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ご感想、ありがとうございます。嬉しくて、読みながら にまにましてます。

これは一体、何の拷問なのだろう。


黒い何かに食われたリルは、逃げ出そうと必死で抵抗した。しかし殴っても蹴っても ぐにょんぐにょん、とまるで手応えがなく、少しもダメージを与えられていない。しかも、暴れたせいでリルの方が体力が消耗している。





「オルグラント様は、私をどうするつもりなの…」


急いで城に来たのに、閉め出されて。やっと門扉を開いてくれたと思ったら、ケインの使い魔に食われて、どこかに運ばれて。


扱いが酷すぎる。こんな風にされたのは初めてだった。これではもう、ケインにとって リルは全く不要な他人だと言われた様な気がした。


「心が折れそう…」


飲み込まれてから、視界はゼロ。黒い使い魔は、その腹の中も真っ暗で。リルは周囲の音は聞こるが、規則正しく響いてくる振動から、使い魔がどこかにむかって歩いているのはわかった。


でも、どこへ?まさか、本当にケインの元へ一直線に向かっているのだろうか…


リルは、ケインの顔を思い浮かべ、ドキドキと胸が騒ぎ出すのを感じた。あれだけ、リルは自分の気持ちをぶつけて、侍女を辞めさせようとしている事を後悔させてやる!と息巻いていたのに、いざケインに会うと思うと、何を言えば良いのかわからない。





どうしよう、と 悶々と考えていると、急に体が傾いて、外に投げ出された。



「えっ?ちょっ…?!」



ばっしゃああーんっ!


床に叩き付けられる!と伸ばした手は、温かな湯に触れて。やっとクリアになった視界一杯に広がったお湯に、リルは勢いよくダイブした。



盛大な水飛沫が上がって、リルは溺れる?!とパニックになりかけたが、体制を立て直して顔を湯から出してみれば、余裕で底に足が着いた。



自身を取り巻く状況に着いていけず、茫然と湯の中で立ち尽くすリルに、タイルの床に ずらりと並んだ侍女たちが、


「「いらっしゃあーい♪」」


と、満面の笑みで手をワキワキさせながら待っていたのだった。




それから、訳もわからず手招きされるまま湯から上がったリルは、待ち構えていた侍女たちに濡れた服を追い剥ぎの様に剥ぎ取られて裸にむしられて、身体中至るところをまんべんなく磨きあげられた。


風の魔法で水分を吹き飛ばし、いい香りの香油で頭から爪先までお手入れされる頃には、リルは疲労困憊で浴室脇にあるトリートメント専用?の部屋のベッドに臥せて、されるがままだった。


この侍女たち、ただ者ではなかった。悲鳴を上げて逃げ惑うリルをまるで暗殺者の様に素早く捕獲して押さえつけ、暴れるリルの拳やかかとをヒラリとかわしながらリルの服をひっぺがし、無駄のない動きでリルを拘束しながら、身体中を洗いまくったのだ。




それなのに、くたびれているのはリルだけ。侍女たちは汗一つかいていない涼しい顔で、リルに香油を塗り込みながらマッサージを施していく。



リルは、忙しなく動く彼女たちを眺めながら、


(この人たち、どこかで見たことあるなって思ったら、オルグラント様の執務室に押し掛けてきた人たちだ)


ケインが自宅に籠っていた時に、リルにケインは どんな甘い言葉を言うのか、と きゃあきゃあ言っていた侍女たちだった。よもや、そんな彼女たちが こんなに凄いスキルを持った人たちだったとは…人は見た目じゃないな、と肝に銘じたリルだった。




侍女のマッサージを受けながら、何だかんだ言って、リルは何とも言えない満足感を味わっていた。広いお風呂は開放感があって素敵だったし、石鹸も香しい花の香りがすごく好きだった。きめ細かい泡が肌に優しく馴染んで気持ち良かったし、髪も肌も喜んでいるのがわかる。








「すごく、幸せー…」


微笑みながら うとうとするリルに、マッサージをしていた侍女が、


「何を言うんですか。幸せなのは、これからじゃないですか」


と微笑みかけたが、心地好く微睡むリルには、聞こえていなかった。



















「…………はっ!」


夢の中から覚醒したリルは、カッ、と目を見開いた。


目を開けた先には、リルと同じく目を見開く、赤い髪に薄紅色の瞳で華やかな白いドレスを着た、気の強そうな、けれど花のように美しい令嬢が驚いた表情で立っていた。


「あ、ご、ごめんなさい。驚かせてしまったみたいで…」


ぺこり、と頭を下げて。


リルは、自分の目を疑った。私、立ってる?まさか、立ったまま寝てたのだろうか?そんな特技を身につけた覚えがなかったリルは、混乱して二、三歩よろける。そして、またもや自分の目を疑った。





(あれ?これ、すごく大きな鏡じゃない?さっきの人も まだ驚いた顔してこっち見てるし…ううん、鏡ってことは、あれは私なのよね?私、寝ている間に 随分化けたのね…やはり、あの侍女たち、ただ者じゃないわ…




って、ん?私、白尽くめ――――?!


