Track.07 Party table
「お願い!! 犯人を捜して!!」
「まあまあ。落ち着いて、お嬢さん?」
机に両手をダン、と打ち付けたハニエルを、グレイは珍しく困ったような様子で宥めた。ハニエルの隣に座っていた彼女のマネージャーの千川奏は、また始まった、とでもいうかのように小さくため息をついている。他の者はといえば、既にやや気圧されているリオード、同じく存在感をなるべく薄くしようとしているイチカ、腕を組んで大人しくその場の成り行きを見守っているシエン、あからさまに嫌そうな表情を浮かべているジム、といった様子である。ちなみに、デオはといえば、彼女たちの来訪をどういうわけか察知したジムによって雑用を押し付けられ、前回同様この場から追い払われていた。
そんな周囲の反応を気にせず、ハニエルはわなわなと握った拳を震わせて続ける。
「イチカちゃんに脅迫するとか信じられない……! コラボライブは私だって楽しみにしてたし、イチカちゃんからステージに立つつもりはないって聞いた時はすごく残念だったよ? でも、それでイチカちゃんを脅すのは違くない!? イチカちゃんはすーっごく良い子だし、ライブどうこうは置いといてもこんなに可愛い子が脅されてるとかマジわけわかんない!!!!」
「あー……要するに?」
「そいつを見つけてぶっ潰して!!」
引き気味でリオードが「桜殷島のアイドルとは思えないセリフだ……」とこぼすと、千川はまたため息をつき、「彼女も出身はこの街ですから……くれぐれも、今見たことはご内密に」と注意を促した。
「却下だ。まったく、うちは衛兵組織じゃねえんだぞ?」
部屋の片隅の椅子で肘をつき、ジムは不満げに答えた。すると、ハニエルは思い切り頬を膨らませて、幼さを纏いながら可愛らしく抗議する。しかし、彼女も子どもではない。しばらくしてそれが通用しないと理解すると、やがて落ち着いた雰囲気でジムの方を向いた。
「えーと、じゃあ……。まずは、脅迫状を送った人を特定して欲しい。それから、その人がイチカちゃんに危害を加えないように見張って欲しい。この二つなら、どう?」
「だから『見張り』って、そりゃあつまるところ護衛じゃねえか。そういう仕事ならシエンが――」
「悪いな。先約が出来ちまったんだ」
この時を待っていた、という態度でシエンがにやりと口角を上げる。ジムが目線をずらす。立ち上がったイチカは、真っ直ぐ前を見つめていた。
「……出ます。私、歌います」