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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雪道とストラップシューズの選択肢

作者: カノン

ガールズラブ的な要素を含みます。ご注意ください。


雪が深い季節。

彼女を思い積もる気持ちに、恋という名前は付けようもなく。痛い。冷たい。



私の帰宅時の格好。


高校生向けブランドのダッフルコートに、駅を歩く女子高生の8割が付けているBURBERRYのマフラー、切るような風の中、生足でとおす程のプライドもなく、素直に学校が推奨する黒タイツ。


靴だけは無理をして、雪道でもローファーでざくざくと歩く。制服にブーツは合わない。



隣を歩く彼女は、対照的だ。少なくとも私にはそう思えた。


白い息を吐く彼女は、丈の短いPコートをきている。ただでさえ着ぶくれするブレザーの上に着られるのは、華奢な彼女だからできる選択。Vivienne Westwoodの白いマフラー。参考書が詰まったリュックは髑髏のワッペンに、大小の安全ピンがデコレイトされたコテコテにパンクな逸品。肩にかかるベルトに手をかけて不安定に歩いている。足下は、ヒールの高いストラップシューズ。彼女はとても背が低いので、ヒールのある靴を履いても、平均身長より低い私とようやく並ぶ高さになる。



他の人と違う。


コートでも、マフラーでも。人に紛れるために、悪目立ちしないために、大多数と同じものを身につける私と違う。


自分の価値観で物を選ぶ。そしてそれがとても似合っている。彼女。



それだけで、私はあっという間に彼女に憧れたし、尊敬すべき相手になった。


ほかの人たちから距離をとりながらも、彼女はクラスで注目されていた。


私はそれを知っている。


彼女は知らないか、知っていたとしたらその視線に少しの快感と、それより少し多めに恐怖を覚えていたと思う。



でなければ、私なんかといっしょに居てくれるはずがない。


私はまあるい顔も体型も、いうことをきかない癖毛も、全身がコンプレックスで塗りたくられている。


それでもクラスの中での私は、よく笑って、優しくて、人を傷つけない術を知っている。

16才なりに歪みきった自我を、折り目正しい制服に押し込めることができる。


いってしまえば、それだけの私。

対照的な彼女。


私と彼女は、無言でいる時間が長かった。



『ただ黙って、いっしょに居られて、安心できる相手って貴重だね。』



いつか交わした会話をなんとはなく思い出して。


無理に言葉を探さなくて良いことに甘えて(どちらが発したかもわからないあの言葉はもしかしたら不器用な牽制だったのかも)。


無言のまま、並んで歩きにくい雪道を進んだ。

クラスの違う私たちも、駅前まで着けば、並んで塾の授業を受けるのだ。教室はとても暖かいだろう。


隣に彼女がいたらそれだけで。


夢想する。

同時に、冷静に「恋心」を否定する。雪が吹きすさぶのに任せて凍らせる。


自分か世界を卑下することでようやくバランスをとっているような均衡。

自分の作り出した世界と自分とで、喰らい合い潰し合い血を流し合う満身創痍で不機嫌な年頃のありさま。


そんなときに、世界観を昇華してくれる同性の女の子に憧れて、その子の笑顔に、冗談のように貰える甘い言葉に、くらりくらり、酩酊してしまうような。



そんな憧れ、よくあること。

そんなの、今のうちだけ。

っていうことを。



私は知ってる。だから凍らせる。



ふいに、彼女が話し出す。


赤いバックに、活発なショートヘア、強い目。とてもピアノが上手なこと。クラスで一目置かれる気丈な性格。


ぽつりぽつりと、懸命に、のどが切れそうな寒さの中、頬を赤くして。

彼女が同じクラスの女の子のことを、その子と交わした会話を伝えてくる。


閉じた女子校の、憧れなんて。彼女が好き、なんて。

今のうちだけ。


だから嫉妬なんてしないし。



丁寧に相づちをうつ、自分をみじめだなんて思わないから。

「そこ、滑るよ」なんて、せめて手をつながせて。


ささやかな一瞬の事象だけ覚えている「私」の話です。断片的に続きます。

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