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初めては幼なじみⅡ  作者: 亜果利
4/12

稲本に注目



隣の稲本は相変わらず同じ拍子で、わたしの肩の上で舟をこいでいる状態。


クラブ紹介もソロソロ終盤に差し掛かった。


舞台脇から、ゾロゾロと剣道着を着た先輩たちが七人ほど駆け足で出て来て、そして、横一列にならんだ。


誰もが手に竹刀を持っている。会場に向かって一礼した後、素振りでもするように七人全員構えに入った。


竹刀を振ると同時に


キャプテンらしき人が、竹刀を振ると同時に


「イヤアアアアアアアア!!稲本!起きろ!」


「イヤアアアアアアアア!!」


気合いの入った大声が会場内に響き渡った。


「ハッハイ!」


名前を呼ばれた稲本が、まるで冷や水でもかけられたように驚いて目を覚まし、慌ててうわずった声で返事をした。


一度身体をのけ反らせ、後に倒れそうになった体制を直ぐに整え、急いでその場に立ち上がり舞台上の先輩たちに礼をする。


半分寝ぼけた状態の稲本は、自分の現状をまだちゃんと把握していないようだったが、直角に折れ曲がった姿勢で何度も頭を下げ、舞台上の先輩たちにお辞儀をした。


稲本の突拍子もない行動は、会場内を多いに沸かせた。


「イヤアアアアアア!」


「イヤアアアアアア!」


「イヤアアアアアア!」


掛け声と共に何度も素振りをする先輩たちは、なんのアピールもせず、ただ、素振りだけを繰り返した。


全員姿勢がよく、素振りも力強い。


体格だって、稲本より一回りも大きな先輩たちばかりで、近寄ると風が吹いてきそうだった。


先ほどまで続いた華やかなユニホームたちとは違い、クラッシックと言うか、かなり地味である。


それがまた、新鮮と言えば新鮮で、稲本の名前を叫んだキャプテンらしき人はかなりのイケメンだった。


女子たちのヒソヒソ話が聞こえてくる。


稲本は、ようやく今、自分が置かれている立場に気付いたようで、そのまま座ることも出来ず、含み笑いを浮かべた先輩たちの素振りをボンヤリ見ていた。


体育館内、生徒全員が座るなか、ポツリと電柱のように立つ稲本。


どの場所からも注目を浴びることができる。


会場内の笑いは止まらない。


会場脇にいる教師たちさえ笑い出す始末で、稲本に「座れ」の一言もかけてやってくれない。


寝ていた稲本が悪いのだけど、会場内の六割ほどは寝ていたんだから、名指しされたのは悲運としか言いようがない。


三十回ほどの素振りを終え、キャプテンらしき人が竹刀を、舞台下で立ちつくす稲本に向けて

「稲本、面白かったから許してやる」

そう、捨てゼリフを吐いて、舞台脇に消えて行った。


会場内にもう一度、笑い声が響いて、そこでやっと稲本は座ることを許された。


両手で顔を覆いながらその場に座った稲本の顔を横目で見る。


顔が赤く染まり、本当に恥ずかしそうに見えた。


「良かったね。許してもらえて」


「許す許さないの問題じゃないだろ? あー恥ずかしい」


折った両脚の膝に顔を埋めて丸くなる。


「亀になっときな」


「うるさい」


毒舌を吐いたわたしに顔を埋めたままそう言い返して来た。


一週間は稲本をからかえそうなネタにニンマリした。



最後のクラブ紹介は、華やかなチアリーディング部だった。


地味な剣道部とは雰囲気が全然違う。


スカイブルー色のミニスカートのユニフォームを着た十五名ほどの女生徒がゾロゾロ現れた。


会場内に流れ出したアップテンポの洋楽と共に幾つもの金色のポンポンが宙に舞った。


全員弾けるような笑顔で五人一組の円陣を組み始めた。


三つのグループに分かれ、その中の一人がいきなりジャンプして別の二人に支えられ、軽々と中心にいた一人の肩の上に乗った。


そのまま大きく手を上げ、開脚しながらフワリと飛び降りる。


「え? 嘘?」


人が人の肩にあんなに軽々乗れるものなの?


すると、今度は大きな円陣を組み、二人が肩の上に飛び乗り、その二人の肩の上にもう一人が飛び乗り、三段ピラミッドが出来た。


ポーズを決め、そのまま、もう一度開脚しながらフワリと上から順に飛び降りると会場内から大きな拍手が響いた。


会場内の視線はすべてその華やかでキラキラした女子生徒たちに注がれた。


カワイイ……


初めて見たチアリーディング。


可愛く束ねられたポニーテールを揺らしながら、床を飛び跳ね一回転、二回転、三回転。


凄い……


ミニスカートから健康的な足がチラチラ見えて、隣に座る稲本も半分口が開いたままだ。


イヤ、稲本だけじゃなく、周りに居る男子生徒はみんな呆気にとられた顔をしている。


それほど、チアリーディング部の演技は華やかでちょっと男子生徒には刺激的でとても輝いていた。


「稲本……ヨダレ出てる」


口を開けたままの稲本が


「嘘?」


そう言いながら口をブレザーの袖口で拭う。


「ちょっと……稲本、汚たないよ。新しいブレザーなのに」


「イヤ……マジヨダレ出そうだった。スゲー。一気に目が覚めた」


「確かにカワイイよね」


時間が来たのか、華やかな女子生徒たちは、直ぐに舞台から消えて、代わりに体育教師が現れマイクを持った。


クラブ紹介終了の合図で、会場内がざわめき、生徒たち一同が席を立ち始めた。





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