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初めては幼なじみⅡ  作者: 亜果利
10/12

サプライズ休日   ~稲本和也Side~


高校に入学して一カ月が経った。


ゴールデンウィークの最後の休日。


ベッドで目覚め、時計に目をやる。


朝の九時を回り、日差しが眩し過ぎて、目を細めた。


頭の中は寝ぼけたまま。


遠征を終えたばかりで、監督でもある笹川先生からのサプライズ休日になった。


休日など期待していなかったのに……


枕元に置いてあった携帯を手にした。


彼女でもある日高美波からのメールが一通。


中を見ると、大学の休講日らしく実家に帰って来たと書いてあった。


自分も今日は部活が休みになったと返信メールを送った。


直ぐに返事のメールが届いた。


『会う?』


会おうでもなく、会いたいでもなく疑問符が付いた一言。


「どっちでもいい」


それだけ書いて返信した。


たった一カ月しか経っていない遠距離恋愛。


一カ月前なら、こんなやり取りのメールなどしなかった。


俺自身も、どう言えば相手が喜ぶかをいちいち考えてメールを打っていた。


美波もそうだった。彼氏としての俺に、もっと、気を使っていたように思う。


遠距離恋愛一カ月……


恋愛ってそんなものなのか?


これは、自分に向けての言葉でもあり、美波に向けてへの言葉でもあった。


離れちまうと相手への気づかいさえ無くなるものなのか?


それから美波からの返信メールはなかった。


会うのか会わないのか、予定も決まらないまま、ベッドの上で携帯を癖のように操作した。


液晶画面に出てきたのは、あのウコン桜と、それを見上げた真菜の横顔だった。


この横顔をどれほどの時間見て来たんだろう。


いつも明るく甘えっ子だった小学生の頃からだ。


それが恋だと気付きもしていなかった。


ただ、大事なものだと思っていた。


真菜の父親の急死で、その笑顔が突然消えた。


周りの子たちも、教師さえ、意外と元気そうだと当時の真菜のことを語っていたけど、俺にはそうは見えなかった。


俺の大事な屈託のない笑顔が、まるで明るさを失っていた。


真菜は笑っている。いつもニコニコ笑っている。


笑っているけど、俺には、モノクロ写真のようにしか見えていなかった。


明るさをまるっきり失っていた。


そんな真菜に俺は何も言い出せずにいる。


あの頃も、今も……


自分が心から笑わせてやるとか、そんな威勢のいい力など、俺にあるはずもなく、ただ、時間だけが過ぎて行く。


一年前、姉の友達でもあった美波に告白された。


家に来る度、姉を交えてゲームをしたりしていたけど、特別な感情はなかった。


そして、何気に真菜に相談してみた。


半分、真菜の気持ちをさぐるように。


『付き合ってみれば? 何事も経験だよ』


撃沈って言葉が胸に刺さったことだけは覚えている。


その言葉どおり、俺は美波と付き合うことにした。


ただ、真菜への思いを断ち切る為にとか、そんな大げさなことじゃなかった。


真菜が言ったように、何事も経験だと思ったからだった。


軽い気持ちだった。


そんな幼い気持ちの俺に対し、美波は四つも年上で、姉なんかより遥かに恋愛経験のある女の子だった。


そんな相手に翻弄され、流されるまま今に至る。


相手が好きだとか、愛しているとか、そんな感情が産まれる前に、欲情のまま流された俺がいる。


心と身体の分裂は自分が一番よく分かっている。


映し出された真菜の横顔は、そんな俺なんかより何倍も無垢で綺麗だ。


手にしていた携帯をベッド脇に放り投げた。


弱くて、何も言い出せない汚い自分がいる。


顔に腕を押し付け、そのまま目を閉じた。





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