりなしで結成された勢力で、力が正義、強さが法なフリーダム極まりない連中である。


力があればなんでも正しい。とてもシンプルで素晴らしい法律だ。


もっともこれはアップデートパッチ3までの設定で、今は帰還した大首長、超獣人カッツ・トゥーバスの執政のもと、法治国家へと変わりつつあるらしい。


大首長の政策で文を尊び武を蔑ろにする風潮が連合全体に広まり、「鍬を持ったら負けだと思ってる」武人や、「暴力はいいぞ」を通す部族首長の反感を招く反面、商人貴族が勢力を伸ばし、ドロッドロの政治闘争と情け容赦ない異端審判で有名なハーメルゲイ同盟に負けないくらいに社会は複雑かつ暗黒化していく。嫌な時代になったものだ。


――更新が停止したオフライン版ではこの設定だが、最新バージョンではどうなっている事やら。攻略サイトを覗かなかったのは失敗だったね。




そんな実力至上主義、ワイルドニズムやカ○バリズム全開のカスマン連合の首都、フェアリーの聖地・世界樹アラシャト。

落雷により内側を焼かれた巨木の中に立体的な街が連なるパノラマは壮観で、オンラインゲーマー共は知らんが私はかなり気に入っている。


転送先に設定した人目につかない樹洞から一歩踏み出した私は、目の前に広がる景色に思わず呟いた。


「ふぁっく。」


悪夢のような風景がそこに広がっていた。


枝の間から差し込む朝日の光を浴び、これから一日の営みに取り掛からんとする善良なる人外住民たちを押しのけ、痛々しい魔法の光を放つキラキラ武器やセンスがぶっ飛んだ防具に身を包んだ、明らかに異様な集団が周りの迷惑も顧みず、我が物顔でたむろっていた。 


「クソっどうなってんだよ!俺はハゲドンにログインしたと思ったらゲームの世界にトリップしていた。最高だね!」


「デスゲームかも知れない所にいてたまるか、俺は現実(リアル)に帰るぞ!」


「99階を目指すぞ!同志よ出会え出会え!!」


どう見てもオンライン版のプレイヤー共ですコンチクショウ。


そも私はオフライン版でソロプレイしていた筈なのになんでこやつら共と同じ世界にトリップせにゃならんのぞや?というかもし私がプレイヤーで、しかもGM権限持ちなんてバレたらどうなるんだ?


ラノベにありがちな、悪徳ギルドに外堀を埋め尽くされ、ヤバさが激増した錬金ポーションで薬漬けにされて良いように使われる――否、こんな美人を見て獣どもが鎮まるはずがない、薬で精神を潰された挙句公衆の電波ではとても放送できないような事をされるに違いない。――なんて事にならなくても、プレイヤーの蛮行に原住民(NPC)が耐えられなくなったとき、仲間と思われて一緒に敵対されては私の異世界ライフがまるまるパーだ。


エロゲーは好きだがエロゲーにされるのは論外、プレイヤー共の存在を無かったことにして、原住民(NPC)の一員としてやり過ごすのが一番スマートなやり方だろう。

まぁ、元々そのつもりでどう見てもNPCにしか見えない格好をしてきたわけだが。


とはいえ、こうもプレイヤーに跋扈されては下手に動けない。ラノベ的には冒険者ギルドに直行するシチュエーションだが、同じ考えのプレイヤーが大量に押し寄せていることだろう。

今行ってもかえって怪しまれるだけ、ほとぼりが冷めるまで冒険稼業はさけたほうがいいな。


そうなると時間と潰さないといけないんだが、一人で街をぶらぶらするのはちょっとアレだし、かと言って原住民(NPC)に知り合いなんていないし、塔に戻ってもあのペンギンの顔した悪鬼がいまだランページしてるだろうし、今の世界がどんな情勢か知らんから旅に出るのも論外だし……情報……酒場で情報収集とかもファンタジーの定番か。





「――ああ、ギルドに入ってないフリーのプレイヤーが身を固める拠点を作ろうってこと。ゲーム時代のギルドハウスは全部空家になって、買い直そうにも5万に値上がりだからな」


「こんな状況だ。帰れるかどうかも怪しいんだぜ?宿暮らしなんかしたら金がいくらあっても足りねぇのよ。うちのギルドに入ればその心配もなくなるんだけどな」


プレイヤーが集中する貿易区画からなるべく離れ、居住区画に向かおうと境界にある吊り橋に差し掛かった時だった。


いかつい装備をしたガラの悪そうな獣人二人――装備からしてウォーリアとアサシンか――が、治癒職(ヒーラー)っぽい白のローブを着た小柄なフェアリーの少女と、甲冑の上からサーコートを着込んだラスボスみたいな顔したダークエルフの男性を取り囲んでいた。


