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初めては幼なじみⅡ  作者: 亜果利
5/12

子供じゃない


教室へと帰り際、当然のようにわたしの隣に来た稲本が

「真菜、あれやれよ。チアリーディング部」

稲本がこっちを向いて冷やかすように言う。


「あんたのヨダレ見てたら一瞬でイヤになった」


「ってことは、心、動かされてたんだ」


「やってみたいと思ったけど、あんな風に男子に見られるのイヤだし」


「あのさ、見られないより、見られる方がいいだろ? 真菜って案外、子供だよな」


そう言った稲本を立ち止まって睨み付け


「なによ! その自分が大人みたいな言い方。ちょっと、彼女がいるからって、上から目線ヤメテよね。わたしみたいに、見られてイヤな女の子もいっぱい、いるんだから」


そう言い捨てて、前方でごったがえする何人もの生徒たちを擦り抜け、足早に歩きだした。


体育館の出入り口で、素早く中履きシューズに履き替え、少しひんやりする体育館の外玄関へと飛び出した。


「ちょっ……待てよ」


後方から稲本の声が聞こえたが、無視して渡り廊下を小走りで走って、自分の教室に向かった。


稲本から言われた言葉を思い出した。


『子供だよな』


周りからすれば、どうでもいいような言葉だった。


でも、わたしには、一番のコンプレックスな言葉だった。


わたしは、つい最近まで、生理がなかった。


早い子なら、小学五年生から初潮をむかえる子もいたのに、わたしは、高校受験を終えるまで、それがなかったのだ。


中学入学の直前で、事故で大好きだった父親を失い、ショックが大きい過ぎたせいか、それが一番の原因だと医者に言われていた。


精神的な理由。


前から身体は小さいほうだったけど、周りの生徒たちが、グングン背が伸びていたにも関わらず、わたしは中学三年間のうちは、ほんの少し身長が伸びただけだった。


『子供だよな』


身体は子供でも、出来るだけ大人びた行動をとるように、いつも心がけていた。


身体は小さくても、しっかり者だと言われるようにと。


子供の自分を隠したくて、ガチガチのよろいを着てずっと、今まで学校生活を送って来た。


生理が始まった今でも、その思いは抜けきれず、稲本のその言葉に過剰かじょうに反応してしまった。


ハァハァハァ


息が上がる。


猛スピードで走って来たせいか、教室にはまだ、誰も帰って来ていなかった。


窓際の一番前にある自分の席に座った。


そのまま首だけをひねって、ボンヤリと中庭を見ていた。


この学校の校舎は、中庭をグルリと囲むコの字型になっていて、少し、席をずらせば、さっき見えていた薄緑色の桜の木が見えた。


しっかりしないと……


子供だと言われて、こんなに怒りだすようじゃあ、ダメだ。


わたしは、もう、子供なんかじゃない。


もう……大人になったんだ。


中学入学当時は、自分と同じ背の高さだった稲本。


二年くらいまでは、ほとんど同じくらいで、親近感があった。


少し、人より反応や行動が鈍く、それでいて素直な稲本は、わたしにとって、好都合な友達の一人だった。


よくこれで、剣道ができるなと思うほど、他の男子生徒より大人しい子だった。


そんな稲本が、自分の姉の友達に告白されたと言ってきた。


『稲本の癖に生意気』


そう思ったが、イヤじゃなきゃ付き合ってみたらと背中を押して上げた。


それが、中三の始め頃だった。


その彼女と付き合い始めた稲本は、一年の間にグングン背が伸び、同じくらいだったわたしの身長を大きく追い越していった。


そんな稲本が……


大人の男性へと成長して行く稲本が羨ましかった。


それに比べて、いつまでたっても子供の身体のわたし。


さっき見た稲本の広い背中を思い出した。


『子供だよな』


そう言った低い声を思い出した。


わたしは……もう大人なんだ。





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