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Track.03 Gentle Lounge

「深夜に、人影を見たんです」


 一つ唾をのみ込むと、男性は四角い眼鏡の鼻当てのあたりをくいと押し上げた。


「先ほどのお話だと……ジュニアハイスクールで、ということですか?」

「ええ、はい」

「それは、なんというか……。スクールも随分ブラックな職場になりましたね」

「まあ、時代が時代ですから。致し方ありませんね」

「はあ。そういうものですか」


 ローファード・ハウスの代表を務めるグレイ・リバースは、適当な返事をしてひじ掛けにかけていた体重を背もたれに戻した。


「……って、そうじゃなくてですね!? 不審者ですよ、不審者!!」

「不審者、ですか。これは別に貴方を疑っているわけではありませんが……その、オカルト的な話ではないということで?」

「ええ! オカルトなんてサイエンティフィックじゃないですからね」


 グレイがふむ、と剃り切れていない顎髭をなぞると、それに促されるような形で教師は改めて説明し始めた。


「一日の業務を終えて、帰ろうとした時です。ちょうど、時計の針が天辺を越えるあたりだったかと思います。部屋を出て鍵を閉めていたら、視界の隅で影が動きまして。これはまさか侵入者ではないかと思って、私は追いかけたんです。すると、ふと廊下の突き当たりの鏡が目に入りましてね。何が映ったかといえば、真っ赤な血だったんですよ! 振り返って直視した現実でも、確かに理科室の扉の隙間からじわじわと鮮血が漏れ出ていたんです! それで思わず私は逃げ帰ったんです。ですが」


 教師は息を整えて、話を続ける。


「翌日出勤すると、そこには何の痕跡も残っていませんでした。他の先生方にもこのことはお伝えしましたが、皆『きっと疲れていただけに違いない』、と。でも、ただの偶然の幻覚にしてはおかしいと、私は思うんです」

「と、いいますと?」

「私の勤め先のジュニアハイスクールにも、所謂セブン・ワンダーなるものがありましてね。正直にお話するのであれば、六つ目までは、トイレに隠れている少女だとか、動く絵画だとか、よくある子どもたちの作り話にすぎないんです。しかし、七つ目だけはそうはいきません。『深夜零時、突き当たりの鏡の中の理科室から血が流れ出る』……これだけは、どうもとってつけたような生々しさがある。それに、やけに今回のシチュエーションに沿い過ぎているとは思いませんか」

「あー……つまり先生は、意図的にセブン・ワンダーの七つ目の噂を流し、それになぞらえて何者かを害した不審者が潜んでいるのではないかと、そうお考えなんですね?」


 教師は再び鼻当てをカチャリと鳴らして、「ええ、まさしく」と返事した。


「不審者は早く捕まえなければ、子どもたちの学習に悪い影響を与えかねませんからね。……そろそろ行かなくては。では、後は頼みます」

「……謹んでお受けしますよ、先生」


 軋んだ扉がやがて、バタン、と閉まる。グレイは組んでいた両手の指をほどき、茶色の癖毛を雑にかいた。


「さーて。今回はどっちかな~……?」

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