お約束のギルド勧誘かー。

別にいいんだけど道端でやってくんないかな?ただでさえ狭い吊り橋の前を陣取るとか通行人の迷惑なんですけど。


「ほう……?」


ダークエルフの男が軽く唸ると、獣人の二人はあからさまに体をこわばらせた。


絵面だけを見れば小悪党(ヒャッハー)共が貴族に集ってるようにしか見えんが、元々長身なうえラスボス然とした男に二人は逆に気圧されていた。

その後ろから顔を覗かせている少女も加えると、幼女に手出ししようとしたロリコンコンビを通りすがりのロリコン伯爵が仲裁して、紳士的にタッチという、救いようのない図の出来上がりだ。

そこに少女の中の人が実は男――ネカマ――の可能性も玩味すると、さらに救いようがない。まぁ、仕草から見てその線は薄そうだが。


「い、今なら入会費たったの500ゴールドで好きな部屋を選べるぜ……!」


下手に出た獣人を一瞥し、男は顎に手を当て、ふむ、と唸る。


『たったの』と来たかー。

この世界(ゲーム)の金貨単位は金貨、銀貨、銅貨の三種類。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚だ。

ここに来る途中買い食いした焼き鳥っぽいのが一本15銅貨。ゲームでNPCがたまに売る、エンチャント効果付きの掘り出し物(レアアイテム)が平均5金貨。

言わずもがな、500金貨(ゴールド)なんてとんでもない大金だ。馬が2匹も買える。


数額もだが、入会費とか言っちゃってる時点で詐欺臭濃厚だ。こんなあからさまな釣りに引っかかる奴がいたらぜひ見てみたい。


「ふむ、私の考えが正しければ、入会する際に500金貨を支払えば新たに購入したギルドハウスの一室を自由に利用できる、と。そう言いたいのだな?」


「お、おう。そうだぜ。困った時はお互い様だろ?みんな住むとこに困ってるようだから、何とかしようってうちのギルマスがな。でもウチらもそんなにリッチじゃないし……1000ゴールドあればもっと助かるけどな……」


へぇ、敢えてすぐに蹴らず、話に乗ってボロを出させる気かー。まぁ、相手は二人だし、下手に断って暴れられるより自分から墓穴掘って諦めさせる方が断然いいわな。

万が一死んだらどうなるか分からんわけだし、安全第一だ。


「なるほど、そういう事か。活動資金の枯渇は確かに一大事だ」


「もう2000ゴールドあればもっと助かるんだよなぁ……」


「確かに、貴様の言うことに一理はある」


はい?一理ところかピーナッツもないでしょーが。調子に乗ってどんどん値上げされてるけど、ちゃんと断る気あんの?

あんたがインテリぶって肯定するから少女の方も渋々納得しかけてるぞ。


「ご、ごめんなさい……!でも私、43金貨しか持ってないんです……」


「巻き上げた財産はギルドが一括管理している。後で平等に分けるから心配いらねぇよ」


「すばらしい、実に合理的な判断だ」


そう言って男は懐から銭袋を取り出し、獣人のウォーリアに手渡す。


「へへっ、毎度あり!」


……なにが合理的な判断(、、、、、、)だ、巻き上げた(、、、、、)と素でボロが出てたぞ。まるでダメだこのおっさん、なまじ見てくれがインテリっぽいから妙に説得力あるけど中身はただの阿呆だ。


「へヴァイストスさんがそう言うなら……、あ、あの……私もギルドに入れてください……っ!」


もしかしてあの三人はグルで、少女から金を巻き上げるために一芝居打ってるとか?


「うーん、43ゴールドはいくらなんでもなぁ……とりあえず武器やポーション、あとあるなら素材アイテムも一緒に渡せや」


おーいー、口調がストレートになってますぜー。

流石にこれで気づくだろうが、三人がグルなら問題にならない。いざとなれば力づくで奪えばいいし。――となるとそもなんでこんな面倒くさい芝居をする必要がある?最初から実力行使に出ればいいんじゃ?


まぁ、少女にはお気の毒だが、社会勉強の足しにして貰うしかないな。誰もが通る道だし。


「……分かりました、どうぞ……」


躊躇いながらも杖を差し出す少女。思い入れのある装備なのか、激しい葛藤が見て取れる。うんうん、初々しいねぇ。

――って、差し出すんかい!


「待て待て待て!あんたハメられてるって!」


気づいた時には、勝手に体が動いていた。獣人と少女の間に割り込むように、伸ばされた手から少女を守るように。


「おうおう、なんじゃいワレは?大事な商売を邪魔すんじゃねぇぞゴルァ!」


ゴキリ、ごっついプレートアーマーを着込んだ獣人の男は首の骨を鳴らした。


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