これは何?白装束着てるってことは、私は殺されるの?白装束っていえば、死んでお棺に入る時に着る服じゃない?


こんな綺麗な服着て死ぬなんて、なんと勿体ない!!


この生地、テカテカしてすっごく綺麗だし、ここのレースなんて すごく繊細で女性らしくて素敵だし、よく見たら私靴も白くて可愛いの履いてるし!腰なんか、どこにお肉をしまってくれたの?ってくらいに細く見える!






「こんな素晴らしいドレスを血で染めるなんて…」



女性として最高の仕上がりにして天国を見せてから、地獄に叩き落とすとは。なんて酷い仕打ち。



と、鏡に両手をついて うなだれていると。




「まあまあ、お気づきになったんですか?」


と、風呂でリルを ひんむいた侍女たちが次々に部屋に入ってきた。


「気分はいかがですか?風の魔法でアーキーさんの身体を立たせて支えながら、お支度をしました」


いい仕事をした、と言う顔で満足気に笑う侍女。なるほど。だから自分は立ったまま寝ていたのか、と納得したリルだった。いつの間にか、夢遊病に なっていたのかと心配性していたリルは、ほう…と こっそり息を吐いた。

いや、でもまだ安心は 出来ない。何故じぶんはこんな格好をしているのだろうか。そして、本当に殺されるのか…?


「あの、私まだ死にたくないんですが…」


力のない声で侍女に 懇願すると。


「えっ?死に…?ああ!幸せ過ぎて死んでしまいそう、という意味ですか?もう、お熱いですねえ。羨ましい限りですわ!」


リルの言葉を超解釈して笑い飛ばす侍女たち。リルは、訳がわからなかった。


あれ?死に装束じゃないの?じゃあ何これ?と 首を傾げるリル。


そんなリルを生暖かい目で見ていた侍女たちだったが、あら。と思い出した様にリルを上から下まで眺めて、不調はないと確認した侍女は、



「それでは、参りましょうか」


ウキウキした声で言うと、リルの手を取った。


「え?どこに?」


リルの疑問に答える者はなく、侍女たちは にっこりと微笑んで、リルの周りを囲んだ。







リルは瞬時に悟った。もう逃げられないのだと。








侍女たちに手を取られ、腰をぐいぐい押されて、リルは城の中を急かされながら歩いた。いつもは使用人や官吏が忙しなく往き来しているのに、今日は 人影が全くなく、物音も聞こえない。




「あの、今日は どうして誰もいないの…?」


がらんとした城内が不気味で、恐る恐る尋ねてみると、


「それは、皆 今日の この日を楽しみにしていたからですわ。待ちきれなくて、もう会場につめているんですの」


返ってきた答えに、リルは益々頭を悩ませた。


今日は、そこまで国民皆が楽しみに するようなイベントが何か あっただろうか?


何も思いつかなくて、リルは またもや首を傾げた。



「このままでは、間に合いませんわ!」


リルの腰を後ろから一際力強く押していた侍女が、焦った様に叫んだ。


「少し、お支度に時間を掛けすぎましたね」

「だって、すごく いじり甲斐があったんだもの、仕方ないわ」

「でも、どうします?間に合わなかったでは済まないわ」

「けれど、あと10分は歩かなくちゃいけないのよ?」

「ああもう、お城が広すぎるんですよ!」

「どうします?急がなければ…」

「…ここは、あれでいきましょう」

「貴女…でも、あれは禁止されたのでは?」

「背に腹はかえられませんわ、やりましょう」

「そうですわね」

「やりましょう」

「やりましょう」



円陣を組んで、突然始まった侍女たちのガールズマシンガントークに着いていけず、リルは大人しく成り行きを見守っていた。


すると、ヨッシャア!と嘘みたいに力強い気合いを入れて、一人の侍女か輪から出てきた。


「私、風の魔法が得意なんです」


緑の髪をなびかせて、ショートカットの侍女がリルの手を取った。


「これから、貴女を抱えて翔びます」


「………はい?」


そう力強く宣言して、緑の髪の侍女はリルに抱き着き、背中に手を回した。


その瞬間、リルは身体がふわりと浮き上がり、足が宙に浮いた。



「え?私、浮いて――――」












初めての体験に感動して、凄い、と目を見開いた瞬間。





リルと侍女は ロケットのように爆発的に加速して、城の窓ガラスを ぶち破り、城外に飛び出した。



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