直感探偵・裏
「直感探偵」を読んでからのほうが分かりやすいかと思います。
なお、途中、些細な下品な言葉が出てくるかと思います。……私は、その、些細だと思います。
敏感な方はお気を付けてください。それについての苦情は受け付けません。
以上、ご理解いただけましたらお進みください。
「それにしても、今日も危なかったわ……」
というか、あと少しで保護者と一緒に来たとかいう嘘ばれそうだったし。
頭を掻きながら、政彦は部屋へと帰っていた。
今日も今日とて見事に事件に遭遇した。こういう悪運を引き当てるのは、決まって後輩がいる時だ。あのトラブルメーカーめ。苦笑しながら廊下を歩いていれば、土産物を売っている店を再び発見した。
ああ、ここには何かある。
慣れた感覚が政彦を襲う。こういうときは必ず手がかりがあるものだ。政彦は迷うことなく店の中へとはいっていった。
なるほど、どうやらここは食べ物を売っているらしい。
店内をぐるりと回って、ふと目についた商品を手に取る。どうやら饅頭の中にトマトが入っているらしい。うわ珍しい。
しばらく考え込んで、政彦はにやりと笑った。
「すんませーん、これって中身どうなってるんですか?」
「あら、おまんじゅうの皮の中に、餡子に包まったトマトが入っているのよ。初めて見る?」
「はい。旨そうですね! 俺トマト好きなんですよ」
「あら、そうなの。ふふ、うちに置いてあるものは全部美味しいわよ!」
「おっまじですか。俺食いもんには目が無いんですよねえ、見たとおり」
けらけら笑って店員と話している政彦は、ふと首をかしげた。もちろん、意識的にである。こういう自然な態度は、人の警戒心を薄めやすいものだ。
「そうだ、ちょっと聞きたいことがあったんだった。良いっすか?」
「歳は教えてあげないわよ」
「えー残念! 綺麗で若そうなのにいろいろ知ってるし、結構気になってたんですけど……。ってそうでなく」
「あらっ、上手いわねえ!」
きゃいきゃいと笑う店員の顔を覗き込んで、ニカリと爽やかな笑みを浮かべた。ふはは、俺はこの角度が一番かっこよく見えるんだよ! 学校じゃモテモテなんだかんな。付き合っても長く続かないけど。ほら、どうですお姉さん。
ぱっと頬が赤くなったのを見て内心あくどく笑いながら、政彦はつづけた。
「俺、幼馴染探してるんですよ。肩までの黒髪で、赤いピンつけてて、背は高めだけどめちゃくちゃ可愛いんですけど……。知りませんか?」
「え? あ……ああ、そうね、そう言えば、少し前にそんな子がいたわ」
ぼんやりとした店員に、かかった! と政彦は小さくガッツポーズをした。
やはり、自分の勘は素晴らしい。刑事さんに不憫な子アピールはしたが、実際は自分の勘を苦に思ったことはない。何故ならば、この勘が幾度となく自分命を救い、噂の幼馴染をさがすのにとても役に立っているからだった。
昔からだが、あの放浪癖は本当に恐ろしいのだ。
国内ならば良い。流石に沖縄に行くのは少し考えはしたものの、一応はいけるからだ。
しかし、国外となると流石につらい。ウルグアイから帰って来た時は首に縄でもつけて家に繋いでおいてやろうかと思ったくらいだ。おま、ウルグアイですか。しかもなんでお土産が木彫りの熊だし。
本当にあいつもう人を馬鹿にしてるとしか思えない。
まあ、話はそれたが……だからこそ、遠くに行く前に国内で捕まえて連れて帰らなければいけないのだ。
「まじっすか! いつ頃? 次は何処に行くとか言ってませんでした?」
「ほんの一週間くらい前だったと思うわ。とてもかわいい子で、人懐こい子だったわねぇ。そうね、ええと……何だったかしら。えっと、ああ。そうね、福島ではおまんじゅうをてんぷらにして食べるという話をしたのよ。そしたら美味しそうですねってすごく可愛く笑ってね、天使みたいだったわ」
「てっ、天使ィイ?」
「……貴方、ずっと一緒にいるんでしょう? そう思わないの」
じろりとすこし不快気に見られて、政彦はぶんぶんと頭を振った。そうですね、まあそこらのアイドルよかよっぽど可愛いとは思いますよ! なんて、とってつけたように叫んだ。
ああくそ、あの野郎……。にこにこと笑う腹の中では、幼馴染への不満は尽きず流れ出てくる。
ホントに人に好かれやすい奴だ。まあそれはもう痛い位わかってるけど。
大体あいつの信者は気持ち悪い奴が多いんだよ。いや見た目でなく中身がな。この間だってストーカーからの手紙が俺のとこに来やがった。何かと思えば、同居してる云々の恨み辛みがぐだぐだぐだぐだ。同居してんのは俺だけじゃねえからな。大体あんな奴と甘酸っぱいラブ☆トラブル(笑)が起こるとが夢見てる奴はやめた方が良い。ほんともう、やめた方が良い。人間やめたほうがいい。大切だから三回言った。
起きるわけないから。起きても気持ち悪いだけだから。むしろ俺が死んじゃうから。もう、ほんと。ていうかアイツ、野郎だから。男ですからね。いや、例え女だとしてもどうこうする気は起きないだろうけど。俺が好きなのは爆乳な妖艶美女だし! いいかーお前らよく聞けよ。女はやっぱし胸だ胸。チェスト! おっぱい! やっほう! いいぜぇ、柔らかいのは……最高だよな。いやこれ言ったらリッカにぶん殴られるけど。あいつ胸ちっさ……あ、やべ今悪寒が。
「ちょっと、聞いてるの?」
「もちろんですとも。いやあ、あいつ本当に昔っから顔は可愛いんですよね」
「……顔は?」
「いいえ顔も、ですとも」
信者ってこういうことろが怖いんだよな……。
「あんなにかわいい子は初めて見たわ。ねえ、あの子のこともっと教えてくれない?」
ああほら、これぜってぇしばらく部屋に戻れねえよ。
てかこの店、営業時間長すぎだ!
