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「たのもー!」


「アーキーさん、それちょっと違うと思いますよう…」


城の入口、どっしりと構えた門に向かって、リルは叫んだ。いつもなら開いているはずの門の扉が、今日に限って何故か固く閉じられていたからだ。


「おかしいですね、さっき私が通った時は開いてたのに…」


不思議そうに門を眺めるエミリ。その言葉に噴火しそうなほどに怒ったのは、リルだった。


「てことは、私が来たから閉めたとでも?…あからさますぎるよね、どれだけ人をバカにしてるの?」


「ひえっ、ごめんなさいっ…」


ビクッ、と身体を震わせるエミリに、リルは慌てて手を振って否定する。


「違う違う。エミリに怒ってる訳じゃないの…何だか、君は今さら何をしに来たんだ?って言われた気がして、頭にきただけだから」


リルがケインの口調を真似て言うと、エミリはクスリと笑った。それにつられて、リルも笑う。ピリピリした空気が和らいで、リルの興奮気味だった気持ちが少し落ち着いた。









「…でも、どうしよう。城に入れても もらえないんじゃあ、何にも出来ないし…」


途方にくれていたリルを しゅんぼりとしながら見ていたエミリだったが、ハッ、と何かを思い出した様で ガサガサ、とポケットを探り始めた。


「…どうしたの?」


突然のエミリの行動に驚きながらも、リルはエミリに尋ねてみる。


「あ、アーキーさん!私、迷子笛持ってます!」


「迷子笛?」


何でそんなもの…?と首を傾げるリル。エミリは、なかなか見つからない笛を探しながら、


「侍女長が昨日、持たせてくれたんです!合図に使いなさいって」


と、得意げに言った。


「合図?合図って…何の?」


「それがですね、侍女長ったら教えてくれないんですよ。他の人に聞いてみても、何にも教えてくれないですし。…それに、お城の人たちが皆、昨日から忙しそうに駆けずり回ってて、ろくにお話も出来ないんですよ。近いうちに、大きい何かがあるみたいなんですけど…」


まだ笛が見つからないエミリは、服に付いている全てのポケットを確かめている。それでも見つからないのか、今度はポケットを裏返し始めた。


「エミリ、もしかして笛って、首に下げてるやつじゃない?」


このままだと、いつ笛が出てくるのかわからない、と不安になったリルは、エミリの首にかけていたヒモを指差した。お仕着せに隠れているから、何がヒモに通してあるのか分からないが、それが笛だったらいいな。とリルは思った。




「あっ、これでした。ジャックに、私は すぐになくすからってヒモをもらったんです。リルさん、大当たりですよー!」


嬉しそうに笛を取り出して微笑むエミリを見ながら、リルはジャックの苦労を思い、少し可哀想に思ってしまったのだった。




「じゃあアーキーさん、吹きますよ!多分、今が合図の時なんです!吹くべき時なんです!じゃあ いつ吹くのか?今で」

「はいはい、わかったから頑張って早く吹いちゃおうか」


「はあーい」


妙にワクワクしているエミリを急かして、リルは そっと、身構えた。何だか、嫌な予感がするのだ。でも、吹かない訳にはいかない。それはわかっているのだけれど、何故だかソワソワして落ち着かない。


「じゃあ、吹きますよー!」


エミリは何故か手を上げて宣誓すると、思いっきり空気を吸い込んで、笛を吹いた。




ぴゅるぴゅりりー!!





かん高い変な音が響いた。すると、先程まで頑として開かなかった門が、動いた。




「やったー!やったよエミリ!よしっ、早いとこ乗り込みましょう!」


何事もなく開いた門に、リルは嫌な予感が杞憂に終わったのだ と安心して、上機嫌でエミリの手を取り門を潜り抜けた。


「ぴゃるぴぴぃー♪」


笛が気に入ったらしいエミリも、笛を離さないまま、微笑みながらリルに続く。



このまま、ケインの元まで一直線に行こう。とリルが決意を固めた時。城から、黒い何かが猛スピードで二人を目掛けて駆けてくる。




「ひえっ?!」


「ぴゅりー?」


二人同時に悲鳴を上げた。…エミリのは悲鳴だったのかわからないが。




あの黒い物体は…!


リルは激しくデジャブを感じていた。そして、リルの第六感が こう告げている。




あれに捕まったら、なんかヤバくない?



と。







「に、逃げようエミリっ…あれ絶対に良くないモノだよ!なんか禍々しいオーラがぷんぷんとしてるし!」


真っ青に なってきびすを返すリルの腕を、エミリがすかさず捕まえる。


「何言ってるんですか。あれ、オルグラント様の遣いですよー。ちょうど良かったじゃないですか。本人のところまで連れていってもらいましょうよ!」


「あのさ、ちょっと空気読もうよ?!今こそエミリが泣きながら怖いです~逃げましょ~って言うシーンでしょ?!」


「ぇえ?私そんなキャラじゃないですよー?」


「今だけ そうでもいいのよ?そうなってくれたら凄く嬉しいから!」




もはや城を背にして、エミリを引きずりながら逃げるリル。負けじと両足を突っ張って踏ん張るエミリを振りほどこうと、必死にばたつかせる腕を、何かがパクリとくわえた。


瞬間、どっ と冷や汗が滴る。




一瞬 リルの動きが止まったのを見計らって、腕をくわえた何かがリルから口を離し、今度は頭から大口を開けて、リルの身体を丸ごと くわえこんだ。



「きゃあぁああぁあー?!」




悲鳴をあげるリルの耳に、ぴゅりりー♪と軽やかな笛の音が聞こえた。場にそぐわない笛の音が、とんでもなく腹が立つ。


無事に帰れたら、絶対にその笛ゴミ箱にダンクしてやる。


リルは そう誓いながら、黒い何かに運ばれて行ったのだった。


















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