表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

Track.12 funk01

「あんた、行かなくてよかったのかい? 知り合いだったんだろう」


 カレッジから少し離れたポリスのオフィス近く、壁にもたれかかっている白髪の女性がジムを見下ろして言った。彼女の名前は、ティアナ・ジルク。この街の治安維持組織を統括する立場の人間である。

 適当な段差に腰かけていたジムは、不服そうな声で返事する。


「関係者テントに顔は出した。会場にはあの忠犬が向かってんだし、犯人確保も後は待つだけだ。つまり、ライブが終わった瞬間に全て解決して、一件落着。……何か問題でも?」

「またそうやって……。スクールフェスティバルなんて、行く機会もそうそうないだろう。こういう時くらい歳相応にはしゃいで来たらどうだい、って言ってるんだよ」

「はっ、別に興味ないね」

「せっかくの知り合いの晴れ舞台だってのに」

「近くで見る必要もないだろ。あいつの声はよくとおるからな」

「うまいこと言っときゃあ誤魔化せると思ってるんじゃないよ、小娘」

「っせえな、クソババア」


 ジムは不満げに道端の小石を蹴り飛ばした。それは数回跳ねたのち、明らかに速度違反の車のタイヤに跳ねられ、見失われてしまった。


「……あ、ジムさん! おつかれさまです!」

「おや、ジム。堂々とサボタージュかな?」


 車の走行音の後に耳に飛び込んできたのは、リオードとグレイの声だった。ちょうど仕事が終わり、事務所に戻るところだったらしい。両足を路上に放り投げたまま「まさか。全部終わってるっつーの」とジムが答えれば、「うーん、さすがだねえ」とグレイは納得したように腕を組んだ。


「ほら、お迎えだよ、じゃじゃ馬娘。さっさと帰りな」

「誰がじゃじゃ馬娘だよ。言われなくても帰るっつーの」


 「よっ」と息を吐きながら、ジムは軽く勢いをつけて立ち上がった。砂ぼこりを払っていると、どこかからまた別の声が飛び込んでくる。


「あっ、ジムはん!!」

「げ」

「『げ』ってひどない? そんな扱いされたら、わいもさすがに悲しいわあ。しくしく」

「せめてもっとましな嘘泣きしろよ」

「おっ! ジムはんからツッコミが貰えるなんて、今日はラッキーやなあ」

「うっざ」

「……って、あっ、ちょ、どこ行くん!?」

「帰る」

「なら道一緒やん。なあ~、一緒に帰ろうやあ~?」

「キショ。……おい、馬鹿、近寄ってくんな。クソッ……!」

「えっ!? ジムさん!?」


 リオードの声を無視して、ジムは黄昏始めた街の中へ飛び込んで行った。続いて、それを追いかけるようにデオも走り出す。リオードは相変わらず状況をのみ込めていないようだが、慌てた様子で二人の背中について行こうと一歩を踏み出した。

 グレイはしばらくそんな三人の若者の後姿を見つめていたが、少ししてティアナの方に向き直ると、小さく笑みを浮かべた。ティアナからは、呆れ交じりのため息が返ってきただけだった。しかし、想定の範疇だったのか、グレイは何も言わずに帰りの方角を見つめた。そして、三人に置いていかれるのも気にせず、自分のペースでゆっくりと革靴を鳴らし始めた。


「……あそこも随分にぎやかになったもんだね。騒がしいったらありゃしないよ、まったく」


 大きさも形も違う四つの影を見送ると、ティアナは一息ついてオフィスの中へと戻っていった。その時、ティアナの口角が僅かに持ち上がっていたことを知る者は、きっといない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