**
「ただいま……」
「おかえりなさぁい」
部屋に帰れば、見事に数時間が経っていた。先に温泉入ってて良かった。せっけんの香りのする爽やか少年(大柄)がウリなので。
さてはて、あの馬鹿は一体どこにいるのかな。
純和風な部屋を見渡して、そこで横になって譜面を睨んでいる後輩を見つけ政彦は蹴りを入れた。
「いって! 何するんですか!」
「誰の所為でこんな遅くまで捕まってたと思ってんだ」
「えっ俺の所為ですか?」
譜面だけは死守したらしい。こいつの音楽に対する愛は異常だ。いや、そこが良いところでもあるんだけどさぁ。
もぞもぞと億劫そうに体を起こした後輩が正座する。政彦はその場に胡坐をかいて、ため息をついた。芋虫みたいとは流石に言わなかった。
「っつうかな、お前ほんと、それどうにかしてくんない……」
「どれですか?」
しらじらしい! しかし、本当にわからないらしい。無自覚かこのバカ。
殴りそうになった手を必死に抑えて、政彦は笑った。
「お前のそのトラブル引き寄せる体質だよ。毎回毎回どっか行くたび事件引き寄せやがって。しかも大体殺人事件ですけど。なんなのお前……そのくせ、ほら……頭悪いじゃん……?」
「余計なお世話だよ!! 先輩だってそうじゃないですか! なんだその本気で憐れむような顔」
「お前よりは良いよ……あっごめんな……?」
「おい! ……おい!!」
「コラッ、こんな夜中に騒いだら駄目だろ。興奮するんじゃないの、しーっ」
「……っ」
わなわなと震える後輩を見て、政彦は頷いた。よし、ちょっとすっきりした。からかい甲斐がある奴は楽しいよな。ユイがちょっかい出すのもわかるわ。
本題はここからだ。
「アイツの居場所、わかったぞ」
「えっ本当ですか? 福島とか?」
ぱっと顔を上げた後輩の目は輝いている。いやあ馬鹿でかわいい奴だ。こう、ちょっとひねくれててやさぐれてるところがこいつの可愛いところなんだよな。
……いや、まて。今こいつなんて言った?
「……おい」
「ひっ……いたァ!?」
目の前の頭を引っ掴んで覗きこむ。アングル? しらねーよ、今それどころじゃねーよ。
「お前……今なんつった?」
「今!? 今……俺なんて言いました!?」
「それを聞いてんだよドアホ。……福島? お前、福島って……何でそう思うんだオイ」
「えっ……」
痛みに耐えながら、必死に目をそらされる。いやその、えっと、なんて曖昧な言葉ばかりが返され、政彦は笑った。
コイツ、知ってやがったのか。
「琥珀くん?」
「はいっすいません! こないだ部長からメール来て、福島と言ったら? って言われたので!」
「ほう……何で言わなかった。ん? ここに来る意味無かったんじゃねえの?」
「いえっおかげで作曲がはかどりました。い、いたぁああああいっ!」
「よしよしコハ。良い子だなァ……」
「痛い痛い痛いですって……!!」
ぐりぐり頭を撫でまわしてやろう。鳥の巣にしてやろう。
お前、あの刑事にあう必要なかったじゃん。あいつ、絶対署に帰ったら俺のこと調べるぞ。お前と違って俺はいろいろ複雑な事情があるんだよ。大体お前、何のために俺がこうして事件解決手伝ってると思ってんの。犯人くらい分かるが、そんなの口に出さなきゃいいだけだ。俺自身が事件にかかわってるわけじゃないからな。お前、そのトラブルメーカーな体質で自分にも被害引き寄せるんだろ。だからお前のところに行く前に俺がちゃっちゃと片づけてやってんだぞ、オイ。大体お前……頭は悪い上に体術どころか体力が無いって……絶対殺される。殺されるだろボケ!
……なんて、言えるはずもなく。
「次は福島か……」
取り敢えず、あのバカを捕まえよう。……また事件に巻き込まれる前に!!